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現世界グルメ『玉ねぎ』


 この世界の料理に、多く欠かせない存在がある。
 数え上げればキリがない。何なら、欠かしてはならない食材しかないとも言える。
 しかし、より多くの料理を股にかけ、大活躍しているのは、まず間違いなく「塩」であろう。
 あらゆる料理の中で、おそらく最も使われる食材は「塩」だ。「塩分」と言う意味では、使われない事がないとさえ言える重要は食材。
 次はおそらく「油」である。これも「油分」「油脂」という意味で言うなら、塩を凌ぐかも知れない。
 その次は「砂糖」だろう。糖分という意味に捉えるなら、まず間違いなく五指に数えられる。
 次いで「酸」だ。「酸」を「酢」ではなく、「酸」の広義で解釈するなら、アミノ酸やイノシン酸も含まれる訳だから、この4つは確実に五指に入るだろう。
 5つめが何かとなると、推測にはなるが、おそらくは「麦」ではなかろうか。
 うどんやパンのように主食にする事もあれば、揚げ衣にしたり、ソースにしたり、酒にしたり。その使い勝手は多岐にわたる。
 調味料が4つに、穀物が1つ。
 当たり前のように感じるかも知れないが、料理を語る上で避けては通れない5つ。
 では、この当たり前に共通する事は何だろう。
 答えは色々とあるが、重要なのは「入手方法がある事」なのである。
 世界各国の色々な料理に使用される、と言う事は、つまり、世界中の何処でも手に入る、という事に他ならない。
 そう。岩塩であれ、海塩であれ、塩は手に入る。そういう事だ。無論、塩だって油だって入手しにくい国はあろうが、そういう話ではない。比較的入手しやすいって話であり、上記の食材らが手に入りにくい状態だと、他の食材はもっと入手しにくい状況だろうから。
 そこで考えると、麦は別格である。
 荒れた土地でも栽培が可能。そこが日本の主食である「米」との大きな差だ。
 確かに、国によって色んな条件があり、採れる農作物や畜産物には差がある。
 だが、だからこそ、その条件が厳しくても育てられる「麦」は世界中で栽培された訳だ。
 では、この「麦」に次ぐであろう食材は何だろうか。
 おそらくは、「じゃがいも」である。他の農作物が育てられないような環境でも、じゃがいもなら何とかなる。更には年に二回も収穫できる点は大きく、また、他の野菜と比べ、圧倒的に保存期間が長い。
 主食という意味では「タロイモ」の方が活躍しているかも知れないが、使用頻度ではジャガイモが勝つだろう。
 煮てよし、揚げてよし、焼いてよし、蒸してよし。使い勝手もいい。
 生のままでは腹を壊すが、近年では細く切って水にさらして食べる方法などもあり、そういう意味では生食も可である。ジャガイモのピクルスやきんぴらなどのように浸すのもいい。
 濾してペーストにする事により、スープやソースにも出来るので、準調味料としても利用可能。また、でんぷん質を利用して「つなぎ」などにも使用できるため、調味料としても活躍する。
 そして、忘れてはならない。発酵させ「酒」の原材料としても重宝されるのがジャガイモの魅力だ。
 更に言うなら、ポテトチップスとしてスナック菓子にもなれば、ガルニチュール(付け合わせ)としても大活躍できるバイプレイヤーであるにもかかわらず、時には「じゃがバター」のような主役も務める。
 まるごと蒸すか、オーブンで焼くか。どんなカットで揚げるか、フライパンで焼くか、炒めるか。しっかり煮て崩すか、さっと茹でて食べるか。
 ありふれている為に評価が低い部分は否めないが、その潜在能力は五大食材に比肩するレベルだろう。
 では今度は、このジャガイモと比肩されるべき食材について話そう。
 それが「タマネギ」である。
 芋類には勝てないまでも、様々な環境で育てる事が可能。そして、保存性も高い。
 料理の下味としての使用頻度を考慮すれば、ジャガイモさえも圧倒するポテンシャルを持つ。
 煮てよし、焼いてよし、揚げてよし、蒸してよし、漬けてよし、さらしてよし。更には乾燥させてよし。
 ジャガイモが「副菜」としての雄ならば、タマネギは副菜の更に下を支える縁の下の力持ちである。
 揚げて一品になる事も、焼いて一品になる事も。野菜炒めでは「野菜」の一品となり、乾燥させて「トッピング」にもなる。
 サラダでは彩りや歯応え、下味を担う事も。煮てもいい。味噌汁に入れるのも乙だ。
 チャツネのように調味料としても活躍できる。
 それこそ、下味のがタマネギないだけで、ベースギターのない音楽のようにスカスカになる料理は山ほどあるのだ。
 ビバ・タマネギ。ブラボー・タマネギ。
 しかし、こんな素晴らしい食材であるタマネギには欠点がある。
 主演としてメインキャストを務める事は出来ても、真の主役である「ヒーロー」の座だけは、獲得する事が出来ないのだ。
 悲しいかな、タマネギはおかずの一品として輝くのが限界で、メイン料理の座に座る事がないのである。
 無論、タマネギを主役に据えた料理を作ることなんて簡単だ。だが、それがどうしたと言うのだ。肉や魚に勝てないのは仕方がないとしても、そのタマネギの料理で、ジャガイモに、トマトに、ナスに勝てるのか? 答えは否だ。
 タマネギを主役とした料理保少なさを見ればわかる。タマネギは主演に向かない脇役なのだ。
 ジャガイモが燻し銀の名脇役だとしたら、タマネギは名端役。そう。福本清三のような「名斬られ役」なのである。
 脇役と言うよりも、エキストラやモブ、あるいはネームド・モブ(名前が付けられた端役)だ。
 誤解なきように言っておくが、端役よりも脇役が偉いとか、それより助演が、更には主演が偉いと言う意味ではない。
 料理という映画を素晴らしいものに仕上げる為に、全員の力が必要なのである。
 タマネギは、料理という舞台をひとつ上に持っていく為の、最高の端役だと言いたいのだけだ。
 だが、そんなタマネギにも、たったひとつだけ、不向きな場面がある。
 どんな映画でも、どんな場面でも活躍できるはずの端役に、たったひとつだけ成せない役があるのだ。
 それは、それこそは、

