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1日だけの登校日【百合小説】

『会いたいよ』
『私も』
毎日のLINEのやり取りもだんだんと同じ文章になってきたこの頃
自粛期間は延長になるけど、1日だけ登校日が設けられた。

菜々が教室につくと、いつもみたいに肩や腕に触れることもなければ、抱き着いてくる子もいない、どこか緊張した朝だった。それでも、いつもの顔ぶれに、どこか安心する。
もう一つ違うところは皆色とりどりのマスクをしていたこと。
受験前のインフルエンザ対策みたいだねと菜々がつぶやくと、あの頃の冬みたいな真白の光景ではなくて雨の日の花開く傘のように鮮やかなマスクの軍団に少し笑いが零れた。

「お前らいつもみたいに抱き合ったりすんなよー!」
「イチャイチャしないよーにっ!」
教室の反対側から野次を飛ばすギャルたちに「イチャイチャしてないしー!」と言い返す加奈子を見て、菜々は目を細めて笑った。
教室の片隅になんとなく間隔を開けながら集う私たちは”この期間が終わったらやりたいこと”をそれぞれが口にした。
「カラオケ行きたい」
「私も。あと遊園地」
「いーねー!」
いつの間にか緊張がほぐれ笑いあっているとチャイムが鳴り響き、真っ白いマスクをした先生が教室に入ってくる。


――「バイバーイ!」
交差点で名残おしく大声で話しながら離れ離れになっていく私たち。
大きく手を振る私の横で、いつもクールな加奈子も珍しく小さく手を振っていた。
「何それ、お姫様みたいじゃん」
「精一杯振ったつもり」
クスクス笑いながら歩きだした。あと3回角を曲がったら私たちも別れてしまう。

(もうちょっと、一緒に居たかったな)
いつもみたいに抱き着くことも、手をつなぐことも憚られて悲しくなってしまう。ちょっとずつ歩くスピードが落ちて、加奈子の背中が見えた。
(加奈子はさみしくないのかな…)
なんて、俯き歩くと曲がった角の先に加奈子の笑顔があった。
「ん」
菜々の前に出されたのは加奈子の右手。小指を差し出された私は不思議に思いながら、自分も同じ指を向けると避けられてしまう。
「違う。こっち」
スイッと彼女が絡めたのは私の左手の小指で、指を絡めたまま彼女はゆっくりと歩きだした。
「ちょっとだけ、ね」


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