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(連載小説)気がつけば女子高生~わたしの学園日記㉝ 浴衣女子になりたい男の娘・中編~

わたしたちの学校行事の「ゆかたまつり」で一般開放をし、出来るだけ多くの方に格安での浴衣体験を通じて和装振興をするという試みに女装子さんやMTFトランスジェンダーさんにも同じように格安で浴衣体験ができないかと考えていたわたしはLGBTサークルに一緒に参加しているお友達の莉央子ちゃんに意見が聞きたくて電話をしていた。

「へー!それってなんだかよさそうな企画だね!。」と莉央子ちゃんは言ってくれたのだが莉央子ちゃん目線では実現までにクリアするところがあるとの事。

まずはプライバシーをどうするかと云う点で、基本LGBTサークルでもそうだけど参加者のいわゆる個人情報は自分から言う以外は事細かに聞かないのがルールで、とにかく人目につかないように行動している人が多い中どのようにして参加者・利用者さんのプライバシーを守った運営をするかは非常に重要だと莉央子ちゃんは言う。

それと同じ位重要だと云うのは今度は一般開放と云う形で学校内に通常は入る事のないいわば「部外者」、しかも見た目「男性」を招き入れる訳でその場合のセキュリティはどう守られるのかも大切だと言う。

これはティーンズレインボーのように真面目に取り組んでいる子ばかりのLGBTサークル限定ならまず問題は起きないだろうけど、優和学園は事実上「女子校」で且つ普段は生徒や学校関係者以外は用事のある出入り業者さんであってもむやみやたらに学内の敷地には入れないようかなりセキュリティチェックは厳重にしている中で、そのレア度からひそかにこの機会に学内に女装して「潜入」して盗撮とか生徒のロッカーや持ち物を物色したりするよからぬ目的で参加する人がいないとは言い切れないのではないかと莉央子ちゃんは心配しているのだそうだ。

確かに秋のきものまつりでも一般開放はしていて地区の人や生徒やOGのお家の人や友達の男性の人は結構お越しになるのだが、その場合のいでたちは男性のする格好そのもので何かしでかそうとしたら目立ってしまう。

ただ今回もしそのような目的の男性が「浴衣女装」をして校内に入り、またその姿がパス度も高く見た目にもハマってっている場合は浴衣女子だらけのその場の風景に違和感なく溶け込んでしまってチェックが難しい場合もあるだろう。

あとは女装子さんやMTFトランスジェンダーさんはおしなべて身長が高いので浴衣や下駄のサイズの問題や浴衣を着るとなったら誰が着付けをするのかやちゃんとしたメイクもしてあげないといけないだろうしその辺りをひとつひとつクリアする事が必要になるよねと莉央子ちゃんは教えてくれる。

「そっかー、なかなかメイクして着つけてあげるだけじゃ難しいところもあるんだね・・・・・。」

「そうなの。でもね、由衣ちゃんの思ってる和装未体験のティーンの子たちに浴衣を着せてあげたいと云う気持ちはゆかたまつりの企画としてはすごくいいと思うからなんとか実現して欲しいな。」

と言って莉央子ちゃんはまずティーンズレインボーのメンバーで和装に興味のありそうな子にその辺りのニーズや問題点をそれとなく聞いてくれる事になり、わたしにはとりあえずネットで和装OKの「女装サロン」のホームページを検索してどんな感じで営業しているのかとか各店のプライバシーの配慮や浴衣や着物の着付け、衣装のチョイスをどうしているのか等を参考にしてみたらと言ってくれた。

「うん分かったー。いろいろありがとうー。」「ううん、こちらこそー。わたしの方もまた何か気づく事があったら言うねー。」

そう言って電話を切ったあと、さっそくわたしは教えられた通りに「着物女装」とか「浴衣 女装サロン」などと検索してみる。

すると検索エンジンの表示画面いっぱいにあちこちのその手のお店の浴衣や着物で女装をしたい人向けのページがたくさんヒットした。

それを上からひとつひとつ見てみると「ウィッシュ」に「マドモアゼル会館」や「ビーム」「シルクガール」「コスプレハニー」などなど次から次へと男性が女装願望を満たすためのお店が出てくる。それも東京近郊のみならず名古屋周辺や関西、福岡と日本中で和装OKのお店がある。

