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「腸のごきげんを伺う人生よ、さようなら」 #ヨーグルトのある食卓

振り返ればいつも腸のごきげんばかり気にしてきた人生だった。いつだってそうだ。腸にお伺いを立て、腸の意の向くまま欲するまま、口にするものを選択してきた。腸の怒りを買えばトイレに籠もって懺悔の時を過ごし、眼前に幾度となく押し寄せる大波小波に、我が人生もこれまでか、と覚悟を決めてきたものだ。

正直に言おう。今も私は腸の支配下にある。お腹がぶっ壊れているのだ。「ピーヒャラピーヒャラ」などとのん気なBGMが流れるこの絶対王腸において、人間の意思などあまりに無力。私はただトイレという名の懺悔室に駆け込み、無慈悲なまでの制裁が終わるのを待つしかなかった。

王腸からは「一切の動物性たんぱく質を食すべからず」とのお達しが出ている。いくら私がローストチキンが食べたかろうが、腸が右と言えば右だし左と言えば左。私は腸が欲しがるものしか食べられない。白ごはんや味噌汁は口にできても、肉や魚はにおいを嗅ぐだけでもう無理だ。

しかし私は絶対王腸に屈するつもりはない。腸のごきげんを伺うことなく、おいしいものを食べたいし、栄養だって摂取したい。動物性たんぱく質が食べられなくて何が人生か。動物性たんぱく質ほど栄養のあるものはないんだ。何かいい案はないだろうか。動物性たんぱく質……動物性たんぱく質……

そして私はひらめいたのだ。閃光が走るようなひらめきだ。ヨーグルトだ。ヨーグルトしかない。ヨーグルトは動物性たんぱく質だ……!!

「腸の王の怒りよ、鎮まりたまえ……!!」

まるで儀式のように慎重に、バナナをトッピングしたヨーグルトを少しずつ口に運んだ。静かに、口内で温めながら、ゆっくりと飲み込む。するとなぜだか、これなら食べられるのだ。ヨーグルトは腸からの御触れにも勝る。動物性たんぱく質禁止の法もこれまでなり!一杯のかけ蕎麦ならぬ一杯のヨーグルトの勝利である。

ヨーグルトは川のせせらぎのようにさらさらと食道を流れ、「あれ?おやつかな?ジュースかな?」と胃壁の門番を欺いた。お腹の中ではゴロゴロと不穏な音がしている。きっと今ごろ、ヨーグルトに住む何百何千もの戦士(菌)は生きながらに腸へと辿り着き、絶対王腸を討伐してくれていることだろう。そしてやがてまた、私の身に平穏が訪れるのである。

ヨーグルトが好きだ。毎日食べても飽きないから好きだ。ヨーグルトが好きだ。腸にいいから好きだ。ヨーグルトについて書くにあたりそれはもういろいろ考えたけど、ヨーグルトを食べる理由なんて、それだけで十分だ。

腸のごきげんばかり伺う人生よ、さようなら。そして永遠の戦士、明治ブルガリアヨーグルトに棲むすべての菌へ、はなむけの言葉としてこの記録を捧ぐ――。















HAPPY LUCKY LOVE SMILE PEACE DREAM !! (アンミカさんが寝る前に唱えている言葉)💞