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【ショートショート】サバイバル・ロッタリー

「臓器くじ」って知ってます?サバイバル・ロッタリーって言ったりもするんですけど、いわゆる思考実験の一つです。ちょっと説明しますね。

 公平なくじで健康な人を一人殺します。そして、その人の臓器をすべて取り出して、臓器移植が必要な人達に配る。こういう制度が倫理的に許されるかって問題です。

 一応条件があって、一つはくじに絶対に不正がないってこと。もう一つは移植の技術は完璧で、必ず手術は成功するってこと。最後の条件は人を殺す以外に臓器を得る手段がないってこと。

 社会全体として幸福な人が増えるわけだから、受け入れざるを得ないんじゃないかって意見がありますよね。なんでしたっけ。そうだ、「最大多数の最大幸福」ってやつです。

 でも僕は絶対反対ですね。だって病気で亡くなるのは自然だけど、くじで殺されるって人為的じゃないですか。意味が全然違うと思いません?

 僕、学生時代めちゃくちゃ勉強を頑張って今は医者になったんです。医者ってなった後も大変なんですよ。ずっと勉強しなくちゃいけないし、やりたくもない手術があっても上司の命令じゃ逆らえませんから。それに余命宣告みたいな気が重くなるような仕事だってあるわけです。

 もし僕がくじに当たったらどうでしょう。なんで!?って思いますよ。不健康な人間のために僕みたいな頑張ってきた人間が犠牲になるなんて不公平だと思いませんか。

 それに臓器をもらう人が善人ばかりだったらいいですよ。でもそうとは限らない。中には将来犯罪を犯す奴だっているかもしれません。

 でも臓器をもらう立場なら良い制度かもしれませんね。そりゃ最初は罪悪感はあるかもしれないけど、助かる可能性を少しでも上げたいって気持ちはわからなくはないですし。

 まあこれってあくまで思考実験ですからね。知ってました?思考実験って答えがないんですよ。

 でも実際に考えてみると、この制度って土台無理な話なんですよ。考えてもみてください。前提条件がおかしいと思いませんか。そんなくじがあったら絶対不正はありますし、手術が必ず成功するのもあり得ない。それにこんな制度を国民が受け入れるはずがない。つまり、ただの机上の空論ってわけです。

 僕ばっかり話してますね。すみません。
 ちなみにあなたはどう思います?

 あ、そうか。そろそろ麻酔が効いてますね。

 薄々気づいてると思いますけど、あなた臓器くじに当たりましてね。僕がこれから手術を担当するってわけです。勘違いしないでくださいよ。さっきも言った通り、僕はこの制度には絶対反対です。

 化けて出るならこんな制度を勝手に決めた政治家の方にお願いしますよ。僕は国の命令に従ってるだけですから。一応説明の義務があるみたいなので、お話しさせてもらいました。

 国家ってのは恐ろしいですよ。国民の知らないうちにいろんなことが決まっていきます。僕もこんな制度があるなんて最近まで知らなかったですし。あなただって本当にくじに当たったかどうかも怪しいもんですよ。

 どこかの誰かの身代わりだったりして。

 あれ?これは言っちゃいけないやつだったかな?まあ今更どうでもいいですよね。そろそろ手術を始めます。大丈夫、僕も精いっぱい頑張りますから。

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