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【コンサルの眼】IoTプロダクトを事業化まで持っていけない4つの理由とその解決策

SNSコミュニティによるモノづくり知識のオープン化、安価なCAD・基板設計ソフトによる設計の効率化、ECを通じた調達先の拡大と小規模調達、3Dプリンターや数枚単位からのプリント基板作成・実装受託サービスによる加工・組立の省略、カートシステムによる販売機能整備の簡略化、SNSを用いたプロモーションの大衆化。2012年に出版されたクリス・アンダーセンの「MAKERS」でも既存の製造業に限られていたモノづくりが個人やスタートアップといった新規参入者に門戸を開き一般化することが予測されていました。

が、実際のところ趣味でやる人は増えたような気はするものの、事業化して市場に一石を投じようとしている人はまだまだ少ないように感じます。そこで、モノづくりを趣味から事業化(売る)まで持ってくうえでのハードルとその対策について書きました。

1.アイデアや仕組みがバレるから気軽に相談できない

正しく設計しているはずにもかかわらず、うんともすんとも言わない。なんとなく動いてはいるんだけど、想像通りに動かない・挙動が安定しない。新しいものを作ろうとしているんだからこそ、こんなことは日常茶飯事。便利な世の中、SNSなんかのモノづくりコミュニティなどでコメントすれば先輩方が優しくアドバイスをくれます。

とはいえ邪魔するメーカーズ(モノづくりに携わる人)の欲。

XXの機構は10個も模型を作って検証した結果出来上がったものだから、他では思いつかないだろう
⇒だとしたら特許がとれる可能性もあるんじゃないのか
⇒XXの機構の動きを検知して通信につなげる回路設計について誰かに聞きたいけど、XXの機構について他の人に知られたら特許取得チャンスが水の泡になるんじゃないのか
⇒だったら聞かないでもうちょっと頑張ってみようか

あれ、モノづくりでやりたかったことって「モノを作ってみんなに使ってもらうこと」じゃないんでしたっけ?「特許持ってる」って言いたいんでしたっけ?

わかります、その気持ち。特許持ってるっていうのは紙もあるしわかりやすいですもんね。でもね、ちょっと考えてみてください。あなたのそのアイデアは本当に新しいんですか?世界に77億人、日本だけでも1.2億人いるような世界であなただけしか思いつかないんですか?

「何言ってるの?これは新しいんだよ!」という方のために僕も譲歩します。仮にあなたしか思いつかないアイデアだったとしましょう。特許をとろうと考え、特許の範囲を定めてデータベースから類似の特許を探し、特許侵害がないか調整を入れたうえで申請。その後一年以上の審査機関を経て認証、うまくいかなかった場合には却下。慣れない人は申請までの手続きについて弁理士さんのサポートを受けるため、数十~百万円程度の費用が発生。特許化することで得られるメリットってそんな大きいんですか?特許取得の手間ばかりかかって開発が遅れる、手間賃の分だけあげた製品価格のために使われなかったとかなりませんか?

グローバル展開を前提とし、めちゃくちゃお金をかけて最先端の研究環境で取り組んでいるのであればわかりますが、特許とる意味って本当にあるんですか?だったら、仕組みをWeb上でオープンにしちゃうことで後発者からの特許侵害を訴えられるリスクは抑えながら「特許はめんどくさくて取らなかったけど、この時にその仕組み作ってたんだよね」という方がかっこよくないですか?

隠してないで、わからないことはさっさと聞いちゃいましょう。


2.必要な知識・スキルの範囲が広すぎる

時代はIoT!Web側のスキルはあるしまぁなんとかなるでしょ。ケースって中国とかで適当に作ってくれるんじゃないの?え、筐体設計?設計するにはCADが使えないとだめ?そもそもの図面に関する知識が必要・・・。

Webサービス開発では大きく「フロント」と「インフラ」などと専門性に基づき役割分担がされていますが、IoTプロダクトとなるとこれらに「筐体・機構」「回路・組込ソフト」「通信」と同じくらいの大きさのものが3つくらい追加で必要になることがすぐにわかります。一つの分野を理解するだけでも結構な時間がかかるのに全部って。

だったら知ってる人を集めればいいという意見はもっともですが、時間もかかるIoTのモノづくり。事業性も不透明な中、十分な人的資源を集めてこられる環境は一部の大手企業や研究所くらい。

例えば筐体・機構の開発。オーソドックスに進めるのであれば製図に関する基礎知識を持ったうえで「構想」、「CADで起こしてシミュレーション」、「部品加工」、「組立」、「テスト」。

ちょっと考えてみてください、これ本当に必要ですか?

汎用的な筐体・機構の図面ならいくらでもネットに転がってます。CADが使えなくても既存の図面に赤ペンで修正加えればいいじゃないですか。汎用品の追加工なら赤ペンで修正加えた図面をPDFで送ればカスタムしれくれるところはいっぱいあります。

「いやいや、CADなんてもってのほか、そもそもの製図の知識もないんだけど。」という方もいらっしゃるでしょう。

大丈夫です。

小中学校のころに図工や技術といった授業ありましたよね?簡単な工作・大工道具くらい使えますよね?図面かけなくてもDAISOや秋葉のパーツショップに行って汎用品を買ってきて、図面なんてひかずに加工しちゃえばいいじゃないですか。図面引けなくても出来上がったものをもってけばいいんです。モノがあれば、周りの人がそこから逆引きしてくれます。

