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僕が日本ラグビーの「これから」で期待しているところ【日本代表対サンウルブズ戦の個人的雑感】

静岡駅から愛野駅までの移動は、東海道線の各駅電車を用いることにした。1時間弱の電車旅行。そこで見続けた光景は、2年前のあの日々を想起させるものだった。ホームや車内にあふれる、日本代表やサンウルブズのユニフォームを着た人々。静岡駅の立ち食いそば屋のオバちゃんも「何だか今日は、その格好の人をよく見るわね」と驚いていた。

そして、愛野駅からエコパスタジアムへの道のりを見て、再び感動した。チケットの売れ行きは芳しく無いと聞いていた。でも、この道中で「人が少ない」と感じた時間はゼロだった。いや、「人が多い」という瞬間をしばらく体験していないから、そういう感情が芽生えているのだろうか。

ラグビー日本代表の再始動、そしてサンウルブズの復活。この瞬間を約18,000人の観客と見届けるというのが、今日のゲームを見に来た目的である。
ラグビー日本代表にとっては、せっかくのワールドカップで得た熱狂をコロナ禍で手放してしまう日々が続いてしまった。他の強豪国と比較しても、遅い再始動である。しかし、ワールドカップで得た資産が、次なる欧州遠征での対ブリティッシュ・ライオンズ戦であり、対アイルランド戦でもある。短い期間ながら密度の濃い試合が続くのは、実にありがたい。2019年からの+アルファをどう築いていくか? が今回のキャンペーンであり、その第一歩をこの縁起が良い場所でお披露目するのである。

そのスパーリング・パートナーに選ばれたのがサンウルブズ。まさにサプライズでの復活だった。2020年限りでスーパーラグビーの離脱の憂き目にあい、それに重なるようにコロナ禍によるリーグ中止。不完全燃焼のままラストシーズン、そして日本のラグビーファンとの別れを迎えることになってしまった。
そんな彼らが、1試合限りの復活を成し遂げる! メンバーはポスト日本代表を目指す若手が中心だが、エドワード・カークとリアキ・モリというバンディエラも加わった。
僕もこの試合に関しては、サンウルブズのユニフォームを着て挑むことにした。ようやく訪れた、ゲームを通してサンウルブズにお別れの挨拶をするとき。いや、ひょっとしたら、一縷の望みを託しても良いのではないか、という淡い期待も胸に秘めながら。

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前半に主導権を握ったのは、チャレンジャーであるサンウルブズだった。
とにもかくにも、攻撃のテンポが良い。接点でプレッシャーをかけ、ボールを奪う。スクラムハーフの荒井が素早くボールをパスアウトする。そして、山沢が司令塔にいる。変幻自在のキックで日本代表ディフェンスの裏を何度も突く。日本代表のハンドリングに難があったのも確かだが、先手必勝で強めにプレッシャーをかけるサンウルブズの「本気」は随所ににじみ出ていた。

この戦い方が結果に結びついたのが前半18分のトライだろう。リアキ・モリの強烈なタックルでボールを奪うと、すぐにバックスへ展開。待ち構えていた山沢のハイパントは、ディフェンスが整っていない日本代表の面々を混乱させていた。誰もキャッチできず、ピッチを点々とするボールを、インゴールゾーンで押さえつけたのは荒井だった。サンウルブズの思わぬ先制トライに、スタジアムからは思わず歓声が上がったのであった。
フルスロットルで前半から飛ばすサンウルブズ。30度近い高温の中でのプレーだったが、ここにも秘策を持っていた。今回は正式なテストマッチではないため、「選手の交代は自由」というルールが定められていた。中でも重要な条文が、「一度交代した選手をもう一度再投入できる」というものだ。疲れが見える選手を一旦ベンチに下げて、一息ついたらまた投入。もちろん、日本代表側もそのルールは知っているし、そういう策を取ることも構わないはずだ。ただ、立場的には「横綱」みたいなものである。どっしり構えていなければ、その後の戦いへ不安が増えてしまう。かくして、攻めるサンウルブズと耐える日本代表という構図は生まれたのであった。
前半は3−14とサンウルブズのリードで終わった。日本代表の面々はベンチメンバーも含めてピッチ上に集合し、小さな「反省会」を開いていた。

