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帰り道で見上げて

 明治神宮野球場や秩父宮ラグビー場で試合を観終えると、僕は最寄り駅の地下鉄銀座線・外苑前駅を使わずに、歩いて渋谷駅を目指す。青山通りをひたすら歩く、約30分弱のウォーキング。貧乏学生時代、わずか数分の乗車で165円も取られることに疑問を抱いて以来、この習慣を続けている。
 試合会場から歩いて数分、僕はいつもある場所で、視線を上げる瞬間がある。年季が入ったビルの2階部分。1階部分はスーパーマーケットが入っていて、今日も客で賑わっている。でも、2階部分は何だか閑散としている。
 その視線の先には、かつて「勉強カフェ 青山スタジオ」というものがあった。

 ……なんだか仰々しい書き出しになってしまった。
 僕は執筆場所として「勉強カフェ」という自習室に通っている。普段は横浜関内か、渋谷にあるスタジオに足を運ぶ。正直な話をすると、今取り上げている青山スタジオに立ち寄った回数はそれほど多くない。四半期に一回くらい、1~2時間だけ使用して、さっと帰る。顔見知りのスタッフがいなければ、一言も喋らずに、用事を終えたらそそくさと帰ったこともあったと思う。

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 そんな青山スタジオに一つだけ思い出がある。あれは何年前の[tcy]11[/tcy]月だったろうか。僕は高校ラグビーを秩父宮で観戦したあと、青山スタジオに立ち寄った。一進一退の攻防が続き、後半ロスタイムのペナルティゴールで勝負は決した。胸を打つゲームだった。この試合は、すぐに記録に残さなければ。その思いで急遽青山スタジオに立ち寄った。
 原稿を書く前に、体を温めようと思いコーヒーをカップに注いだ。青山スタジオはレストランの居抜き物件だったので、キッチンが常設されていた。料理教室も開催できるくらいの、立派なキッチンである。なので、そこで提供されるコーヒーはなぜか本格的に見えた。
 コーヒーを注いでいると、顔見知りのスタッフが話しかけてきた。今日は何かの用で来たのですか? 一通り観てきた試合について話した。スタッフは納得した表情で答えてくれた。

「だから今日、やたらこの通りを高校生の集団が歩いていたのですね!」

 ふと気になって、窓の向こうに目を向けた。青山スタジオには大きなガラス張りの窓があり、そこから大通りを一望できる。そこには、応援を終えた多くの高校生が歩いていた。

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 諸事情により、青山スタジオは2017年の7月末をもって閉鎖される運びとなった。あのガラス窓にでかでかと貼ってあった「勉強カフェ」のロゴも、今は剥がされている。なので、この建物の2階部分に何があったのかは、一目見ただけではわからない。
 少なくとも、不動産的な意味合いでは、もう存在していない。しかしながら、僕がふと視線をビルの2階に目を向けた瞬間、そこに「勉強カフェ 青山スタジオ」は存在し続けているのである

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※本稿は当方が編集長を務める「勉強カフェがある1日(電子雑誌をつくろう!presnts)」内に収録したものです。各種電子書籍ストアにも随時無料配信予定ですので、どうぞお楽しみください!

どうもです。このサポートの力を僕の馬券術でウン倍にしてやるぜ(してやるとは言っていない)