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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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「The White Lotus」と ジェニファー・クーリッジ①



米ドラメディ(ドラマ+コメディ)で評判のいい「The White Lotus」(邦題は「ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾート」)を観ました。
現在シーズン2まで製作されています。(シーズン3は昨年の俳優組合のストの影響で制作が送れ、今年アジアを舞台に作られると言われています)

シーズン2が22年末に放送だったので一年以上遅れ。しかし先日からのゴールデン・グローブ賞、エミー賞の授賞式で話題になっていたし、前々から面白そうだと聞いていたので今回ビンジ・ウォッチング(一気見)してみました。
「The Last of Us」の演技で話題になっていたMurray Bartlett(ホテル支配人アルモンド役)が、この作品でも話題になっていたのも見ようと思った点。

「The White Lotus」とは?

シーズン1トレイラー

シーズン1は、ハワイにある高級リゾートホテル、ホワイト・ロータスで繰り広げられる人間模様を描いています。

・妻が成功している白人夫婦+子供(姉&弟)+姉の親友(黒人)
・新婚カップル(実家が金持ちの夫+トロフィーワイフという現実とライターとしてのキャリア志向に悩む妻)
・母親の遺灰を海に撒きに来た富豪の女性タニア

この3組にホテル従業員たちが関わっていきます。

シーズン1もシーズン2でも「パワーバランス」というのがテーマだと言われてます。そしてシーズン1では「お金」によるパワーバランスにフォーカスして描かれる。

場所がハワイということで白人によって植民地化された場所。
白人リッチ層と、有色人種&労働者階級&被搾取者層とのコントラスト。そこにある偽善、自己欺瞞、利己主義…。
登場人物たち(どちらの層も)は過剰に自己中で、表面上は関わり合っていながら全て噛み合ってないように見える。自分のことは悩みまくる人たちばかりだが、他人の視点で考えてみようということを恐ろしいほど誰もしない。

そして第1シーズンでは、最終的にリッチ層はまるで南の島を通過した台風のように被搾取者たちを散々振り回し、休暇が終われば普段の生活に戻っていく…。彼らは何も変わらない。この残酷な落差にも後味の悪い苦~い気持ちになる。

シーズン2トレイラー

シーズン2は舞台がイタリアのシチリアタオルミーナにある高級リゾート「ホワイト・ロータス」。

そして登場人物は、
・夫同士が学生時代に寮で同部屋だった親友同士という2組の夫婦。
キャメロン&ダフネ夫婦は裕福でルックス良しのイケイケ系。
イーサン&ハーパー夫婦はIT長者と弁護士の意識高い系。

・祖父、父、息子でシシリアに自分たちのルーツを探しに来た三世代家族。
祖父バート:女たらしで祖母を泣かせてきた。
父ドミニク:セックス中毒。浮気がバレて妻、娘から避けられている。
息子アルビー:祖父、父の女性への態度に不快感を持ってるフェミニストだが、やはり女に弱い。

・前シーズンに引き続いて登場の富豪女性タニア。シーズン1で知り合ったグレッグと結婚している。お世話係のポーシャを引き連れてくる。

この裕福な3組に地元の人間達が絡んでくる。
ホテルの従業員
地元の売春婦たち
シチリアに住んでいる裕福なゲイのグループ

シーズン2のパワーバランス「SEX(性)」にフォーカスしている。

二組夫婦からは、どちらのカップルが上かと競うパワーバランス、夫と妻という夫婦間のパワーバランス、そしてキャメロンとイーサンの男同士のマウントの取り合いのような同性同士のパワーバランス。

三世代家族はそれぞれの妻との関係、売春婦を通しての各男性陣の女性観や彼女たちとのパワーバランスも描く。

富豪女性タニアからは、夫グレッグとの関係、付き人ポーシャとのパワーバランスもあるけど、見どころはタニアとゲイ達との関係?パワーバランスと言っていいのかな?…その辺りです。

これまた登場人物だ~れも所謂善人はいなくて、皆何かしらの欠点や悪意を持っている。なので視聴者はそれほど感情移入することなく、客観的にこのドラマを観察する傍観者でいられる造りになっている。クリスティのミステリー作品のよう。ただそのことでキャラクターの動機や心理を深く考えたり想像したりの思考活動に集中できる=作品テーマへの深い没入感を得られる。いかにキャラへの感情移入をして貰うかに重きを置く傾向のある日本のドラマとはちょっと違うな~と思い知らされますね。