IoTプロダクトを作るときに必要な知識・スキルの範囲は確かに広いです。でもはじめてWebサービスを作った時もはじめからすべての知識・スキルがあった訳ではなかったはずです。IoTプロダクトといえど、まずは今ある知識・スキルをベースに作ってみることが重要です。


3.売るために必要な仕様がわからない

街中で歩いていてみかけるモノはどれも、パッケージやデザインも含めて作り手のこだわりが表れており自分では作れないだろうなというものばかり。また家電についてくる取扱説明書なんかでも細かい文字でびっしりと何枚にもわたって動作環境等の仕様について書いてあるものがほとんど。

売るためのモノは「一見して家では作れそうにないもの」「絶対的な基準を繰り返しのテストによりクリアしたもの」であるべきという考えが頭の中にあるのではないでしょうか。

メルカリ等のオンラインでのC2Cマーケットが出てきたため、以前ほど見かけることは少なくなったように思いますが、週末に公園や広場などで行われるバザーやフリーマーケットを想像してください。古着なんかもありますが、個人が趣味で作った手作り感のある(良くいえば「あたたかみ」)のあるアクセサリーや雑貨も売りに出されています。これらは「売るためのモノ」ですが、ほとんどが上で書いた2点を満たしていないと思います。ただし、買い手としてもそれを問題だとも普通考えません。「いやいや、それはIoTプロダクトじゃないから。」といった声もあるかもしれませんが、モノづくりの同人イベント(大きなものだとMaker Faire)にいけば同じような手作り感のある「売るためのIoTプロダクト」がそこにはあります。

つまるところ「モノを売る」とは、売り手と買い手の双方がその取引を納得する形で行われていればよいのです。
(もちろん必要な法律・規制には対応したうえで)

バザーで手作りのアクセサリーを購入する場合、アクセサリーを手に取り試着なんかをしながら、気になった点については作り手であろう出展者に聞き、検討した結果購入。しばらく使って壊れちゃったとしても「そんなに高い物じゃなかったから、まぁいっか」で納得しませんか?

グローバルに何億人をターゲットとするモノ、そして十分な時間とお金があれば些細な点も説明・検証しておく必要がある(びっしりした仕様説明)かもしれません。一方モノづくりの最初の段階で今考えられる全ての問題を検証していたら、時間もお金もいくらあっても足りません。であれば、最低限みんなが気になるであろう主要な点を検証しておき、あとは故障などが起こった時の保証・対応方法を明確にし双方が納得しておくことが重要です。

開発担当はモノの品質を手段とした納得感の醸成にフォーカスしがちですが、huntechでは開発担当もユーザーと密に接していたことでモノの品質以外も含めた広い視野で納得感の醸成方法について一緒に議論できたことが非常によかったと思っています。


4.お金と時間がかかる

息巻いてモノづくりに取り組んでみたもののプロトタイプの完成に半年。
これからフィールド実証を予定しているものの改善要望が多く出てくることが見込まれる。要望への対応も考えると製品化の目途もないから、この事業はもう止めようか…。こんなにお金と時間がかかるとは思ってもいなかった。

え?何と比べて「お金と時間がかかる」と言っているんですか?
Webサービスですよね、多分。

Webサービスであればなにかエラーがあった場合、履歴からエラー発生条件を特定し再現。エラーの起きてないケースと比較して処理ロジックの抜けもれや条件設定の誤りなどから原因を特定し、プログラムを修正して改修。クリティカルでないものであれば数時間~数日で解消されるものがほとんど。

これがIoTプロダクトになるとWebサービス側での作業に加えて「筐体・機構」「回路・組込ソフト」「通信」に関する作業が加わります。しかもこれらは基本的に履歴がないため、エラー発生時の条件を推定しながら個別に切り分け、一つずつA/Bテストを行っていく必要があります。

例えばスマートトラップで「磁石が外れたにもかかわらず作動検知が届かない」というエラーの場合では磁石の強さは十分か、磁石と磁気センサーの距離は十分か、電池の向きは正しいか、電池の残量は十分か、回路が断線していないか、回路の容量は十分か、通信環境は適切か、SIMの認証プログラムは正しいか…などなど。

考えなければいけない範囲が広いだけでなく、各部品の個体差も踏まえなければなりません。これらについて一つ一つ状態を再現し、測定機等で測った上で原因を特定していく作業が必要です。特定したとしても、改修するために新たな部品を選定・購入し、実装する場合には部品の購入費用がかかるだけでなく、部品が届くまでに1か月ということもざらです。

もちろんこのようなエラー対応についても冒頭に書いた知識のオープン化、ツールによる効率化等の環境変化により以前よりも圧倒的に安く・早くできるようになっています。そのようなことを踏まえても「お金と時間が…」と言っているのであれば単なる無知です、気合が続きません。潔くモノづくりはやめましょう。


最後の4つ目はともかくとして、「モノづくり」というと家電屋さんでみるグローバル展開しているモノを基準に考えている気がします。
もちろん最初からそのようなところを目指すのであれば高いレベルが必要でありますが、まずはそれなりのレベルで小さくプロダクトを作ってみることが事業化への一歩です。

<ポイント>
・アイデアや仕組みに新規性はないと割り切り、どんどん聞こう
・知識・スキル習得はあとまわし、今あるものをベースにまずは作る
・仕様はユーザーが納得するストーリー・水準を基準とした仕様を考える
・Webサービスより時間・お金がかかるの当たり前、そこは割り切る

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