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「越境キャリア」を成功させるには伴走者がいた方がいい ーVOLVE株式会社 創業にあたって

国家公務員といえば「調整する人」というイメージを持つ人が多いと思いますが、「調整力」って何でしょうか?
様々な利害関係を持つステークホルダーたちとの合意形成をまとめる仕事の裏には、無数の困難なタスクがあります。そんな国家公務員の仕事に必要とされているスキルを私なりに「霞ヶ関人材のポータブルスキル」としてまとめたことがあります。その内容は、調整力ひとつ取ってもベースとなっている要素が非常に多岐に渡り、民間企業を含めてどこでも活かせるスキルばかりです。(参考:「調整力」解説記事)今私が経営者の視点で見ると、霞ヶ関には言語化されていないスキルが宝の山のように眠っているのです。
ですが、霞ヶ関の若手職員には、民間と業務内容が違いすぎるが故に自らのスキルに自信を持てない人も多いように感じます。民間側から国家公務員を見た際にも、「賢い人たちなのは知っているけど、何をやっているのかわからない」と思われていないでしょうか。お互いにブラックボックス状態なのだと思います

VOLVEという社名には、REVOLVE / INVOLVE / EVOLVEの3つの意味を込めました。
私たちは、キャリアのREVOLVE、つまり官から民へ・民から官への、越境転職を支援します。このように官民を自由に行き来するキャリアパスを「リボルビング・ドア」と呼びます。私たちは、自らが越境転職し(REVOLVE)、周りを巻き込み(INVOLVE)、社会を進化(EVOLVE)させるような人材のチャレンジを応援したいのです。
私は、大企業も霞ヶ関も課題の本質は「人材の流動性不足」にあることが多いと考えています。緻密な年次管理が存在する組織の中では出る杭は打たれやすく、リスクを取ってチャレンジしようという人が出づらくなります。我々が越境キャリアの実現を支援し、官民の人材流動性が上がることで、日本の社会がしなやかで強く変わっていく未来に繋がると考えています。

そのプロセスの中で私たちがこだわるのは「個人起点の越境キャリア・ジャーニーを伴走する」ということ。
私自身が民間企業と霞ヶ関を行き来した訳ですが、難しい点が多い。民から官へ移ろうと思うと、まず募集要項をタイミングよく探すことが難しく、情報も足りない。また、官公庁の給与テーブルが不明瞭、独特の言葉遣いが難解など、情報の非対称は多くのポイントで発生しています。官から民への転職に関しては、前述の通り、自己評価が必要以上に低いためにそもそも民間企業への転職自体に踏み出せない人も多いです。

私たちの「伴走」では、これらをフェーズごとに丁寧にサポートしていきます。

例えば現役の生え抜き国家公務員の方々が私たちと話し合った結果、「いろんなチャレンジをしたいから民間に行ってみよう!」という結論に至った方には、引き続きスキルの棚卸、面接・試験の対策やオンボーディング研修をご提供していきます。しかし、「今の職場でこれだけのスキルを身につけることができた!公務に対する自分の思いも再確認できたし、このまま一生ここで頑張ろう!」という結論も同じくらい尊重し、応援していきたいと思っています。

私たちが「越境転職を支援する」ではなく「越境キャリア・ジャーニーを伴走支援する」と標榜している背景には、転職エージェント業が構造的に抱えている課題があります。

転職支援は、どうしても目線が求人企業寄りになってしまうになってしまうケースが少なくないと思います。例えば同じ業界の求人が複数あった際、キャリアアドバイザーは、より成功報酬が高い企業を薦めやすい。ですが私たちはスタンスとして、完全に個人起点で考えたい。個人と採用側の間の利益相反をなるべくなくしていきたいと思っています。
多くの転職エージェントが抱えるもうひとつの課題は、転職という「点」でサービスせざるを得ないことです。象徴的な言葉として「アフターサービスもします」という言葉があります。個人にとっては、転職先への内定獲得はまさにスタートライン、不安の真っ只中です。決して「アフター」ではない。我々はそのフェーズを、転職後のオンボーディングが始まる前という意味で、「プレオンボーディング」と呼び、しっかりとサポートしていきたいと思っています。
プレオンボーディングの内容のひとつに対策講座があります。内定から転職までの間に、越境転職ならではのよくあるつまづきや戸惑い、それらに向けた心構えを共有します。例えば民間から公共に行く際、役所が完璧主義であることに驚く人は多いです。慣れない異文化の中で若手から指摘を受けたりすると、コミュニケーションがギスギスし、その人が本来持っているパフォーマンスを発揮できなくなるケースもあります。しかし仕事の仕方の違いというのは表層的なこと。背景事情がわかっていれば受け入れやすくなるのではないかと思っています。
なぜ霞ヶ関が完璧主義になるかというと、役所は国民全体がクライアントだからです。多様なステークホルダーが様々なニーズを持っていて、一つでも詰め漏れのある状態で政府の審議会や国会に持ち込むと、衝突が生まれ、政策が実現しません。色々な視点で課題を潰し切らないといけない事情がある。こういうことがわかっていれば、転職後に過度にショックを受ける必要がなく、違いを受け入れやすいはずです。
もちろん、逆に官から民に行く場合にもこのようなショックは起きがちです。上記の例で言えば、国家公務員出身の多くは、詰め切っていないのに、仮説で意見を求められることに戸惑います。ですから事前に研修を行い、違いに備えることで、越境転職する人たちのその後の成功まで支援したいのです。
他に越境転職後によく聞かれる悩みとしては、お互いの特殊な言語表現、専門用語が分からず苦労するということ。これは事前にまとめて知る機会が提供されるだけでぐっとハードルが下がります。さらには、民間企業でも同じことですが、中途採用は転職先の組織での人的ネットワークが少ないことも、課題になりがちです。越境経験者コミュニティをつくり、ネットワーク拡大の機会をつくります。