わたしは今では「新女子」として髪を長く伸ばし、女性物の下着を付けて学校では袴制服、家に帰ってはスカートやワンピースを着て、声も話し方も名前も全て女子そのものの生活を送っていてそれが日常の日々だし、浴衣も着物も自分で着られるから「変身」とか「異性装」と云う感覚が正直女の子としての生活にどっぷり浸かっているわたしにとっては似て非なる未知のものに感じた。

しかしいろんな女装のお店のホームページやそのお店で運営している各SNSを見させていただくとアップされているのはどれもこれもきれいに浴衣や着物で着飾った「女装男子」さんの写真ばかりだ。まあパス度が高いからこうやってアップしているのもあるだろうけどパッと見る限りこの方たちがほんとは「男性」だなんて思えない・・・・・。

そうしながらわたしは時間を掛けてその各店のホームページを見させていただいてある程度の傾向を分析できていた。

まずプライバシーに関してはこの女装と云うナイショにしておきたい趣味・行動にしっかりとどのお店も配慮をされていて、大半が予約制で且つ他の人と顔を合わしたり一緒にならないで済むようになっていた。

もちろん「同好の士」がメイク後に店内のオープンスペースで楽しく語り合って時を忘れて過ごすスタイルのお店もあるし、予約制で他の人と一緒にならないスタイルのお店でも仲の良い女装子さん同士でお店に来て女装したりまたお店によっては通常は個々人の対応スタイルだけど時にはオフ会とかイベントとして「着物女子会」みたいな形で複数の着物女装男子さんが一堂に会する場を設けているところもあった。

それとオプションのお店もあるけど基本的には女装した自分の姿をお店の中にスタジオや季節の風景のセットを設けたり、近くにお出かけしながらロケーション撮影をしてくれるなどどこも結構本格的な写真撮影をプランに入っているお店が多いように思った。

またどこのお店もメイク担当のスタッフさんがきれいにお化粧をしてくれ、衣装に関してはどのお店もある程度はブラウス、スカート、ワンピースと云った女性物の洋服を揃えていて、これにウィッグや靴、外出用のバッグなど小物類やアクセサリー類もそれなりに用意されているのも分かった。

自前の和服を持ってない人向けのレンタル衣装に関してはお店によってばらつきがあるようで、予め多数振袖、小紋、袴、浴衣等のストックを用意してくれているところもあればお店自体では和服のストックはさほど多くないけど近隣のレンタル着物屋さんとコラボしてそこで借りられたり、予め契約しているネットのレンタルで好きな着物を借りてお店に予め届けてもらう方式のところもあった。

ただやっぱりティーンズレインボーのメンバーが言っていたように料金は中高生がすぐに払える金額でなく、メイクやヘアメイク、着付けに着物レンタル料、それに写真撮影まで含めるとお支払いする金額は妥当な額だとは思うものの普通の中高生にとってはお年玉や月のおこづかいを使わずにかなり貯めておかないといけない金額でもあった。

わたしは各ホームページを一通り見させてもらい、分析もしてなかなかハードルは高いけど和装をしてみたいと真面目に思っている女装子さんやMTFトランスジェンダーさんになんとかして浴衣を着せてあげたいと思った。

わたしたちは何かと和風にこだわったこの優和学園にこうして毎日「新女子」として通わせてもらっておかげさまで浴衣も着物も自分で着られるまでになっている。

だけど「真のジェンダーフリー」を目指しているこの学園で今回のゆかたまつりに「和装振興」の目的もあるのであれば、他の一般の方と同様女装子さんやMTFトランスジェンダーさんにも格安で和装体験をしていただく事は必要ではないだろうかと自分なりに思い、次回の委員会までに素案を発表・提案できるよう考えをまとめる事にした。

翌週になり第2回の行事委員会が開かれた。委員長に推された園部すみれちゃんの議事進行で学校側からの提案も含め、それぞれ各クラスの委員が色々と意見や素案を発表する事になった。

学校側からは今回は「お祭り」なので体育館のメインフロアに大きな櫓を組んで櫓の上から和楽器演奏部による太鼓や笛、鐘によるお囃子の元でみんなで輪になって踊るプランが提示された。

もっとも終日踊っているのは疲れるし飽きてくるだろうから櫓は組むけど午前中はその周りに椅子を並べてステージで日本舞踊や書道パフォーマンスなどの演目をご披露するのを見ていただき、午後からは椅子をしまってみなさんで櫓を囲んで回りながら踊ると云う事のようだ。

それにお祭りと云うことなので校庭に模擬店を縁日の屋台みたいに並べてそこでかき氷やわたあめ、金魚すくいとかを提供して楽しんでもらうというところまで学校側としての案はまとまっているようでわたしたち委員もそれについては異論なく、すんなりと決まった。

