学校から帰ってくると　
縁側には　いつも　群青色の市場帽子を斜にかぶった　じいちゃんがいた　
右手にワンカップ　左手には　“わかば”　
田んぼの案山子のように　僕の問いに　何でも答えてくれた　じいちゃん
今思えば　ほとんど　的外れだったけど　心は　いつもポッカポカ
そんなじいちゃんと　あの縁側が　今もあったら・・・　
きっとこんな　会話になっただろう・・・

『ひなまつり』

「じいちゃん！
　うちには女の子がいないのに　どうして　毎年ひな祭りをするの？」

７段飾りの　ひな人形を見上げながら　ひなあられを食べる僕

Pufaaaaaaaaaaaaa　と　煙を吐く　じいちゃん　　
ごほっ・・・　と咳き込む僕！

「ひな祭りは　桃の節句！　
　農家にとっては　春を迎える大切な季節の節目なんじゃ！　
　明日から種まきが始まるし　忙しくなる　
　だから　今日は　ゆっくり　祭りを楽しむんじゃ」

ばあちゃん特製のシロザケを　ゴクリ！
いつにもまして　饒舌なじいちゃん

「それになぁ・・・
　この雛人形は　ばあさんと　一緒に嫁いできたんじゃ
　一年にいっぺんくらい　ばあさんに　逢わせてやらんとな！」

うちのじいちゃんは　やっぱりカッコいい！！

金の屏風に～♬

♪　うれしい　ひなまつり　♪

突然　ひなまつりの歌を口ずさむ　じいちゃん　
なんで三番から始まるの・・・と思いながら
ちょっと　飲み過ぎじゃないの？　と注意する僕

「何を言っておる！　ほれ見ろ！
　ワシも　右大臣も　まだ顔は赤くないぞ！」だって！

何言ってるのは　じいちゃんのほうです！　
ひな人形は　はじめっから　赤いお顔の・・・
あれっ・・・　
顔が赤いのは・・・　左大臣だぞ？・・・
でも童謡で　赤いお顔は・・・右大臣？？！！

戸惑う僕に
「少年よ　世の中　不思議のことは　いっぱいある　もんじゃな！」

じいちゃん・・・　答えになってません・・・

「それじゃ　右大臣！
　今日は　お主の顔が赤くなるまで　付き合うぞ！」

無限飲みを　宣言した　じいちゃん！
そんなことしたら　
既に真っ赤な　左大臣が急性アルコール中毒になっちゃうよ・・・

おろおろする僕をよそに
田附てんこ盛りの　ちらしずしと　
シロザケのお代わりを　
じいちゃんの横に　そっと置いた　ばあちゃんの顔は　
優しい笑顔で　いっぱいだった
　
※田附は　じいちゃんの大好物なんです！！