こんなことをいうと、求人企業さまから「企業の方を向いていない転職エージェントなのではないか」と思われてしまうかもしれません。しかし私たちはむしろ、この課題を乗り越えて求職者の目線に寄り添っていくことが企業、ひいては転職市場そのものにとってプラスになると思っています。
これは私個人の感覚ですが、過去20年くらい遡って考えると、人材市場そのものが求職者の目線に重心がシフトしつつあるのではないかと思っています。特にZ世代の仕事観は、組織への帰属意識や金銭的報酬よりも、やりがいや成長、社会的な意義、上司に対する人間的な信頼に比重を置いているように感じます。パーパス・ドリブンな人が増えている。彼らに表面的な就職・転職支援をしても、すぐに辞めてしまうリスクが高いです。それは企業にとっても決して喜ばしくないこと。
全ての人がやりがい重視な訳ではないですし、そのような人を採用する方がいいよねとは言い切れません。しかし、そのような価値観を持たずにいると、増えてきているセグメントの人材を丸ごと失うことになります。そこに仮に優秀な人が多かった場合には、企業としてはダメージが大きくなるのではないでしょうか。
霞ヶ関では実際に人が辞め始めている現状があります。採用組織側の変革にも、私たちは寄り添ってサポートしていきたいと思っています。

最終的に私たちが目指す世界観は、煎じ詰めると、「企業や役所の政策、コミュニティが自己変革できるようになること」です。
組織・制度が環境変化に合わせて変わっていかないと、日々環境と自分たちとの間に乖離ができ、バグを溜め込んでいくことになります。バグに耐えきれなくなった時に痛い思いをして調整することになるというのが、日本というコミュニティ全体が伝統的に抱える課題ではないでしょうか。
例えば霞ヶ関に民間人材が入った場合、生え抜き職員に比べて失敗を恐れづらい人たちである可能性が高いです。リスク許容度が高い人たちが増えると、組織としてもリスク許容度が高くなっていきます。生え抜き職員たちの高いリスク管理能力がベースにあるからこそ、民間出身者のチャレンジ精神が良い方向に働く可能性が高いと考えています。
また、民間出身者ならではの視点があります。役所で作っている規制がどのように現場で解釈されているか、何が理由で規制の目的と結果にギャップが生じるのか、そのような現場感を持っているのです。議論の深さが変わり、官と民の間の政策対話の質も変わると思っています。民間企業は、霞ヶ関が気にするポイントを理解した上で提言することが可能になります。結果的に有意義なディスカッションに繋がりやすくなっていく。お互いに対する敬意が生まれ、建設的な対話が起きやすくなると期待しています。
そしてもちろん、役所の優秀な人たちが民間に出ていくことで、企業は人材を獲得する新しいソースを得られます。冒頭に述べたようなポータブルスキル、自社で育成するのが困難なスキルセットを持った人材に自社で活躍してもらうことができるのです。

官から民へ、民から官へ。「リボルビング・ドア」の実現により、それぞれに自己変革が促される組織風土になり、ゆくゆくは日本社会が強くしなやかになっていく
それが、私たちVOLVEが目指す姿です。

吉井 弘和
東京大学理学部数学科卒業。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社及びドイツ支社で勤務した後、米国コロンビア大学及び英国ロンドン大学政治経済学院より公共経営学修士(MPA)を取得。日本人初となる英国保守党本部などにおける1年間のインターン経験を経てマッキンゼーに復職し、ヘルスケア企業や中央省庁、都道府県庁等をクライアントとするコンサルティング業務に従事。その後、社会保険診療報酬支払基金の理事長特任補佐、厚生労働省保険局保険課の課長補佐を歴任し、2022年9月VOLVE創業。

【編・写:大屋佳世子】




「リボルビング・ドア」というキャリア観があります。
官公庁と民間企業の間で、人が自由に行き来する様子を表した言葉です。

官僚とビジネスパーソンの仕事は多くの場合、
異質で無縁なもののように思われているようです。
しかし双方で働いた経験を持つ者として、
スキルもノウハウも相互に活かせることばかりだと感じます。

それなのに、
「ビジネス未経験の自分が企業で働けるだろうか」
「官僚は生え抜きでないとなれない、活躍出来ないのではないか」
そういった不安や誤解が、互いの行き来を阻んでいるのが現状です。

私たちVOLVEは官と民をまたがる越境キャリアチェンジを、
転職という「点」ではなく、
「越境キャリア・ジャーニーへの伴走」という形で支援します。

転職により人の流動性を上げ、
リボルビング・ドアの実践者を増やし、
よりしなやかで強い日本社会への変革に貢献したいと思っています。


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