さてここからは各委員から追加案の「プレゼン」になる。わたしは千尋ちゃんと事前にティーンの女装子・MTFトランスジェンダーさん向けの浴衣体験プランをやりたい旨話していたのだが千尋ちゃんもその案には特に反対する訳でなかったし、莉央子ちゃんからはLGBTサークルのメンバーに話してみると概ね好意的な反応をもらったと云う事を聞いていた。

「では他に何かこんなことをやったらいいのでは?と云う意見のある委員はいますか?。」

そう議長のすみれちゃんが言い、わたしは手を挙げた。

「はい、りんどう組の神原さん。どうぞ。」

「わたしは思ったのですが、このゆかたまつりでも秋のきものまつり同様に一般開放をして、希望される方に和装振興と云う事で格安で浴衣をお召しになっていただくと伺いましたが、その対象をまだ浴衣や着物を着た事のない、或いは着たいけど諸事情により着れない主にわたしたちと同世代のティーンの女装子やLGBTさんに広げる場を設けるのはいかがでしょう。」

そう言うと他のメンバーから「そう言えば秋のきものまつりの時って着物体験は女性に限らせてもらってるよね。」とか「女装子やLGBTさん向けって案外気がつかなかったな。」などと声が上がる。

そして議長らしくすみれちゃんが「神原さんはなんで女装子さんやLGBTさん向けの浴衣体験の場を設けたいと思ったのですか?。」と聞かれたのでわたしはLGBTサークルで知り合った同世代のMTFトランスジェンダーのメンバーに支度や金額面などで様々な理由や要因から和装をしたくてもなかなかできないと云う話を聞いたのをヒントにこのプランを思いついた事を話した。

この学校に入ってからわたしは何人ものMTFトランスジェンダーの子と友達になったけどみんなどの子もおしなべて自分の中の意識は女の子そのもので、女の子なら誰だってかわいい衣装に身を包んできれいに着飾ってみたいものだし、その意識が和服に向くのはなんら不思議ではない。

だけど多くのティーンの女装子やLGBTの子たちはカミングアウトもできず、やっとのことで隠れるようにして自己流でスカートを履き、安いコスメ用品でメイクをしているのがせいぜいと云う現実の中で、わたしたち優和学園の新女子たちは日々のたゆまぬ努力をしているとは言え堂々と浴衣や着物を着る機会に恵まれている訳で、そんな中で授業で教わった着付けやメイクの技術や着物に関する知識を活かして同じ世代で同じ思いをしている同じ境遇のいわば「仲間」と和装の楽しさや喜びを共有したいのだと云う事をわたしは言った。

そして次の瞬間「ほんとそうだよねー。わたしたちって考えると恵まれてるよねー。」「何も女性物の着物って誰が着たっていい訳だよねー。」などと声がしたと思えば今度はどこからともなくパチパチパチとたくさん拍手が起こった。

話しを聞いてくれていた大島先生からもいい提案だとお褒めいただき、基本的にはわたしの案は進めていくよう職員会議にも掛けて下さる事になった。

ただわたしが莉央子ちゃんにも言われていたようなセキュリティの件やプライバシーをどうするか、また衣装やメイク・ヘアメイクに着付けと云ったお仕度全般について気になった点は大島先生やすみれちゃんほか何人かの行事委員からも実現に向けてどうしたらいいか意見が出て、これに関しては引き続きこの行事委員会や学校側でも考えようと云う事になった。

それから学校側から提案のあった縁日の模擬店についてはスペースの関係もあって最大10店舗が設置できると云う事で、これに関しては各クラス単位で運営・販売に関わるかどうかクラスに持ち帰って決めて欲しいのとそれが決まり次第模擬店を出さないクラスには受付とかインフォメーションセンター、一般客のお世話係と云った部分を担当してもらうようになると云うお話しを大島先生がされて今日の委員会は終了となった。

「やったね!由衣ちゃん!。」そう千尋ちゃんが言ってくれている横で「やっぱり由衣ちゃんは色んなアイデア持っててすごいなあー。」とすみれちゃんが言いながら寄ってくる。

「そんなことないよー。照れるじゃないー。」「いやいや全然すごいよー。由衣ちゃんって1年の時から新しい案をどんどん出しては実行に移してたけどやっぱりすごいよ!。」

そして照れてるわたしに続けてすみれちゃんは「だけどわたしこの実行委員に由衣ちゃんが参加してくれてるのを見てきっととっても素敵な行事になるだろうって予感したけどどうやらそうなりそうだねっ。」と言ってくれる。