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後半も最初の10分はなかなか膠着状態を崩せなかったが、その流れを変えたも「選手交代」だったと感じる。日本代表は、動きが重かった稲垣、田村、リーチなどを下げ、フレッシュなプレーヤーに切り替えていく。対するサンウルブズは後半8分に荒井と山沢を一旦ベンチに下げた。
すると、徐々に日本代表の攻撃にスピード感が増してきた。モールやらペネトレーターのゲインやら、どちらかというと力任せの感は否めない。でも、その力が体格では劣るサンウルブズにとっては脅威だった。
また、山沢の交代も賛否が分かれるところであろう。替え時としては良いタイミングだったと思うが、僕はフル出場させても良かったと考えている。それくらい、攻撃面では山沢に依存していたし、ゲームそのものの流れを変えるリスクがあった。結果的に、15分後に山沢がピッチに戻ってきたときには、彼一人ではどうすることもできない状態だった。
残り20分で日本代表は4トライを奪い、一気に逆転。32−17という一応の格好がつくかたちで、欧州遠征へと向かうことができたのだった。

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あのワールドカップ以来、久々にお披露目された日本代表。ただ、世間を騒がせた19年組のプレーは少々不満が残る。再び胸に炎を宿すまで、待ち続けるしかないのかもしれない。その一方で、印象に残ったのはキャップ数の少ない新戦力たちだった。
フッカーの堀越はモールを上手くリードし、スクラムハーフの斎藤はディフェンスを欺くナイスパスでトライを演出。タタフ、フィフィタの突破力もワクワクするものだった。日本代表に飢えた選手たちがベテラン勢を驚かすというのは、良い循環と言えるだろう。
チームとしての戦い方に不満があるとすれば、「次のトライゲッター」がまだ見えてこない点である。言い換えれば、福岡の後釜は誰か? ということでもある。そもそもこの試合ではウイングにパスが全然回ってこなかった。もう少し前半のうちからチャレンジして、大外にいるプレーヤーを走らせても……という思いは残ってしまった。
さて、これからの2試合で日本代表はどんな未来を見せるのか? まず、2023年の軸になるのは姫野と松島だと僕は考えている。この2人がいるといないでは、日本代表の質も大いに変わってくるだけに、次の試合で「新しい日本代表」は姿はよりクリアになるだろう。ただ、この2人を支え、そしていずれは追い越す面々が出てくることも重要だ。いつまでも「2019年」に頼っていてはいけない。新しいうねりが欧州遠征で生まれることを期待したい。

一方、サンウルブズはサンウルブズらしい戦い方をしてくれた。スピード感が溢れる攻撃、低く突き刺さるタックル、そして愛すべき勝負弱さ……。「ゲバは格下側が奮起する」と言われているが、今日の試合もその言葉を具現化するものだった。
サンウルブズはこれで本当に本当に最後。ということになるのだが、それで良いのだろうか? 魅力的なラグビースタイル、多様性溢れるメンバー、日本代表を目指す武者修行の場、そして、苦しくても応援し続けるたくさんのファンたち……。
サンウルブズが残したものは、たくさんある。それを再認識できる機会を、運良く僕らは得ることができた。
プロラグビークラブとしてのサンウルブズを復活させるのは、厳しいだろう。ただ、別のかたちでサンウルブズのカルチャーを残し、生かし続けることはできないだろうか? 例えば、A代表の愛称をサンウルブズにする、など。日本ラグビー再始動の地で感じたことは、これまで築き上げてきた歴史や文化の大切さである

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