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ドルサツ 〜殺し屋だけど副業でアイドルのマネージャー始めました〜

■1話目の登場人物:

●明羅
20歳前後の女性。ショートカット。ボーイッシュな体型。
正確な年齢は不明。地方の貧困街で生まれ、児童養護施設を脱走し、各地を転々としながら成長したのち、闇組織に買われて、殺しの腕を鍛えられてきた。
そんな特異な生育環境ながら家事全般が得意で、自宅はいつも整然としている。
憧れの人はゴルゴとレオン。


●聖那
女性。20歳。アイドルユニット「キルピル」の中心メンバー。
ビジュアルも歌も踊りも卓越した能力をもち、「次世代を担うアイドル」として注目されている。

●薬丸
男性。36歳。闇組織の東東京支部長にして、明羅の上司。ずる賢さとゴマすりで出世した。


■1話シナリオ

◎第1段落:

殺し屋が依頼人と対峙している、欧米映画テイストなハードボイルドなイメージ絵

明羅N「かの有名なヒットマンは語っている」
「依頼人と殺し屋は二人で絶壁の淵に立っているようなものだ――と」

裏道を勇ましく歩く明羅。
明羅N「依頼人は目的を同じくする相手だが、決して油断してはならない」

真剣な面持ちの明羅

カフェのテラス席で明羅に向かって手を振る聖那
聖那「明羅ちゃーん。こっちこっちー」

明羅N「なのに、なんだ? このほのぼの展開は!!?」

[殺し屋 明羅]
[依頼人 聖那]

聖那の座るテーブルの前に立ち、聖那を見下ろす明羅。
明羅「街中で本名呼ぶなって言ったよな」

聖那「じゃあ、これからは、あきちゃんって呼ぶね!」

ため息つきながら腰掛ける明羅

聖那「今日は無理にコーヒー頼まなくていいからね」
ふてくされた感じでウェイターに注文する明羅
明羅「…オレンジジュース」

前のめりになる聖那
聖那「今日こそあきちゃんの初恋話聞かせてね!」
明羅「今日こそターゲットを言え」

眉間にシワを寄せて真剣な面持ちの明羅
明羅「誰を殺してほしいんだ?」

聖那「そんな怖い顔してー」
「せっかくの可愛い顔が台無しだよ」
明羅、思わず顔が赤くなる。

聖那「生まれて初めて殺し屋さんに依頼して、どんな怖い人が来るのかドキドキしてたら…」

聖那「こんな可愛い子が来たんだもん」
「友だちになりたいって思うでしょ、ふつう」

明羅「何回言わせりゃわかるんだ?」
「オレとお前は、依頼を遂行するまでの関係にすぎない」
聖那「じゃあ、終えるまでは関係を深められるってことだね」

睨みつける明羅
明羅「殺し屋と依頼人が友だちになれるわけないだろ」

大げさに身もだえる聖那
聖那「あきちゃん、こわいー」
「まるで人殺しみたいだよ」

明羅、席を立つ。
明羅「いつまでもふざけてんなら、下りる」

聖那「おりる?」
明羅「お友だちに頼むんだな」
「どうせストーカーになった元彼でも殺してほしいんだろ」

聖那「お金はもう事務所に振り込んだから、今さら下りれなくない?」

聖那「契約が不履行になったら、経歴に傷が付くんでしょ」
言い返せない明羅。

聖那「裏社会も大変だよね。キャリアアップが求められるなんて」

観念した顔で席に戻る明羅

席を立つ聖那
聖那「そろそろ行かなくちゃ。リハに遅刻しちゃう」

「あ、そうだ」とチケットをテーブルに置く聖那「次の週末だから」

明羅「くそアイドルのライブなんて行くわけないだろ」

聖那「一流の殺し屋たるもの、依頼人の下調べにも抜かりがあってはならない」

聖那「ーーって、レオンさんも言ってたよ」
明羅「そ、そうなのか??」

聖那、明羅の耳元で呟く。
聖那「それに」
「私が殺してほしい人、会場にいるよ」
明羅「えっ?」

聖那「じゃーねー」と去っていく。

取り残された明羅、ジュースをすする。

◎第2段落:

明羅が所属する闇組織の事務所。

複数人いる中、明羅だけ立っている。

ボス席に腰掛けている薬丸
薬丸「明羅ぁ。あの任務、片付けたか?」

明羅「まだっす」
「ターゲットを教えてくれないんでほんと困りますよー」

事務所にいる輩たち爆笑する。

輩A「依頼人に舐められてるって、どんな殺し屋だよ」
バカにされているのに、明羅はヘラヘラしている。

薬丸「笑ってんじゃねえ!」

場がシーンとする。

薬丸「せっかくハニトラ以外の仕事を回してやったのにちんたらしやがって」

薬丸、明羅の首元を掴む。
明羅の胸に組織のバッジが付いている。

薬丸「お前には組織に拾ってもらった感謝の心はないのか?」

愛想笑いを浮かべる明羅
明羅「もちろんありますよー」

舌打ちして明羅を突き放す薬丸
薬丸「なら、ちっとは役に立て」

輩たちに声をかける薬丸
薬丸「おい、焼肉食いにいくぞ」

立ち上がり、薬丸に付いていく輩たち

明羅もついていこうとする。

その顔に雑巾がぶつけられる。

薬丸「お前はトイレ掃除だ」

輩A「明羅ちゃん、早く一人前になって焼肉食えるようになるといいねえ」

ドアが閉められる。

明羅はぞうきんを床に捨てて、ポケットに手を入れる。

ポケットから出てきたライブチケットを見る。

◎第3段落:

街中。
意気揚々と歩いている明羅。

明羅の雑な想像
狭いライブ会場。客は数人。しょぼいステージで踊る聖那。
明羅は、見るからに怪しげな男をターゲットと見抜き、カッコよく殺害する。
組織の連中が明羅をもてはやしている。
薬丸「今日は明羅のにんむ成功をいわって焼肉パーティーだ!」

ほくそ笑んでる明羅、人とぶつかる。

「あ、すません」と顔を上げる。

明羅「えっ?」

ライブ会場の外観(Zeppくらい)、たくさんの観客

明羅「えっ??」

会場の中。テレビ番組からの花のスタンド。警備員。
物販や飲食販売もある中でスタッフが忙しそうに動き回っている。

明羅「ええーっ?」

ステージでは聖那がセンターでパフォーマンスしている。【大ゴマ。見せ場シーン】

大盛り上がりのライブ

明羅は客にもみくちゃにされながら一人呆然としてる。

ライブ終演後の控え室。
聖那「あきちゃーん、来てくれたんだー」

げっそりしている明羅に、聖那が駆け寄る。

聖那「私が殺してほしい人(ルビ:狙ってる人)見つかった?」
明羅、黙って首を振る。

ユニットメンバーA「なに?聖那が狙ってるやつ、招待してたの?」
ユニットメンバーB「えー、そんなカッコいい人いたっけ?」

聖那「私が狙ってるのは…」

聖那、明羅を抱きしめる。
聖那「この子!」

ユニットメンバーたち、明羅を取り囲む。「えー、可愛いー」「お肌すべすべー」

聖那、明羅を輪から押し出す。

明羅の耳元で囁く聖那
聖那「駅前のファミレスで待ってて。シャワー浴びたら合流するから」

◎第4段落:

ライブ会場の外を歩く明羅。

聖那ファンの人たちが横を通っている。うちわやグッズなど持っている。
「今日の聖那ちゃんサイコーだった」とか興奮気味に話している。

ファミレス。

明羅が一人で座っているテーブルに、聖那が駆け寄ってくる。帽子やメガネなどで変装している。

明羅「お前、結構人気あるんだな」
「しょぼい地下アイドルかと思ってた」

聖那、笑いながら腰掛ける。

聖那「ライブはどうだった?」

明羅、考える。

明羅「なんか…キラキラしてた」

聖那、顔がぱあっと明るくなり「私が??」
明羅「…じゃねえよ!ステージが、だよ」

明羅「普段あんま明るいとこいないから、まぶしくて…」

聖那「私も子どもの頃、あんな輝いてる場所があるんだってびっくりした」

聖那の回想。子どもの聖那がステージに見惚れている。

聖那「あそこで一生過ごせたらどんなに楽しいかなあって…」

明羅、口を開けてポカンとしている。

苦笑する聖那
聖那「一生っておかしいよね」
明羅「あ、いや…」

明羅「すげえな、子どもの頃の夢を叶えたのか…」

聖那(ささやくように、ぽつりと)「こんなんじゃ全然だけどね…」

明羅「なに?」
聖那「…私のことより、あきちゃんは?」
「子どもの時の夢は?」

聖那「殺し屋?」
明羅「なわけあるか!」

明羅を真っ直ぐに見つめる聖那
聖那「じゃあ、子どもの頃、何になりたかった?」

明羅の回想
児童養護施設の庭で、冷めた顔をしながら立ち尽くす幼い明羅。

その寂しげな明羅な顔を優しく見つめる聖那

明羅の手を握る聖那
聖那「一緒に夢を叶えようね!」

明羅、大きく目を見開く。

我にかえり手を振り解く明羅。
明羅「それよか、さっさと教えてくれ。ターゲットを!」
「会場のどのへんにいたんだ?」

聖那、微笑みながら席を立つ。

聖那「もっとちゃんと見て」
「そしたら分かるでしょ」

明羅、呆然と見上げている。

◎第5段落:

裏組織の事務所。

ぼーっとした顔で立ってる明羅。

ソファでは輩たちが下品に笑い合ってる。子どもをなぶり殺したことなどを自慢している。

明羅、聖那のライブを思い出す。

その後のファミレスでのやりとりを思い出す。

明羅の首に腕を回す薬丸
薬丸「お前、隠してたな?」

薬丸、スマホを見せる。ファミレスで明羅と話す聖那が写っている。

薬丸「依頼人、こんな美人ならなんで俺に言わねえんだ」

明羅を手で押し除けて薬丸のスマホを覗く輩A
輩A「うわっ激マブじゃねっすか!俺に代えてくださいよぉ」

ニヤニヤする薬丸
薬丸「お前、また依頼人を脅してやっちまう気だろ」

明羅、険しい顔でボソッと呟く。
明羅「汚ねえ手で触れんな」

薬丸と輩A、振り返る。
薬丸「あん?」

へらへらとした顔に戻り、ジャケットのバッジを触れる明羅
明羅「お役に立たせてくださいよー」
「こんなチンケな仕事、すぐ片付けちまいますから!」

事務所の外
早足で階段を降りていく明羅

バッジを外してポケットに押し込む

真剣な表情の明羅
明羅「あいつが殺したい奴、自力で見つけ出してやる」

◎第6段落:

聖那を尾行して観察している明羅

ダンスレッスン中にコーチから激怒されている聖那
ユニットメンバーから嫌がらせされている聖那
粘着質なファンにすり寄られている聖那
ラウンジで背広姿の男にセクハラされかけている聖那

廃墟ビルで双眼鏡を持っている明羅
明羅M「殺したい奴…多すぎねえか??」

柱に背中を預けて息をつく明羅

ファミレスで見せた聖那の満面の笑みを思い浮かべる

明羅「こんなつらいことばっかで、なんであんな笑顔できんだよ」

何かに気づき、双眼鏡を覗く明羅
明羅「ん?」

マネージャーの車から降りて夜道を歩く聖那

明羅「男のところでも寄るのか?」

レンタルスタジオに入る聖那

ダンスの練習を始める聖那

明羅「あいつ、まだ練習するのかよ?」

汗を流しながら踊る聖那【見せ場】

その姿に見惚れている明羅

難度の高いダンスで足を取られて転倒する聖那

思わず手を差し出す明羅

床に座り込み悔しそうに唇を噛む聖那

明羅、心配そうに見つめる。

聖那、突然顔を上げて、こちらを見る。

驚く明羅
明羅「えっ?」

ぱちっとウィンクする聖那

焦る明羅
明羅「気づかれた?まさか??!」

明羅、ドキドキしている。頬が紅潮している。
(尾行がバレたから鼓動が早くなっているのか、それとも…)

場転
明羅の自宅。

物がほとんどない整然とした部屋。薄暗い。

明羅、ベッドの上でぼんやり考えている。

聖那の言葉を思い出す。
「子どもの頃、何になりたかった?」

(回想)
児童養護施設の庭で、冷めた顔をしながら立ち尽くす幼い明羅。
その後ろから抱きつく保育士のおばさん。

反抗した態度で顔を背ける明羅。

そんな明羅を優しく見つめるおばさん。

おばさんが立ち上がり、明羅の手を取る。

食堂のほうへ走っていく。

慌てながら走り出す明羅

おばさんの後ろ姿を憧れの目で見ている明羅

(現在)
上体を起こし、真剣な顔で宙を見る明羅

組織のバッジをゴミ箱に投げ捨てる。

◎第7段落:

ライブ会場。(リハーサル用なので、照明などは限られている。聖那以外いない)

