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無意識に顧客を怒らせる人たち

4年前に某アウトソーシング系コールセンターのSVになった私は、まずは一般顧客向けの窓口で働き、のちにクレーム対応専任チームへ異動しました。

ここで初めて、私は重篤化した案件を対応することになります。

応対クレームで膠着した案件はまだ可愛い方で、製品の不備で補償を求められたり、それが元でネットや新聞に情報を拡散されることを示唆されたり、弁護士への相談や訴訟をほのめかされたり、果ては犯罪予告されるなど、日常的にこういった顧客と向き合いました。

まずは私の直属の部下が上席として対応して、それでも解決できなかった場合は、私に交代していました。

しかし、本業は電話対応とは別にありました。

私たちSVは、クレームの分析をメインで行っていました。毎日、数千という電話が入り、そのうち100件弱の案件が重篤化します。つまり、顧客のうち数パーセントは、社に対して強い不満を感じているということです。これらの不満を根本から断ち切らないと、社の存続にも関わるわけです。

クレーム対応専任者としての視点で、データを分析して、応対品質改善に関する施策を打ったり、クライアントにアラートを出したり、といったことが、私に求められた仕事でした。

とはいえ、データ分析だけできて、顧客対応ができないSVなど、ベテラン対応者から信頼されるわけがありません。何より、クレーム対応専任者の視点でデータを分析しようにも、当時の私は、重篤化した案件など、ほとんど対応したことがありませんでした。

ここは企業の情報に関わるので詳しくは控えますが、クレーム対応専任チームのSVになった最初の3か月は、先人たちから「教育」と称したロープレ(先人=顧客役、私=対応者役で模擬対応を行うこと)やフィードバックをみっちり施されました。

なぜか電話対応者(=定義上は、私の部下)がいる横でロープレが行われ、ミスったら、なぜか彼らの横でゴリゴリに詰められるわけです。
周りから「(こいつ、あれだけ言われてよく出勤できるな)…大丈夫?お菓子食べる?」と毎日のように言われるくらい、ゴッスゴスな洗礼を受けたのです。
そうやって周りから同情を誘い、協力してもらえるように仕向ける、という先人の粋な計らいだと思われる方もいるかもしれませんが、叱るときのあの恍惚とした表情をご覧に入れたい。


話が逸れました。SVの本業はあくまでデータ分析です。
そのヒントを探るべく、その界隈で有名な講師の講義を受けたり(費用は会社負担)、休日には書店に立ち寄って専門書を読み漁ったりと、勤勉とも洗脳ともとれる毎日を過ごしました。

ちょうどこの頃、クレーム対応のコンサル企業を立ち上げておられる援川聡(えんかわ さとる)さんの本に触れたり、学生時代に産業心理学で紹介されたアドラーを学びなおしたりしました。そうやって、聞く、読む、模索すると繰り返して、得た知識を分析に役立てる…たまに何も解決策が見いだせず、終電ギリギリまで対応者のモニタリング(=録音を聞くこと)を行うこともありました。

前置きが長くなりました…

当時、モニタリングを行いつつ感じたことが、今回伝えたいことです。

まずは大前提なんですが、クレームになりやすい人と、なりにくい人が存在します。「あなたじゃ話にならない、別の人に代わって」と言われやすい人と、そういったシビアな顧客からも許容される人がいます。消費者センターなどの第三者機関に波及しやすい対応者と、そうでない人がいます。
ある人は1か月で数十件、案件を重篤化させており、ある人は1件も重篤化させていない、ということはザラにあります。

少なくとも50人以上は、クレームになりやすい人のモニタリングを行いました。ほぼ全員に対して、漠然とした嫌な印象を抱きました。
一言で言えば「拙いな」「印象悪いな」といった気持ちです。

なぜそう思ったのか?当時の記憶を頼りに考えてみます。

まずは仮想例を出します。
悪印象を受けたのは、こういった言動をする対応者でした。

仮想例:

家電量販店のコールセンターに電話があった。
顧客は自宅から10km離れた家電量販店に、某ゲーム機の在庫があるかを知りたかった。このため、コールセンターに電話した。その際、対応者からは2台在庫ありと案内受けた。
3時間後、実際に訪れてみると、ゲーム機は品切れとなっていた。不満を感じた顧客は再度コールセンターに電話し、2人目の対応者に繋がった。

顧客「さっきの女の子、嘘じゃないか。ここの量販店で買えるって聞いたぞ?在庫ないってどういうことだよ?」
対応者「ですので、問い合わせ頂いてから今まで3時間経過しております。この間で品切れになったんです」

顧客「じゃあ謝れよ。時間を無駄にしたし、あなた最初から全然謝らないじゃないか」
対応者「ですが、申し訳ないという無駄な言葉を使うなと言ったのはお客様です」

顧客「とにかく、なんで予約の提案しなかったんだよ。言われたらしてたよ」
対応者「そこは申し訳なく思いますが、運用上予約は厳しいんです」
顧客「なんでだよ」
対応者「わかりません
顧客「はぁ?」

さて、太字で記載したのが、「その言い方どうなん」って思った部分なのですが、なぜそう思ったのか??

