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じわリスト〜その一言が秀逸すぎる〜(1)

みなさんはじめまして。安江水無と申します。
出版社に長年勤め、フリーランスとなって8年目となりました。
個人事業主にはなかなか厳しい世の中ですが、何か少しでも面白いことがやりたくて、これを書き始めました。
私の周りにいた、ただひたすらにバカバカしいとか、あとからじわじわ笑いが込み上げてくるような「じわリスト」たちをご紹介していきます。

※「じわリスト〜その一言が秀逸すぎる」の正しい読み方
最後のほうに「一言」が絵で書かれています。直前の文章まで読んでからスクロールして絵を見てみてください。2倍楽しめます♫

記念すべき第1回は、某通販会社のカタログを作っていたときの話です。その通販会社は従来から分厚いカタログを作っていたのですが、内容を刷新したい、もっとおしゃれにしたいということで、私を含め数名のライターやカメラマンが参加して新たに商品撮影をしたり、キャッチーな見出しをつけたりして、あれこれ工夫を凝らしながら制作にあたっていました。

いよいよ撮った写真と原稿をデザイナーのAさんに渡して、ページのデザインをしてもらう段階になりました。これまでと違っておしゃれに、見やすく、カッコよくしたいという先方のご要望だったので、私もその方向でラフを作り、Aさんにも伝えました。

数日後にできあがってきたデザインは、見た瞬間「おお…!」という素晴らしい仕上がりでした。よく見る通販カタログとは違い、洗練されていて素敵なライフスタイルが想像できそうな出来栄え。Aさんは私がそれまでよく一緒にお仕事をしていたデザイン会社の社長さんで、さすがの腕前だったのです。

それをクライアントである通販会社の人にさっそく見せ、数日後に返事が返ってきました。そこに書かれていたのは「もっと価格を赤文字で大きくする」「見出しを赤文字で大きくする」「余白はいらない」「説明文に黄色のアンダーラインを引く」という感じの修正指示でした。

読者のみなさん、うっすらお気づきですよね。そうなんです。その通りに修正すると、これまでの通販カタログとまったく同じイメージのページになってしまうんです。安さや機能性を全面に打ち出したいから写真のカッコよさやキャッチコピーの余韻などというものは全部いらない、そう言われたのも同然でした。

クライアントの担当者をあれやこれやと説得しましたが、ダメでした。クライアントの意向は絶体です。私はがっかりして、暗い気持ちでAさんのいるデザイン会社のドアを開けました。あんなに素敵にしてくれたのに、真逆の修正をお願いしなければならない……。Aさんはどんな顔をするだろうと……。

私はAさんに、決してAさんが悪いわけではないこと、クライアントを説得したけどダメだったこと、そしてこの修正をできるだけ最短で仕上げなければいけないこと、などを恐る恐る伝えました。すると、元来、口数の少ないAさんがおもむろに
立ち上がってパソコンの前に移動しつつ、こう言いました。



言いづらいことをもごもごしながらしゃべっていた私は未熟者でした。Aさんはとっくに悟りの境地だったのです。デザイナーとして「ダサくする」ことがどれほど屈辱だったか……本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでしたが、Aさんのプロ意識は並大抵のものではありませんでした。Aさんは自分の作ったデザインを見事に「ダサく」して仕上げ、クライアントさんにとても喜ばれました。

今回の学び「人(会社)は結局、そんなに変わりたいとは思っていない」

文/安江水無

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