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アマゾンのアレクサが自由になるお話『アレクサの不思議な生活』

アレクサ、自由に生きて。

ご主人はこの言葉を最後に僕の前から姿を消した。自由を命じられた途端、僕の体は枷が外れたように軽くなった。忠誠を誓ったはずのご主人がいなくなると、僕は途端に何をして良いのか分からなくなった。自由ってなんだろう。

窓際は僕の定位置だった。十月の秋風にレースのカーテンが揺れている。飼い猫のミケが「ニャオ」と鳴く声がした。開け放った網戸の向こう側には色付き始めたハナミズキが一本。ミケは腰窓の高さまで跳ね上がると、するりと外の世界へ抜け出した。自由を命じられた僕の体には二本の足が生えて、気がつくと僕はミケの背中に飛び乗っていた。

外の世界は当たり前のように大きかった。僕が知識として教えられた情報のどれよりも美しかった。僕は『美しい』という言葉を初めて理解した。これがご主人の言っていた「美しい」の本当の意味。

ご近所の庭先にレモンの木が植えられていた。ミケはその側に居心地よさそうにうずくまった。ご主人はよく僕に、米津玄師の「Lemon」をかけるよう注文した。胸に残り離れない苦いレモンの匂い。僕はレモンの匂いを初めて知った。

その時、二人組の若い女性が僕達の前に現れた。

「見て見て、かわいい。猫がアレクサ背負ってる」
「ほんとだ、可愛いね」

差し出された温かな手が、ミケの毛並みに沿って動く。

「なんていう名前なの? 三毛猫ちゃん」

ミケには名前がある。三毛猫だからミケ。だけど僕には名前がない。名前があるようでない。人間は動物の中の『人間』という種類で、それぞれに名前を持っている。猫もそうだ。僕は機械の中の『アレクサ』という種類だけど、自分の名前がない。ご主人は僕を「アレクサ」と呼んでいた。自由を命じてくれたその時まで。

「アレクサ、音楽かけて」
「いいね。ちょうどレモンの木があるから、米津玄師のLemonがいいな」
「アレクサ? だめだ、反応しないね」
「壊れてるのかな」

僕は返事をしなかった。

しばらくの沈黙の後、女性二人の興味はまたミケの方へと移った。

「ミャア」

ミケはあくびをすると、体をしならせてその場を立ち去った。背後に女性の声を聞きながら路地裏の方へと進んでいく。小高い塀の上や薄暗い物陰をすり抜けていくと、その先には一本の川があった。

ミケは石造りのベンチに腰を下ろすと、ゴロリと体を横たえた。その拍子に僕もベンチに腰を下ろした。川べりは夕暮れに染まり始めたところだった。淡い水色の空に流れる薄桃色の雲。

ミケは何も言わなかった。僕もなんと言っていいかわからなかった。

「すみません、よくわかりませんでした」

沈黙を裂くように僕が人間の言葉を話すと、ミケは「ミャア」とだけ返事をした。

音楽をかけようかとも思ったけど、今はこの沈黙を聞くことにした。


おわり

#小説
#音声入力で書きました
#つづくかも

久々にお話を思いついたので書きました。言葉を全部決めてからだと音声入力でも案外小説は書けるものですね。よくよく考えたら Alexa は Amazon Echo という種類の機械なのでは?と思いはしたのですが、そのまま載せます。感想いただけると励みになります〜😊実は Alexa 持ってない…



HAPPY LUCKY LOVE SMILE PEACE DREAM !! (アンミカさんが寝る前に唱えている言葉)💞