…本にそう書いてあったからです。

こんな答えでは何の足しにもなりませんし、感じ悪いですね。実際に書かれていたといえばそうなのですが(援川さんの本で「D言葉」として紹介)、「本に書かれていることは全て正しい」と感じるのは、凄くやばい人だと思います。
この「なんか、拙いな」「印象良くないな」という感覚をもうちょっと考えます。

いったん電話対応から離れてみます。日常的に接する人の中から、私が思う「拙い人」「悪印象な人」の特徴を書きます。

・偉そう
・すぐ人のせいにする
・自分の話ばっかりする

…書いてみて、誰に対してもそうでないことに気づきます。

例えば、偉そうな上司は苦手ですが、偉そうな後輩は「若いなぁ」と許容している節もあります。少なくとも、苦手ではないです。
なので、上の3つは「絶対に嫌ではないけど、人によっては許容できない」ということなんでしょう。では、誰がどうだったら嫌か、ということも記載します。

・偉そう(上司)
・すぐ人のせいにする(同僚)
・自分の話ばっかりする(上司)

なぜ、偉そうな上司は許容できず、偉そうな後輩は許せるのか?
なぜ、自分の話ばっかりする上司は苦手で、部下はそうでもないのか?

これはおそらく、私が上司/部下に期待するものが異なるからです。その期待を裏切られるから嫌になり、期待していないから嫌ではないのでしょう。

私は上司に「公平さ」と「包容力」を求めます。
「偉そう」も「自分の話ばっかりする」ことも、これとは対極にあります。だから、実際にそういった上司にあたると、嫌な気持ちになるのです。
それも、ちょっと過剰なくらいに嫌になります。
部下にこの2つは求めません。そこまで出来た部下だと、自分自身に負い目を感じるからです。

同じように、同僚には「フォローしあうこと」を期待します。共同作業が失敗して、即、私のせいにされたら、部下や上司にされるよりも「はぁ!?」と思います。

思えば、ネットで炎上する事象も、大衆の期待を裏切ったために起こるものかもしれませんね。

私はシバターが好きなのですが、彼が言って炎上しないことでも、ヒカキンが言ったら確実に炎上するだろうことってありますよね。
ヒカキンが炎上するのは稀ですが、それでもなかったわけではありません。
で、実際に炎上したのを見て「みんな過剰に反応しすぎじゃないか?」と思ったのです。


おそらく、多くの顧客も我々電話対応者にいろんな期待をしています。おおよその場合、それは「謙虚さ」だと思います。

それを期待している人たちが、太字の言葉を投げかけられた場合どう思うでしょうか。言葉単体で見たら、いずれも「謙虚さ」とは対極にあると思いませんか。これを言われたら不快に感じます。それも、過剰に。

・ですので
∟何回も説明しているけど、あなた理解力ないですよね?という意味。

・ですが
∟これからあなたに反論します(反抗的な物言い)。

・わかりません
∟不誠実/無責任

他、極力使用しない方が良い(と、私は思う)言葉/態度を記載します。
いずれも顧客と電話対応者との間では、望ましくない言葉だと感じます。上の3つと同様、∟で記載するのは、顧客にどう伝わるか(少なくとも、伝わりかねないか)ということです。

・できません
∟あなたの期待に沿うつもりは毛頭ありません(強い否定)。

・顧客が話終わる前に話し出す
∟あなたの話は長いし、聞くに堪えない。

また、謙虚さよりも同調/同情を期待してくる顧客には特に、以下の言葉は控えた方が吉だと思います。

・(迷惑を被ったと主張された後で)さようでございますか/そうですか
∟他人事感。

何よりも迅速さを求める顧客からすれば、以下の言葉はより悪印象。

・(冒頭)あのー、ええと/語尾が伸びる
∟だらだらし過ぎ。他人の時間を何だと思っているのか?

補足です。補足ですが、重要です。
これらの言葉を、誰に対しても絶対に使わないで、というわけではないです。

例えば、「できません」という言葉は、謙虚さを強く求める方にはハマりませんが、白黒はっきりしてほしい気が強い人にはハマることもあります。

これは、絶対にこう言ってください、ということではなく、顧客が私たちに期待することを意識して言葉を選んでみてはどうか?という提案です。

著名なマナー講師や接客のスペシャリストが、テレビやYOUTUBEで色々レクチャーされています。参考になることも多々あるのですが、例えば「これを言えば間違いない!必殺ワード」なるものが紹介されることもあります。なんか、胡散臭いなと思います。

職場でもそうです。「顧客からこう言われた場合はこう返して!」ということを、厳然とした事実であるかのように、不変の真理であるかのように仰る方がいますが、私はそういう人たちを警戒しています。

要は、どんな言葉でも、顧客の期待の仕方や話の脈しだいだと思います。それ次第で、大いに怒りを増長することにもなりますし、許容されたりします。

要は、ウケやすい言葉はあるでしょうが、完璧な言葉はないと思います。
反感を買いやすい言葉はありますが、絶対に駄目な言葉はすごく限られます。

要は、絶対にこう!という人は、肝心の顧客の意向をフル無視しているような気がするのです。点だけ見て、線で見てないような気がするのです。わかりやすい教えを説く人を、私はほんの少し軽蔑してしまうのです。

クレームの分析をして感じたのは、クレームになりにくい人となりやすい人が明確に存在することでした。で、なりにくい人の大半が、顧客が何を期待しているのかを意識しつつ、それぞれの顧客にとっての地雷ワードを把握して、避けていました。

クレームに辟易している人がいらっしゃるのであれば、まずは自身がクレームを作っているのでは?と自問自答されることをお勧めします。私も時々自問自答します。

不毛だとか言って顧客を非難するのはその次でしょう。

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