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体験記 〜摂食障害の果てに〜 (12)

コロナが治った

 息が苦しくて、(ひょっとしたら、息を止めた方が楽かもしれない。)と、考え、息を止めてみました。でも、しばらくしたら、やっぱり苦しいような気がして、また息を再開する、という事を繰り返しました。息をしていても、次第に息が止まってしまって、無呼吸になることも度々ありました。意識して呼吸するのですが、あまりに苦しくなって、看護師さんに、
「今、呼吸数が0になりました。」
 と、伝えると、心電図と心拍数と呼吸数、酸素濃度を計測する機械を見て、
「機械ですから、あくまでも目安です。すぐ戻ります。」
 と、言われて、何もしてもらえませんでした。
 それから二~三日経って、「コロナが治った。」と、言われました。最初、『二~三週間治らない』と言われたのに、驚きました。十日くらいで治ったのです。なんだか拍子抜けしました。私がコロナ感染する前は、毎日、何百人というコロナ感染の死者がテレビで報道されていました。運が悪ければ、骨になって家に帰されることだってあるのです。早期発見と薬のおかげで助かりました。『治った』と、聞いた次の瞬間、
『家族に会える!』
 と、期待しました。家にかえれるかな? と思いましたが、さすがに立てないし、起き上がれない状態で、歩けもしないのだから、帰れるわけがない、と思い直しました。看護師さんに、せめて家族に会えるかどうか尋ねてみると、
「会えません。」
 と、言われました。
 部屋を移る為、看護師さんは私の荷物を大きなナイロン袋にまとめました。荷物の内容は、私が着てきたオーバーやセーター類と家族からの差し入れでした。服は、コロナの菌がなくなるまで二十一日間ほど、ナイロン詰にしておくのだそうです。
 纏めた荷物一式を私のベッドの足元に乗せ、いよいよ、一般病棟へ引越しです。私はベッドに寝たままで、看護師さん二人がそのベッドを押して行くのです。移動の為に来てくれた看護師さんは、いつもの防護マスクではなく、普通のマスクをしていました。もう、コロナが移る心配がなくなったからだ、と思うと、本当にコロナが治ったんだなあ、と実感しました。ベッドが動き出すと、別世界に行く様な心地がしました。
 コロナ病棟は十日間ほどでしたが、優しい看護師さんとは、お別れするのが淋しかったです。でも、パンを口に突っ込んできたり、採血の時、ゴムバンドを、腕がちぎれるほどきつく締め上げた男の看護師さんと別れるのは、ほっとしました。一般病棟の看護師さんが優しいといいなあ、と思いました。
 一般病棟は、家族が大部屋を希望したそうで、六人部屋になりました。一般病棟の廊下では、新しい看護師さんたちが迎えに来てくれていて、ベッドからベッドへ看護師さん全員で持ち上げられ、移されました。看護師さんの仕事は力仕事が多いです。全員の掛け声で、タイミング良く行います。

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