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ストップモーションアクション時代劇「左」 | デザインのお話

こんにちは、ジャガーです。

今回は、木彫り人形のストップモーションによるアクション時代劇「左」というプロジェクトにデザイナーとして参加いたしました。


このプロジェクトについて

弊社CCO川村真司が、ドワーフTECARATという素晴らしいチームとタッグを組み、数多くの作品と逸話が残る江戸時代の伝説的彫刻職人「左甚五郎」の物語を、木彫りのパペットを使って描いた「ストップモーションアクション時代劇」です。

どういう経緯でこのプロジェクトが発足したのか などは、監督でもある川村のnoteで綴られているので、そちらをご覧になってください。

ぼくはというと、デザイナーとして「ロゴ」や「甚五郎が背負う家紋」などを担当したのですが、そのあたりの詳細について書いてみましたので、ご興味がある方は軽くのぞいてみていただければ!


ロゴ、書けるのか??

まずは「ロゴデザイン」からのスタートになりました。

今回のロゴは、漢字一文字で「左」。うーん、潔し。

そして、今回は「アクション時代劇」なので、潔いなかにも「動き」や「力強さ」みたいなものが必要な気がしました。いわゆる「お習字」のような楷書文字ではなく、「書道パフォーマンス甲子園」のようにふっとい筆を抱きかかえて振り回してどーん! みたいな字が良さそうな予感が。ロゴというよりもビジュアル要素が強めな感じでしょうか。

書けるのかな...?

そんな不安もモチロンよぎりましたが、良さそうなフォントも見つからなかったのと、いちおう小学生の頃に「お習字」を習っていた という薄ーい経験が、少し背中を押したのかもしれません。自社プロジェクトですし、やってみるだけやってみて無理そうなら相談してみよう という精神で書いてみることにしたわけです。


先生、ごめんなさい

まずは、自分がどれだけ書けるのかを知るために、「左」を書いてみることにしました。

今回使用したのは、iPadの「Zen Brush」というApp。設定次第で、墨の「にじみ」や「かすれ」を作れるので、慣れれば習字っぽく書くことができます。また「何度も書き直しができる」のがデジタルの一番の強み。とにかくたくさん書いてみました。

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一文字かつ画数の少ないシンプルな漢字「左」からにじみ出る、ごまかしがきかない感...。分かってはいましたが、一発でばっちり!というわけにはなかなかいかないので、かすれすぎたところやうまく伸びなかったハネなどの上からもう一回書いたり、太くなりすぎたところを消したり、書いたり、消したり。

筆と半紙でやらなくてよかった。

そういえば昔は、一度書いた字に対して納得のいかない箇所があったとき、上からこっそり足したりしては怒られたものでした。二重書きは、書道会ではご法度なんですよね。でも、いまはこんなに上から書いたり塗ったりしてしまっている。先生、ごめんなさい。


61筆入魂

書の道の人が見ると「キィーーーッ」となってしまうかもしれないプロセスを経て、やっとこさベースとなる「左」が書けました。

ここからはPhotoshopの出番です。安心します。

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画像左の「左」をベースとして、ここからさらに手を加えていきます。うまく表現できなかった「かすれ」や、書ききれなかった「とめ」「はね」だけを書いたデータを用意し(画像右)、ベースとなる字の上にどんどん合成して、理想の文字に仕上げていきます。

あのころ禁止されていた二重書きどころではないですが、掟をやぶってでも作りたいものがあるのです、先生。

そして、手を加えまくった結果がこちらの「左」

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もはや「書いた」とは言えない気もしますが、それでいいのです。

書のことを深く知っているわけではないですが、デザイン的な視点でいうと、右端の筆終わりを極端に下げて正しい字としてのバランスを崩しながら、全体にシンメトリー感を出すことで、その崩れたバランスを中和するように作っています。

ここから、最後の仕上げです。

墨の書きっぱなし感をそのまま残すのも悪くないかなと思ったのですが、デジタルで書いたこともあり、ちょっと生っぽいかなと。そこで、今回のストップモーションでも大事にしている「クラフト感」を出すために、テクスチャを乗せていくことにしました。筆が止まって墨溜まりができそうな箇所には強くひび割れ入れたりなど、筆運びをイメージしながらテクスチャを乗せていきます。

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こうして、漢字一文字アクション時代劇ロゴができました!「力強さ」「躍動感」「クラフト感」など、イメージしていた世界観を表現できた気がします。

文字の書き直し分と、テクスチャ分だけで「61レイヤー」ありました。

61筆入魂!