シーズン2はシーズン1とは逆に、富裕者層が悲惨だったり残念な結末になる。SEXにおいては、いつも富裕層側が必ずしも勝者になるとは限らないというメッセージだったのかもしれません。


*ここから先はネタバレ含み、ドラマを視聴したこと前提で書いてますのでご了承ください。

「The White Lotus」の気付けなかった色々

シーズン2の解説動画を観たり関連記事を読んで、教えてもらったこと、知ったことなんかを備忘録的に書いておきます。

Testa di Moro

Testa di Moro テスタ・ディ・モーロ(ムーア人の頭)

ホテル中に置かれている陶器製の置物。
これはシチリアの伝承に由来する。
昔、ムーア人がやって来て地元の女性を誘惑した。
恋仲になった二人だが、ムーア人には故郷に妻と子供がいた。
それを知った女はムーア人の頭を切り落とした…という話から来ている。

これを家の前に置く意味は?とイーサンが訊くと、ウチの妻に手を出すなという意味だろとキャメロンは言う。
夫への警告なのよとダフネは言う。遊びまわってると最後には首を切られて庭に埋められるのよと。

伝説はイスラム勢力がシチリアを支配していた827~1070年頃に遡る。
話には続きがあって、首を切った彼女はその首を植木鉢にしてバジルのツボミを植えた。涙と一緒に水やりを続けるとバジルは良く育ち、その香りは隣の家にまで香った。隣人はそのバジルを羨ましく思い、男の頭の形をした鉢を注文して真似をした。そこからテスタ・ディ・モーロがシチリア中に広まった。

別の説では、アラブの男と恋仲になった女性が、反対する家族に二人とも首を斬られた。その首が鉢に変わったので、警告(見せしめ?)としてベランダに飾られたことに由来する。

こういう伝説があるので、浮気、不実、嫉妬、暴力を想起させ、シーズンを通して何度も意味ありげに、その後に続くシーンに関係しているかのように映し出される。

そして浮気、不実、嫉妬、暴力などを経て、最後にセックスレスになっていたイーサンとハーパーのカップルに性欲が復活する様子は、テスタ・ディ・モーロの話の最後にバジルが旺盛に成長した部分にも沿っていたことになる。

マダムバタフライ

プッチーニのオペラ「蝶々夫人」
タニアがゲイのクエンティンとパレルモの大劇場で観劇していた。
これは言わずと知れた、米兵と恋に落ちた日本人女性の話。
彼は蝶々夫人と日本で暮らした後、帰国し、本国で米国人の妻を娶り、日本に妻と再訪し、待ち続けていた蝶々夫人を絶望させ自刃に至らせるという悲劇。
上記のテスタ・ディ・モーロの伝説と被る話である。

この子、誰の子?

ダフネとハーパーが二人でNotoにお泊りしていた場面。
ダフネが自分のトレーナーが金髪青い瞳のイケメンだと自慢する。
(浮気をしているとはハッキリ言っていない)
そしてハーパーに写真を見せてあげると言って見せたのはトレーナではなく自分の子供写真だった。ハーパーは「トレーナーじゃなくて子供の写真よ」と返す。

この場面、私も普通に流していたのですが…
写っていた子供は金髪で青い瞳の男の子。
つまりそのトレーナーとの子供だと、ダフネは暗示していたということのようです。

その後、ホテルに戻って来て、アメリカに置いてきた子供たちとネット通話をするダフネ。夫キャメロンも呼ぶが、彼はフロスの最中。呼ばれてもネット通話に乗り気でない雰囲気があった。
ここも、なんだか面倒くさそうな態度だなと思っていたけど、上記の理由から、彼も子供が自分の子供でないことに気付いている可能性を示唆していたということらしい。

シーズン2の一番の勝者は、3日でアルビーから5万ユーロ(700万円ぐらい?)を引き出したルチアだという意見も見ました。
そしてダフネに関する議論も多い。彼女も自分のしたいことをして勝者だとか、あの場面の顔は悲しそうで、本当はキャメロンからの愛がほしいんだとか…。