よし、どっちにしてもクラスで縁日の模擬店をどうするかも決めなくちゃだし明日からまた忙しくなるぞ!!とわたしは張り切って意気込んでいた。

そして次の日のホームルームでこのゆかたまつりで希望するクラスは模擬店を出店・運営できると云う件をみんなで話し合っていた。

模擬店は店舗のサイズや形は各店舗とも同じのよくある縁日で見かけるスタイルで何を取り扱うかは参加したい各クラスで決めてそれを学校側で衛生面ほか問題がないかを審査・検討する事になっているのでまずは2年りんどう組として模擬店を出すかどうかと出すとしたら何を商品として取り扱うかを話し合うのが目的だ。

とりあえず全体的な雰囲気は何かいい案があったら模擬店は出してみたいと云う空気だったので、その「何かいい案」について意見を求めてみると林ちゃんが手を挙げる。

「えっと、わたしはこのお祭りでクラスとしてお店をするんだったら、”タピオカミルクティー”のお店がいいと思イマス。」

おお、タピオカミルクティーかあ。なかなか林ちゃんいい事言うじゃない、と思って聞いていると他の子たちも「タピオカミルクティーいいよねー。」「これから暑くなってきたら冷たい飲み物って欲しくなるしおいしいよね。」などと口々に言い始めてなかなか好意的な反応をしている。

「わたしは日本に来て一番多い質問ガ”台湾のタピオカミルクティーってドンナノ?”とか”台湾でタピオカミルクティーのおいしいお店ってドコナノ?”などタピオカミルクティーについての質問がとっても多くてもうわたしは3千回位答えマシタ。」

と林ちゃんは言う。まあ3千回は大げさだけどよく考えるとわたしも千尋班のみんなも林ちゃんにこの事を訊ねた覚えがある。

「ナノで日本人はタピオカミルクティーがとっても好きナンダナって思いまスシ、ちょうどゆかたまつりの時期にも合う飲み物だと思うカラ他にやりたい事が無かったらタピオカミルクティーのお店をヤッタライイと思いマス。」

そうか。確かにテレビで「台湾のタピオカミルクティーの人気店が日本初出店!」とか云う特集をやっているのを見た事があるし、どこのお店も繁盛していて行列ができていると聞く。それに台湾で日常的にタピオカミルクティーを飲んでた林ちゃんがいればあれこれ教わりながらなんとか模擬店もできそうな気がする・・・・・。

そう言っていると「わたしもタピオカミルクティーのお店っていいと思いまーす!。」「タピオカミルクティーなら店員さんやってみたいでーす。」「流行ってて人気だしかわいい飲み物だからゆかたまつりにピッタリでいいと思いますー。」などと他の子も言いだしてホームルームは盛り上がり、2年りんどう組は模擬店にタピオカミルクティーのお店を出す事に決めた。

お店を出すにはきちんとした出店計画書が必要なのでさっそく放課後からわたし、学級委員の千尋ちゃんに林ちゃんを交えて具体的な内容を考える。

材料をどこで仕入れるか、原価いくらで売値はいくらにするか、何杯売れたら赤字でないのか、衛生面に気を配りながら提供するにはどうすればいいかなどなど話し合い、とりあえず材料をどこでどのくらいのお値段で用意できるのかを調べる事から始め、それに関してまずは林ちゃんが台湾の知り合いに聞いてみると云う事になった。

2,3日して林ちゃんが台湾の友達に中華街で台湾人が経営している中華圏の食材の小売りと卸のお店があると紹介してもらったと云うのでそこに材料の仕入れやおいしいタピオカミルクティーの出し方をどうするかを教えてもらうべくアポを取って行ってもらう事になった。

もちろんお金の絡む事でもあるので林ちゃん単独ではなくて学校からも行事担当の大島先生と中国語で交渉や決め事になった場合にちゃんと話ができているのかも確かめる必要もあるので中国語の担当の西原揚子(にしはら ようこ)先生も同行して放課後に林ちゃん含め3人で中華街にあるお店に行ってもらう事にした。

