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企業の成長は社長の器で決まる? 自走式の組織を育てるための試行錯誤

昨年の私は「自分の影響力をいかに弱め、自走式の組織をつくっていくか」をテーマにしていました。このnoteでも何度かお話ししていますが、経営にしても自分の人生にしても、同じ局面は一つもありません。時代も状況も環境も違う中で、過去の成功体験をなぞることがどれほど危険かは、みなさんもよくご存じのことではないでしょうか。


過去の経験、自分の「正しさ」に頼る経営者

人間とは弱いもので、事に当たってついつい過去の成功体験を引っ張り出したり、知識や常識、前例に頼って意志決定をしてしまいがちです。

直感と経験、直感は鍛えられるのか? という問題については過去のnoteで詳しく書いたのでこちらを読んでいただくとして、

ここ数年は、バリュエンスの意志決定にもどうしても“私の匂い”が漂うようになっていました。

かつて、「経営者」「企業のトップ」「リーダー」といえば、自らのユニークな体験、過去の成功、豊富な経験を説得力として、自らの「正しさ」を示すことで、社員を引っ張る人がほとんどでした。
強烈なリーダーシップを発揮するトップがいて、社員はそれについていくことに没頭すればいい。それでも企業としての成長が望める時代はたしかにあったのです。

自分だけの価値観で経営判断を下す危険性

しかし、現在のあらゆることが“複雑化した社会”では、そう簡単にいきません。
あらゆる業界で、かつてないほどの大きな変化が起きているタイミングということもあり、過去の成功体験が通用しない

モノやお金の価値、働くことの意味や意義すら変化し始めている状況では、過去の栄光は、古い価値観の象徴としてむしろマイナスに働く可能性もあるのです。

私が過去に基づいた「自分だけの価値観」で意志決定を下すことに懐疑的なもっとシンプルな理由は、私の経験からくる正しさを会社に押しつけていては、私の器に合わせた形、大きさの会社にしか育たないと思うからです。

一個人の「器」に縛られることの愚かさ

意志決定は経営者の重要な役割であり、ある意味での醍醐味ではありますが、自分の知識、経験、成功体験の中だけでこれを判断していると、当然「私なり」の会社にしかなりません。しかし、経営ボードのメンバー、社員一人ひとりの正しさをテーブルに載せ、適切なコミュニケーションを取りながらその正しさを組み合わせることで、会社は一人の経営者という小さな枠をはるかに超えた成長を遂げる可能性が生まれます。

実際に、世界では一人の天才、突出したリーダーではなく、組織として個々に能力を発揮することに目を向ける企業が増えています。
絶えずイノベーションが求められているテック企業でも、天才の出現を待つのではなく、組織としてのコレクティブ・ジーニアス(集合天才)を目指したほうが、革新的な開発が継続的に行えるという考え方が定着しつつあるそうです。

経営者として「影響力を薄める」ためにやったこと

そんなわけで、2023年はどうしても滲み出てくる私の影響力を「あえて」消すことに注力しました。

まず試したのは、意識して「黙る」こと。
ミーティングではもともと自分の考えだけを一方的に伝えるタイプではなく、どちらかというと聞き役になることが多いのですが、自分の発言が社員にどんな影響を与えるかをよく考えて発言する、なんならなるべくしゃべらないことによって、自分の影響力を薄めようと試みました。

それでもやはり私の考えや過去の成功例、前例に配慮し、「こういったらウケがよさそう」と、耳触りのいい話に流される可能性はあります。
もう一段階進んで、メンバーの視界になるべく入らない。自分がいることで発言を制限したり、萎縮させたりしないように、必要最低限のミーティング以外はなるべく出席しないということを試しました。

黙して語らず・・・・・・の失敗

黙して語らず、姿もなるべく見せない。

試行錯誤の中で試したことですが、結果的にはこのどちらも現在はやっていません(笑)。

主張より傾聴、立場や肩書ではなく率直な意見交換という「目指すべきところ」は変えていませんが、ただ黙って、姿も見せないとなると、別の問題が生じるようになったのです。

夏頃だったでしょうか。
何かの会の時に、社員全体に向けて自分の考え、ビジョンを熱っぽく語ったことがありました。
私としては別に社員にメッセージを送ること自体を放棄したつもりはなかったのですが、「影響力薄めようキャンペーン」を絶賛開催中だったこともあり、十年の付き合いがある役員からこんなことを言われました。

「久しぶりに社長らしさが見られてよかったです」
彼曰く、それまでの私は、どこか「らしさ」のない、社長としては物足りないと感じるような状態だったというのです。

「難しいもんやなぁ」
はっきりとしたテーマを持って、意識的にやっていた行動が、自分が期待していたこととは別の方向で作用し、マイナスに働いていたとは・・・・・・。

社員の自律のために本当に必要だったこと

たしかに、黙して語らず、背中しか見えない経営トップは、「何を考えているかわからない存在」と見られても仕方ありません。

自分の考えを押しつけるのは間違いですが、かと言って自分の考えや会社のビジョンを具体的な言葉や行動で示さないのもまた愚策です。

この役員の指摘を機に、私はアプローチを少し変えることにしました。

まだまだ試行錯誤ですが、コミュニケーションの回数や会話の頻度ではなく、質を高めていく。具体的には私がする社員への問いの質を上げることを課題にするようにしました。

「影響力をなくす=黙る」というのはたしかに本質的ではありませんでした。意見を引き出すためにどんなふうに問いかけるか? 何を伝えるか? どう伝えるか? どう聞くか? 社員がアウトプットしたくなるインプットは私からもどんどんしていくべきですし、アンケートなどで集まってくる声の活用法にもまだまだ改善の余地があります。

2023年の12月には、2020年3月以来、2年9カ月ぶりにバリュエンスジャパンの代表取締役に復帰しました。これは、経営リソースのグローバル・国内事業の集中と選択の意味合いによるものですが、経営者として社員、会社との関わり方を見つめ直したタイミングでもあり、さまざまなことに必然性を感じ、身の引き締まる思いの新年となりました。

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