彼女はとにかくVictim犠牲者になりたくないと言います。だから自分が勝者側になるようにすると。そのためにキャメロンが浮気するなら自分も浮気して楽しむ。結婚はお金とステータスを持っている男と結婚した方が楽なことには変わりない。しかしその男が必ずしも自分の子供に求める遺伝的特徴を持っているとは限らない。だからそれは余所から調達する。
ダフネが真実の愛なんてあっても一時のものと考えて、全て自分中心に幸せを追求する、他人に舵は握らせない、そういうタイプなら彼女はかなりの勝者だと言える気はします。(キャメロンのこともある程度は好きなのは事実だと思う。しかし彼女が一番好きなのは自分自身)

夫婦が全て知っておく必要はないという言葉も、結局イーサンとハーパーがお互い浮気をしたかも?という状態になって秘密が出来たことで燃え上がったことを考えると、彼女が正解だったことになる。

イーサンを連れて島に向かった後も、二人がどうなったかはわかりませんが、おそらく致したんだろうと思います。これで意識高い系夫婦の真実の愛を否定出来てダフネ的には勝利だし、キャメロンがイーサンにお金の無心をしていたことを考えると、もしかしたら全てキャメロン&ダフネ夫婦の計画だった可能性もあります。完璧な弱みを握ったことになりますから、イーサンも拒否しにくくなったことは明らか。

なので全て自分の欲望のため、利己主義的観点から見るとダフネは一番の勝者かもしれない。(ルチアは結局すぐお金を使い果たし、また同じように売春することになりそうですし)
しかし、利他主義的観点から見ると、他人の為、他人を幸せにすることに喜びを感じるような人、その先に真の愛、真の絆があり、それこそが人間を幸せにするものと信じる人たちにとったら、ダフネのような生き方は敗者、物質主義的欲望の犠牲者に見えるかもしれない。

困ったことに人間は変化する。いつ利己主義から利他主義に目覚めるかもしれない。そうなると真の勝者像は簡単に崩れる訳で、結局勝者なんていない、最期に幸せを感じていたら勝者ということかもしれない。
どちら側が正解ということはなく、そこは各個人が考えて生きていくことが大事で、その機会を提供しているドラマだと思います。

映画「L'Avventura」オマージュ

映画の中でタニアが夫グレッグとベスパで出かけるときに、女優のモニカヴィッティのような恰好をしたことを自慢する。

モニカ・ヴィッティではなく、
ペッパ・ピッグだとヴァレンティーナに言われてましたが…

シチリアを舞台にした映画「L'Avventura」(邦題「情事」)。その主演女優がモニカ・ヴィッティ。この映画もタイトルの通り、情事が描かれる。アンナとその彼氏サンドロ。アンナの友人のクラウディアの3人でシチリアの旅をする途中でアンナが失踪する。アンナを探すサンドロとクラウディアが次第に惹かれ合い情事を重ねるようになる。
この大まかなプロットも、テスタ・ディ・モーロやマダムバタフライのプロットと被る。


そしてNotoでハーパーが街を歩いていると、多くの男たちに囲まれて舐めるように見られるシーンがある。あれはこの映画の中のシーンのオマージュ

この張り詰めた空気が切れた時、一気に集団レ○プに発展しそうな恐ろしさが漂っていて、観てるだけでゾワゾワしました。シチリア、怖い!!(笑)
流石に今ではこんなことないと思うけど…。

そもそもタオルミーナは100年前とかの昔、上流階級の人間が遊びに来る=売春しに来る場所として有名だったそう。ちょうど一昔前の日本における東南アジア的な位置付けだったということかも?だからそういう元締めにマフィアなんかがいたんでしょうね。そして家父長制の影響が強い。女性を物扱い、見定めるような目つきで男たちが見ていたという感じでしょうか?

ルチアがヴァレンティーナに、このホテルだってそういうことの為に作られたんでしょ…的なことを言っていたのも、そういう背景があるから。

タニアの運命を暗示する色々

タニアがグレッグとベスパで出かけるとき、ヴァレンティーナに「どう?モニカ・ヴィッティみたいでしょ?」と言った時に彼女が「モニカ・ヴィッティは死んでます」と返す。
そしてその時に被っていたヘルメット。まるで的のようなデザインになっている←頭を狙われているイメージ。

三世代家族とポーシャが訪れたゴッドファーザーのロケ地である邸宅。
そこに置かれていた車(映画では爆弾が仕掛けられていて乗っていた女性が殺される)の中にあったマネキンが着ていたドレス=タニアが最後にクルーザーで着ていたドレスと一緒