そして夕方になり林ちゃんが先生たちと学校に戻ってきた。林ちゃんは帰ってくるなり開口一番「いやー楽しかったヨー。」と満面の笑顔で言う。

聞けば林ちゃんが例の「5分アッタラ誰とでも友達にナレル」と云う才能を遺憾なく発揮して、元々台湾人どうしで話が合う上に気も合ったみたいなのとお店としても台湾からの留学生がこうして頑張って学校行事を盛り上げようとしてくれているのを応援したいと云う事でかなりの好条件で材料を卸してくれる事になったのだとか。

やりとりを横で聞いていた大島先生があまりの盛り上がりにこの交渉はほんとに大丈夫なのかと思ったみたいなのだけど、同じく横で聞いていた西原先生が言うのには言葉的には間違いなく大丈夫との事だった。

そしてその内容を基にわたしと千尋ちゃんで出店計画書をまとめて提出し、他のクラスでもタピオカミルクティーのお店をやるところはなかったのと内容面や衛生面でも問題ないと判断していただき、正式に出店が決まった。

正式に決まったところでクラスの中での模擬店の主な段取りや運営に関してはわたしや千尋ちゃんは委員として全体のお世話もしないといけないので林ちゃんを店長、あゆみちゃんを副店長として他の子たちと協力してやってもらう事にした。

またティーンの女装子さん・MTFトランスジェンダーさん向けの浴衣体験コーナーもあれこれ議論しながら問題点や課題をクリアしつつこちらも学校側からOKが出たので準備をはじめていた。

結局実施する際のプライバシー保護とセキュリティの両立は最後まで議論したのだが、事前予約制にて学校ホームページ内の専用フォームから申し込むようにしてその際には絶対外部には漏れないように本名が載っている写真付きの学生証か身分証明書のコピーを写メで一緒に提出してもらい、また人数も対応しやすいように最大10名までと絞って実施する事となった。

もちろん身長の高い子にも対応できるよう予め大きめのサイズの浴衣を着物館の生田先生や着物を納めてくれている呉服屋さんにもご協力・ご助言いただいて数を揃え、申し込みの際に身丈を書いてあるサンプル画像を見て好みの色柄の浴衣が予約できるようなフォームを作ってもらう事にした。

そして専用フォームができあがった時点で莉央子ちゃんにお願いしてティーンズレインボーのメンバーに希望者がいないか募ってもらったり、サークルの公式ツイッターや各SNSでリツイートや口コミでも拡散してもらったりした。

そのおかげもあり「浴衣女子になりたい男の娘さんはいませんか?」とそんなキャッチコピーがわたしたち新女子の浴衣姿の写真と一緒に並ぶ予約フォームから少しずつ問い合わせや申し込みが入るようになってきた。

そのひとつひとつに丁寧に対応をしているうちに莉央子ちゃんがLGBTサークルのメンバーを誘ってくれたのもあって10名の予約枠は早々に埋まっていた。

質問事項やリクエストを書きこむスペースにはどの参加希望者も「とっても楽しみです」「こう云う機会を待っていました」とか「どんな風に初めての浴衣女子になれるのかドキドキしています」などどれも期待しているのが分かる文章が書いてある。

それを読んでわたしは絶対に参加してくれる子みんなをかわいくしてあげたい、そう思い授業も受け、通常の校内放送やコンテスト向けの番組制作もしながらゆかたまつりの準備にも一層熱が入っていった。

タピオカミルクティーのお店の準備は張り切ってやってくれている林ちゃんを適度にあゆみちゃんがなだめながら他の子もいっしょになって順調に進めてくれていた。

そんな中で模擬店も他のクラスから2年生は6クラス全て出店してくれる事になり、3年生からは2クラス、そして1年生からも2クラスが出店を決めてくれた。

そのうち1年生のうちの2クラスのひとつはうれしい事に放送部の新女子1年生3人組のいる1年あじさい組で、かんざしや和装用髪飾りなどの和雑貨のお店を出店してくれる事になった。

まだ1年生の子たちは入学して2カ月ちょっとしか経ってなく、そんな中で浴衣の着付けを覚えたり、慣れない所作・マナーの授業や新女子の子には加えて女の子の声で話すボイストレーニングとかあって何かと大変だと思ったのだが、なんでも1年あじさい組は他よりクラス全体のまとまりが良く、飲食関係は難しくても物品の販売ならできるかもと思ってチャレンジすることにしたみたいでほのかちゃん、はなちゃん、しのぶちゃんの3人娘も授業や放課後の部活動がある中で精一杯準備をがんばっていた。

そして中間試験も終わり、いよいよゆかたまつり当日を迎えた。

(つづく)












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