 焼肉の生タマネギ。


 いや、何を言っているのか。焼肉にタマネギは重要な副菜だ。無論、そこに異論はない。焼肉においてキャベツとタマネギと言う焼き野菜は助演とも言える活躍の場だ。
 だが、冷静になって考えて貰いたい。

 網焼きの焼肉で出される生タマネギの輪切り。


 これを上手に美味しく焼けた人間はいるのか。
 断言するが、いない。いないのである。正確に言うと、網焼きであろうと、タマネギを上手に焼いて美味しく食べる事は可能だ。できる。やれるとも。だが、それがどうした。
 焼肉の主役は肉だ。牛肉なんだよ。
 慎重にタマネギを焼いてどうする気だ? 焼肉の場において、タマネギに時間と手間と焼き場を奪われる事が正しいのか?
 否だ。断じて否である。
 鉄板焼きの焼肉なら、タマネギを美味しく焼く事は簡単だ。だが、網焼きでは困難になる。
 網でも、手間を掛け、時間を掛ければ美味しくも焼けるだろう。それで肉は美味しく焼けるのか? 否だ。
 しっかりスペースを確保して、丁寧に焼けばいいだろうとも。だが、それで肉を焼くスペースが奪われる事を受け入れるのか? 断じて否だ。
 しかも、輪切りのタマネギはカットしてからの時間が経過しており、水分が飛んで焦げやすい。
 そうでなくとも、断層構造を輪切りにしているため、焦げやすいのである。
 このタマネギの断層構造が更に問題で、焼けるに従い、バラバラになる仕組みだ。そう。食べづらいのである。いや、食べづらいと言うよりも、掴みにくい。
 いや、掴みにくいだけなら、まだいい。中央の部分だけが抜け落ち、網の下に落下して、食材を落としてしまった罪悪感を生む。
 罪悪感だけならまだ許せる。落っこちて直火に晒され、焦げで焼肉の味さえも落とす。
 網焼きの焼肉において、タマネギは罪なのである。
 なのに、焼肉に欠かせない野菜として、ほとんどの焼肉店のメニューに鎮座し、しかも、焼肉に欠かせない野菜という思いからか、

 誰かが注文しちゃうの。


 ダメ。絶対ダメ。焼肉店でタマネギを注文しちゃダメ。バーベキューでも混ぜちゃダメ。
 しかし、焼肉やBBQに欠かせない野菜と言えば、キャベツとタマネギである。
 では、どうすればいいのか。
 最も簡単な解決方法を提示しておくので、自分がBBQでタマネギを用意したい時には参考にしてもらいたい。
 と言うか、全国の輪切り生タマネギをメニューに並べてる焼肉店(網焼き)は明日からでも採用して欲しいのだが、

 軽く電子レンジに掛ける。


 たったコレだけで、タマネギはいつものスゴいアイツに戻るので、是非にもそうして欲しい。
 タマネギ好きからの切なる願いである。

 ※ この記事はすべて無料で読めますが、タマネギ好きもそうでもない人も投げ銭(¥100)をお願いします。
 なお、この先には「あえて入れなかった万能で最強すぎる食材」の話しか書かれてません。ちなみに何かわかる?


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(´・Д・)」 文字を書いて生きていく事が、子供の頃からの夢でした。 コロナの影響で自分の店を失う事になり、妙な形で、今更になって文字を飯の種の足しにするとは思いませんでしたが、応援よろしくお願いします。