夫グレッグに関して。
まず名前が「Greg Hunt」ハント=狩りという意味がある。

シーズン1で既に怪しかった。
何度も咳をして末期に近い重病だとタニアには言いつつ、何度もプールに行って、呼吸、肺活量が重要な水泳をガシガシ泳いでいた。シーズン2では結婚してその病気もスッカリ治っていた。←詐病で同情&油断させていた可能性が高い。

シーズン1で出会った時も、タニアの部屋に入ろうとしているところに出くわした。部屋を勘違いしたと言っていたが、泥棒、もしくは資産状況を知るために入ろうとしていたのでは?という意見も見かけた。

シーズン2の最初、タニアがアシスタントのポーシャを連れてきたことをことさら責める。そして排除しろとまで言う。←振り返ると計画の邪魔になるからだったと分かる。

タニアとセックス中、急にタニアがグレッグの顔を押しのけて中断させる。
その時に言った言葉が、女っぽい髪型の男たちに囲まれて、グレッグもその中にいてサメのような目で私を見ていた…と言っていた。←これも今後の出来事を予知していたことになる。

船上の銃撃シーン。あの場面でグレッグが「タニア!」と呼ぶ風に字幕が出ていたものがあったらしい(今は修正されてなくなったとか)。あの場にいないはずのグレッグがあそこにいたのでは?と盛り上がっていたファンも多くいたよう。

監督・脚本Mike Whiteマイク・ホワイトに関して

制作、監督、脚本のマイク・ホワイトは自身も俳優。「スクール・オブ・ロック」なんかにも出ていて、主演のジャック・ブラックとは親友らしい。

そういう一面とは別に、彼にはリアリティ・ショーのスターという面も有る。
参加者が二人一組になって世界中を駆け回り難題をクリアしていくリアリティ・ショー「The Amazing Race」に2度参加しているらしい。パートナーは父親のメル

この父親のメルというのがキリスト教右派の著名人のスピーチライターやゴーストライターとかをしていた人物。そんな保守的で厳格なクリスチャンの家庭だったのに、マイクが成人した頃にゲイだとカミングアウトし、ゲイ活動家になる。シーズン1でマークの父親が癌ではなく実はエイズで死んだ=ゲイだったと知りショックを受けるという元ネタはこの辺りにあるとか。

そしてマイク自身もバイセクシュアル。Wiki にはJoshという男性と暮らしていると書かれている。なのでWhite Lotusのマークもアルモンドにモーションを掛けられて困惑していたけど、実は興味が無きにしも非ずな感じだったのかも?という見方も出来ますw。

そしてマイクは「Amazing Race」だけじゃなく「Suvivor」というリアリティ・ショーにも参加している。

無人島で参加者が生き残りをかけて競う番組。
そして、その時のメンバーだった人物が「The White Lotus」にカメオ出演している。

シーズン1ではホテルの従業員の一人。
シーズン2では冒頭ダフネが話しかけるビーチで寝ている女性二人組。

こういうリアリティ・ショーでの人間同士の精神的な駆け引きを経験してきたのが、「The White Lotus」の制作に活かされているらしい。なるほど納得。

「The White Lotus がSuvivorをベースにしている5つの理由」という動画もありました。

1:フォーマットが似ている 
特にシーズン1。ハワイの島という普段の都会とは違う場所。
2:デビッド VS ゴリアテ 
マイク・ホワイトが参加した回は富裕層と労働者層とがチームになって競う回で、「デビッド vs ゴリアテ」という副題が付けられていた。この構図はドラマの富裕層と労働者層という構図と一致する。
3:Alec 
彼がサバイバーに一緒に出ていた人物。シーズン1の6エピソード中5エピソードに出ている。このドラマがサバイバーなんだという裏メッセージだと。
4:植民地主義と文化の盗用 
サバイバーでも植民地になった場所や文化を自分たちのショーの為に消費する(伝統儀式などを部外者である参加者が挑戦したりする)。ドラマでも白人支配者層がハワイの伝統舞踊をショーにして金儲けをしている。
5:未来のシーズン 
サバイバーでは新しいシーズンごとに参加者とロケーションが変わる。これが勝利(人気)の法則だと。The White Lotusもシーズン2でキャストもタニアを除いてほぼ入れ替わり、ロケーションも変わった。