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早速、左甚五郎の木彫人形と合わせてみます。一番目立たせたい甚五郎人形を中央に配置し、その後ろにどーんとロゴを配置しました。ここでロゴのシンメトリーが活きてきました。わーい。


ロゴ、書けたのか??

さて、一通りロゴを作り終えたところで、疑問が湧いてきます。これは書として美しいのか。正しいのか。そもそも書に正しいという概念があるのかどうか。

それは僕にはわかりません。

ただ、全体の世界観を考えながらロゴのトンマナや形状を考えたり、レイアウトした後に再度ロゴを細かく微調整していく といった作業は、少なくともデザイナーである僕のほうがスムーズにできると思うので、プロジェクトの進行としては正しかったと思っています。

何より、自分でやるほうが楽しいですし!(もちろん、できないと思った場合はちゃんとした人に依頼しますし、してます。)


まさか家紋を考える日がくるとは

ロゴデザインが落ち着いたタイミングで、次は「左甚五郎の家紋」をデザインすることになりました。

甚五郎の服装については、当時主流だった「法被に股引」みたいなイメージでなんとなくチーム共有されていたのですが、背中に背負う「紋」をどうするか がまだ決まっておらずで。

左甚五郎だし「左」という紋がいいんじゃないの?という案もあったのですが、あくまで「左」とは第三者からの呼称であって(優れた名工に授けられた名だそう)自分で名乗るものではない ということから、甚五郎にふさわしい紋を考える必要がありました。

ちなみに、ぼくは実家や親戚の家で家紋を見たことがなく、全くもって家紋というものに馴染みがありませんでした。そんな自分が、まさかオリジナルの家紋を考える日がくるとは。

まずは、既に存在する家紋の中から、左甚五郎の成り立ちや背景に当てはまるものはないかなと思い、家紋の本を購入したり、ネットで情報を検索するところからはじめました。しかし、もし歴史的な背景を入れ込みすぎてその解釈が間違っていた場合。。と考えはじめるとこわくなってきたので、オリジナルの紋を考える方向にシフトしました。とはいえ、完全オリジナルだとそこに家紋としての説得力が無くなってしまう気がしたので、「筋違紋(すじちがいもん)」という実在する紋をベースに、彫刻職人であった左甚五郎の道具「ノミ」を使って表現した「筋違紋・鑿(すじちがいもん・のみ)」というオリジナル紋を考えました。

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筋違紋の元来の意味は「家や城を守る」らしいのですが、今回の作品における左甚五郎の生き方ともマッチするのではないかと思い、ベースの家紋として選んだ次第です。

※「犬丸」という憎たらしい敵役も登場するのですが、そいつが背負う紋などもデザインしたりしてます。こちらも、「丸に大の字」という実際に存在した紋をベースに、「大」の字に”点”をつけて「犬」にしています。「犬丸」ですしね。

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まさか角字を考える日がくるとは

また、当時の法被は、裾に「角字」なるものを入れるのが主流だったそうで。角字というのは「正方形の中で、水平・垂直のラインのみで漢字を表現した日本古来のグラフィックアート」だそう。なんとなく見たことはありましたが、全然知らない世界でした。そんな自分が、まさかオリジナルの角字を考える日がくるとは。

もちろん角字を作ったことなどないので、色々と調べてみたところ、どうやら作るための「指南書」のようなものはありつつも、その通りに作ったからといって全てが美しくなるわけではないようで。そこはデザイナーの腕の見せどころのようです。こわい。

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試行錯誤して作ってみたのがこちら。縦読みで「大工」と書いて、それを並べて配置することでパターン化しています。素直に「大」「工」を角字化すると間延び感があったので、その正しさよりも一つのかたまりとしての美しさを優先しながら作成しました。


甚五郎が紋を背負った日

ロゴと角字のデータを送付して数日後。現場からこちらの写真が送られてきました。

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平面上で見ていたデータよりもぐっと締まった印象。そして、印刷だと思っていたらなんと手描きなんだそう。どこまでも職人で、すごくリスペクト。いやあテンションがあがります。飲めないお酒も飲みたくなる。


まとめ

ここではロゴや家紋の説明だけになりましたが、何より木彫り人形だったり、アクションシーンだったりがただただかっこよく、本当に素敵な作品になっております!

しかし、このプロジェクトはここからが始まりです。ただいま、クラウドファンディング実施中でして、目標達成にむけて色々と動いているところでございます。引き続き、チーム全員でこの左甚五郎に命を吹き込むべく頑張ってまいりますので、これからの甚五郎を見守っていただけると嬉しいですー。


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ジャガーでした。



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