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これまでに二度、試乗に失敗した。どうも自分の身体に合うシートが見つからないのだ。ボディは気に入っているのに、座り心地がしっくりこない。背もたれの角度、座面の柔らかさ、足元の構造など、こだわるべき点はいくらでもある。どれも些細なことかもしれないが、毎日使うものだから妥協はしたくない。せっかく車体搬入までしてもらったのに申し訳ないが、こればっかりは譲れないのだ――。

などと書くとまるで車の話みたいだが、そんなことはなく、車椅子の話である。最初から車椅子の話と断っておくと読者数が激減するであろうと予測し、あえて新車の購入話と見せかける巧妙なテクニックを使用したのだ。読者の皆々様におかれましては「なんじゃこいつ」と思いつつもお許しいただければ、これ幸いにございます。

で、車椅子に話を戻すが、これがなかなかに試乗が難航している。なぜなら私が太すぎるからだ。思えばこの一年、心の赴くままに食べ続け、睡魔の赴くままに眠り続けてきた。それもこれも珍病が全ての元凶なのだが、それにしてもまあ(満腹中枢を失いし者になったとしても)、食べ過ぎである。人は食べた分だけ大きくなる。そんなことは第一次成長期の子供ですら知っている。それなのに、食べて、食べて、食べまくり…。気が付けば第三次成長期、第四次成長期と、未だかつてない領域に突入してしまった。

奥様方がよく、「これでも昔は可愛かったのよ」と若い頃を懐かしんだりしているが、いつの間やら私も全く同じセリフを口にするようになってしまった。これでも昔は細かったのよ。昔と言ってもたった一年前の話だが、悠久に流れる時の中で、かつての自分など忘れてしまったのだ。この一年はそれほどに私を大きく成長させてくれた(肉体的に)。

珍病になる前はただの散歩好きの中肉中背の女だったため、車椅子に乗ったこともなければ太ったこともなかった。そのため当時は考えもしなかったのだが、このたびこのような機会に恵まれ(謎のポジティブ思考)、車椅子は意外と座席の横幅が狭いことを知った。骨折とか老化とかの場合であれば意にも介さないのかもしれないが、私はなにぶん珍病ゆえ、身体に物体が接触すると痛覚が敏感に反応してしまう。なのでシートの両サイドにある謎のプラスチック板が太ももと尻に当たり、これがどうにもダメなのである。これなら今現在自費で借りている簡素なモデルの方がよっぽど楽だ。

試乗用の車椅子は介護用品会社さんが家まで運んできて下さるのだが、一度ならず二度までも(太ももと尻のせいで)予選通過ならずとなると、申し訳なさで胸が痛む。私の尻がもう少し小さければ…!叶わぬ願いが儚く散っていく。

実際、太ったとはいえ歴史的デブというほどでもないし、これぐらいの太ましさで横幅が足りないというのは車椅子側にも問題があるのではなかろうか、と薄々思っていたりもする。たとえば男の人は骨格からして大きいだろうし、内山くんとか石塚さんとか、森三中の黒沢さんとか、そういう人たちはいざという時どうするのだろう。緊急で持ってきた車椅子に腰掛けて尻が抜けなくなったら、これはもう大惨事である。

そりゃあきっと大きいサイズの車椅子もありはするのだろうけど…。というかやっぱり私の尻が大きすぎるだけかもしれないけど…。

尻道楽といい、気が付けば尻のことしか頭にない私なのであった。

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