シーズン3はアジアが舞台だと言われています。
候補としてはタイか日本だという噂がある。
(ホワイトが日本を訪れているとSNSにアップしていたとか)
マイク・ホワイトが参加した「The Amazing Race」。一度目はタイのプーケットでリタイア。二度目は日本で低体温症でリタイアしている。どちらも縁のある国。そしてテーマも「死」なんだとか。彼自身ビーガンの仏教徒だそうなので、仏教の死生観をドラマにどう組み込むのか?興味のある所です。

「The White Lotus」というドラマのタイトル兼リゾートの名前も、ある意味ハワイやイタリアっぽくはない名前。ロータス と言えばアジア、仏教の花。そしてマイク・ホワイト。The White Lotusというネーミングがココから来ているのだと思うと、第3シーズンこそがまさに真骨頂になりそうな予感!?

そしてタニアが死んでしまったので、シーズン2から引き続き出てくるキャラはいるのか?タニアの遺産を引き継いだグレッグには是非とも死んでもらいたいので(笑)、彼が出てくるのかも気になります。個人的には別人格のキャラでジェニファー・クーリッジには再登場して貰いたい。そして今度はグレッグに近づいて彼の遺産を奪い取る役回りでリベンジw。グレッグがゲイなら自分の息子や甥とかを利用してたぶらかせるという、ある意味ポーシャに対して使った方法の意趣返しというのはどうでしょうか?


「These Gays are trying to murder me! ゲイ達に殺されるぅ~!!」

ドラマ「The White Lotus」でもっとも人気のあったキャラがジェニファー・クーリッジが演じたタニアです。

マイク・ホワイトが、普段のジェニファーの面白さがそのまま出るように、いわゆるあて書き的に生み出したキャラ。
その結果シーズン1、2共にエミー賞を受賞。ゴールデン・グローブでも二年連続ノミネートで今年は最優秀賞を受賞した。

そのタニアが最終エピソードで発したセリフ
「Please, These Gays, They are trying to murder me!」
お願い!ゲイ達が私を殺そうとしているの!
(↓動画の1:45ぐらいから)

これがネットミームになってバズり、今年一番のセリフだと賞賛されまくり。
さらには↓のようなマグカップやTシャツ何かのグッズが作られるほどに。

この間のエミー賞でのスピーチでも
「I wanna thank All the Evil Gays!!」全ての邪悪なゲイ達に感謝したいわ、と言って笑いを誘っていたwww。

勿論、ドラマのシチュエーションとかから面白いのはわかるのですが、アメリカでのこのバズり様は、アメリカ人には常識的にわかる共通認識があり、日本に居てはわからない何かがあるに違いないと感じました。アメリカという内輪ウケのネタが部外者にはピンと来ないという感じなんですよね。

で、色々ググって記事なんかを読んでみたのですが、なかなかその部分を丁寧に説明してくれているものがない。ギャグとかの意味をバックグラウンドから懇切丁寧に説明するなんてこと、日本でもなかなかしないですから。

一応説明してくれていると思われる記事はコレとかかな?

スペインのエル・パイスの英語版で、たぶんスペイン人記者がアメリカの外からの視点で書いているからか、多少は分かりやすかったです。とはいえ私の読解力では理解できない部分も多く、正しい解釈かどうかは自信が無いですが、たぶんこうだろうというところは…

映画やドラマのエンターテインメント業界ではゲイ(LGBTQ クィア・ピープル)に対して二つのステレオタイプがあった。
ひとつはVillainヴィラン 悪者 悪役
犯罪者だったり倒錯者だったり。「リプリー」のトム・リプリーもそうだし、「サイコ」のベイツモーテルの主人ノーマンも倒錯者として描かれた。ディズニーの悪役にもクィアだと思われる人物がいくつかいる。リトルマーメイドのウルスラ(アースラ)もドラァグ・クイーンの容貌だったりする。

これらが異性愛者の価値観が絶対の時代に作られたものに対し、同性愛、クィアをテーマにした作品も多くつくられるようになってくると、そこに出てくるゲイ達は、繊細だったり、優しかったり、面白かったり、女主人公の友達だったり、善良なゲイというステレオタイプが広まっていく。

