見出し画像

心霊現象再現ドラマ・『霊のうごめく家』9

 除霊
 
 ショット61
 約14秒のショット。オレンジ色のフィルターが掛けられた望遠レンズとその圧縮効果によって、住宅地を並んで歩く父親と霊能者の女性を撮影したショットである。
 
 ショット62
 約6秒のショット。黒バックに字幕が表示される。

「父は親戚の紹介で、萩市に
居る霊能者を家に連れてきた」
 

 ショット63
 約33秒のショット。玄関に並んで立つ父親と霊能者の女性を捉えたカメラは徐々に引いていき、迎え入れる母親をフレームに収めたあと、両親と霊能者が室内へ入ってフレームアウト。玄関先に置かれたカメラのフレームには、陽子だけが残される。
 

 ショット64
 約22秒のショット。「仏壇の跡」が残っている和室のショットだが、しばしば「小津ショット」と呼ばれる日本の畳部屋をローアングルから撮影した方法を踏襲している。それぞれ画面に背をむけて、左右に正座する両親をローアングルで撮影しているため、ふたりが感じるプレッシャーが背中を撮るだけで表現されている。そこへ霊能者がやってきて、画面奥の中央へ坐り、両親へむかって頭を下げる。
 

 ショット65~67
 ショット65は約12秒、ショット66は約17秒、ショット67は29秒。この一連のショットなのだが、ここで鶴田法男は「恐怖の方程式」から決定的に逸脱。霊能者の表情、仏具を並べる手つき、念仏を唱える様子を丹念に演出している。

 この愛着すら感じる演出には、子ども時代に幽霊を目撃してしまった鶴田法男が、その原体験を演出に反映し続ける姿勢と、あくまでも幽霊の存在を否定したうえでホラー映画と心霊番組を分析して「疑似ドキュメンタリ」と「恐怖の方程式」の方法論を開発した小中千昭の決定的な違いが垣間見える。実際、霊能者の演出と演技には、作り手の猜疑心が感じられず、安心感や信頼感すら帯びている。ショット67から、サウンドトラックは霊能者が唱える念仏が占めるようになる。
 
 ショット68
 約9秒間のショット。画面手前に位置する母親は丁寧に合掌し、それを見た父親はしぶしぶ合掌する。ショット69ではショット67が約1秒だけ反復され、画面中央に霊能者、左奥に母親、右奥に父親という位置関係になっている。
 

 ショット70
 約27秒のショットだが、ここでカメラは主観のショットで使用されていた手持ち撮影となるものの、誰の主観も代弁していない。不安定なカメラは所在なさげにダイニングに立っている陽子を撮るが、黙ったまま陽子は画面左にむかって駆け出してフレームアウト。左へパンしたカメラは陽子を捉えるも、陽子は玄関にむかって駆け出す。だがカメラは右へパン移動、無人となったダイニングに留まったまま。
 

 ショット71
 約4秒間のショット。除霊を行う霊能者の目元のアップ。ここから徐々に、サウンドトラックは念仏とトーン・クラスター風のシンセサイザーとミキシングされていく。
 

 ショット72
 約8秒のショット。玄関から庭先に歩み出た陽子は、なにかに向かってじっと視線を投げかける。
 

 ショット73
 約3秒間のショット。真昼の道路、そこに立つ電柱の横に、黒い服装に紫がかった顔色の男の幽霊が棒立ちで立っている。その出で立ちは幽霊に見える平面さと同時に、フランケンシュタインの怪物を連想させなくもない。陽子のイマジナリー・ラインは、男の幽霊の視線とあう。
 

 ショット74
 約2秒のショット。真剣に合掌する母親を正面から撮ったもの。
 

 ショット75
 約9秒間のショット。合掌する父親だが、目は開き、顔の表情は胡散臭い気持ちを隠し切れない。
 

 ショット76
 約2秒間のショット。カメラは斜め右から、陽子の無表情な顔を撮る。
 

 ショット77
 約4秒のショット。ショット72と画面構成は同じだが、男の幽霊は直立不動のまま、首だけを横に振る。ここでも「首」だ。直立不動のまま、機械的に首を動かすアクションが、ヒトではない異様さを表現する。
 
 
 ショット78
 約3秒間のショット。霊能者の手のアップ。
 
 
 ショット79
 約3秒間のショット。霊能者の目元のアップ。
 

 ショット80
 約9秒間のショット。このショットに切り替わった瞬間、サウンドトラックを占めていた念仏とトーン・クラスター風のシンセサイザーは、突然終わる。画面構成はふたたび、中央に霊能者、左奥に母親、右奥に父親の構成に戻る。除霊の儀式は終わった。
 

 ショット81
 霊能者は黙ったまま頭を下げる。
 

 ショット81
霊能者は水を一杯ほしいと告げ、母親は少し慌て気味に対応する。
 

 ショット82
 約6秒間のショット。陽子は相変わらず無表情のまま、幽霊が立っていた場所を見つめているが…
 
 
 ショット83
 陽子の視線の先には、もう幽霊はいない。サウンドトラックも住宅街の環境音に包まれ、平静さを取り戻したようだ。しかし…。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?