ステージ上で聖那が踊っている。

意外そうな表情の聖那
聖那「あきちゃん」

入り口付近に、明羅が鞄を持って立っている。

聖那「どうしたの?」

床にドサッと鞄を置く明羅

明羅「依頼金、ぜんぶ入ってる」
「事務所から取り返して来た」

聖那「なんで…?」
明羅「依頼は取り消しだ」

聖那、明羅の態度に今までと違うものを感じつつも、おちゃらけた言い方で
「そんなことしたらキャリアに傷がついちゃうよ」
明羅「もういい」

明羅「殺したいくらいムカつくやつがいるのもよくわかる」
「でも、オレらみたいな人間にこれ以上関わるな。お前は陽の当たるところを進むんだ」

聖那、真剣に明羅を見つめる。

ドアが激しく開けられる。

薬丸と裏組織の輩たちが乗り込んでくる。

薬丸「あーきーらー 事務所の金を持ち逃げとはいい度胸してんなあ」
横には輩A。顔中に殴られた跡がある。

明羅「さんざんピンハネしてきただろ。退職金代わりってことで見逃してくれよ」

薬丸、大笑い
薬丸「バカかお前は? 退職金どころかテメェは借金漬けだ」

明羅「くだらねえ」
「オレはもう辞めた。お前らのクソルールには従わねえ」

薬丸「辞められるわけねえだろ!」
「お前はガキの時に買われたんだ。一生俺らの所有物なんだよ」

聖那、薬丸をビンタする。

明羅、驚く。

聖那「あきちゃんはあなたの所有物なんかじゃない!」

明羅、一瞬表情がやわらぐ。

聖那「私のです!」

明羅、呆れた顔。

薬丸、聖那に顔を近づけながら
「調べさせてもらったよぉ。キミ、アイドルなんだってね。次世代ブレイク候補だとか、結構期待されてるらしいじゃん」

薬丸「そんな子が俺らみたいな反社にお仕事を依頼したって知られたらどうなっちゃうのかなあー」

聖那、少し怯む。

薬丸「でも、大丈夫。うちの系列はエンタメ事業もやってるから。ちょっとお下品なエンタメだけどねえ」
「キミならもっと稼げて、もっと有名にしてあげられるなあ」

明羅「やめろ。そいつは関係ない」

指を鳴らす薬丸
薬丸「いーこと考えた!おれ天才!」

聖那の頬を掴む薬丸
薬丸「こいつと明羅、セットで売り出して…」

薬丸、吹き飛ぶ。

明羅が拳を握りしめて立っている。

輩たち「薬丸さんに何してくれてんだ!」と明羅に殴りかかってくる。

明羅、輩たちを次々と倒す。【見せ場】

次々と手下がやられて怯える薬丸も蹴り飛ばす。

聖那、あっけに取られて見ている。

◎第8段落:

薬丸も手下も、全員が床に倒れている。

肩で息をしている明羅。野獣のような気配を漂わせながら。

聖那を睨みつける明羅

ビビる聖那

明羅「分かったろ?お前とオレは住む世界が違うんだ」

聖那「……」

明羅「友だちになれるわけないだろ」

聖那、黙って明羅を見つめている。

明羅、床に転がっている鞄を持つ。

明羅「取り消しは取り消しだ」

明羅「さっさと誰を殺したいか言え。今すぐ消してきてやる」

聖那「……」

明羅「お前を苦しめる奴を地獄に落としてやる!」
「ぜんぶ!オレが!」

聖那、微笑む。

明羅、カッとする。

明羅「何笑ってやがる!」
「オレがいつまでも優しくしてると思うなよ!」

明羅「これ以上ふざけてると…」

獣のように聖那を睨みつける明羅
明羅「お前を…殺す…」

清々しい佇まいの聖那
聖那「いいよ」

明羅「あん?」

聖那「殺して、私を」

激昂する明羅
明羅「ふざけるなって言ってんだろうが!」
「早く言え!ターゲットはどいつだ!」

聖那、ステージにヒラリと上がり、くるりと回る。

ステージ上のスイッチが入った表情の聖那

怯む明羅

聖那「さっきから言ってるでしょ」

明羅、ステージ下から睨みつける。

聖那「私」

明羅「は?」

聖那「ターゲットは私」

スポットライトを浴びて、両手を広げる聖那
聖那「ステージで殺して。私を」


>>> 2話目に続く

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