つまり異性愛者によって悪役にされていたゲイ達が、その反発として(たぶんゲイの)監督や制作者によって善良なゲイイメージで押し返す流れが強くなってきていた。

ゲイ達にとっては自分たちを悪者にはしにくい、したくない傾向がある訳です。しかし制作のマイク・ホワイトは自身がバイ。バイといっても男性と暮らしているのでゲイ寄りのバイでしょう。その彼がこの設定、このセリフを書いた。ここに大きな意味があると。ゲイが自分たちを邪悪なゲイとして描いて、そんなシチュエーションをジョークにして笑い飛ばす作品を作った。いままではストレートやゲイ仲間の顔色を見ていたようなところがあったが、そんなこと気にしなくていいだけの自由と市民権を得て、笑い飛ばせるまでの自尊心というか強さというかも獲得した段階にまできた。それがこのセリフの素晴らしい所だと。

そして、それをゲイ・アイコンであるジェニファー・クーリッジに言わせたこと。(この場合のゲイ・アイコンはゲイに人気があるレジェンド的存在)
ジェニファー・クーリッジはゲイに人気がある訳です。あの過剰なキャラ造形。過剰にセクシーとか過剰にゴージャスとかをゲイの人たちは好みますからね。「RuPaul's Drag Race」とか見てたら、どれだけ過剰にして面白くするかのコンテストなんだとよくわかります。


この動画でも、

そんなゲイ・アイコンの彼女がネトフリ作品「Single All The Way」の中で、「なぜかわからないけど、ゲイ達は私に執着するのよ」なんて言ってますw。

だから彼女のことは全米のゲイにとってはゲイ・アイコンの地位を確立しているし、それ以外の人に取ってもゲイが好きそうなキャラというのは周知の事実。
そんな彼女が「ゲイに殺されるぅ~」と助けも求めるもんだから、そりゃ皮肉が効いてるわけですねwww。

さらに私の想像を加えると、エミー賞の授賞式でもGLAADというLGBTQ団体の代表がスピーチをしていました。この団体の活動は、

ジャーナリストや作家、クリエーター達が表現に使う表現の使用やLGBTコミュニティを描写する際の公平的で排他的でない表現などの支援を通じて、メディアにおけるLGBTの人々のポジティブな描写を推奨する活動を行っている。

wikiより

と、LGBTQキャラのポジティブな表現を推進している訳で、どの作品にもLGBTQキャラを盛り込むようにということも推進していたように思います。
ホモソーシャルでホモフォビアの強い日本ではまだまだ反発必至な要求ですが、実際アメリカの最近の作品は大抵LGBTQキャラが盛り込まれつつあって、ほぼ達成されているに近い状態だと思います。

しかしさすがにそれもちょっと無理があるように思うし、押しが強すぎるのも反発が醸成される。そんなあまりにも多すぎるLGBTQプッシュに、世間の中にも「ゲイ疲れ」「LGBTQ疲れ」が広がりつつあるのではないかと推測するわけです。Gay Fatigueという単語もあったりしますし。

シーズン1でも、モスバッカー家の息子クインのことを母親のニコールが、クインは白人で男でストレート。「世間は今そういう属性の人間に厳しいのよ」と、姉のオリビアにもっと優しくしてあげてと言います。

いままで属性ヒエラルキーの頂点にいた富裕層白人ストレート男性。しかし今は批判の対象になりやすい存在。何か差別的にとられることを発したものなら総攻撃を受ける状態。そういうパワーバランスの変化もあり、「ゲイに殺される」というのは、ストレート男性の、ある意味心の叫びを代弁している部分もあるので、「These Gays are trying to murder me!」というセリフは様々な属性(ゲイからもストレートからも)にウケたのではないでしょうか?

在米の方で、このセリフのウケた理由、わかる方がいれば教えて貰いたいです。私の推測で大体あってますでしょうかね?別の理由があるなら知りたい。


今回「The White Lotus」での演技で、かなり注目が集まっているジェニファー・クーリッジ
彼女については私も20年以上観てきてはいるのですが、それでも彼女は主役ポジションではなく大抵個性の強いバイプレイヤーとして活躍してきたので、それほど真剣に彼女のことを知ろうとはしてきませんでした。「アッ、またあの面白い女優さんが出て来てるな~」という感じ。

ということで、次記事では彼女にフォーカスしたものを書いてみたいと思います。

「The White Lotus ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾート」
なかなか奥深く面白いです。色んなパワーバランス、現代に生きる人間が抱える様々な問題などを扱いつつ、ドラマとブラックコメディとして見事にまとめ上げた作品です。機会があれば是非観てみてくださいね!

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