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学生さんに幸あれ

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生きることを辞めずにいてくれているまだ見ぬ貴方と、 友達になりたい一心で綴る、初々しい新入学死日記。
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記事一覧

学生さんに幸あれ (6)

笑い声が聞こえる。
自分の心情とは裏腹に、シロウは笑っていた。

「お前、本気で《覗けばそのままの遺体を拝める》とでも思ってたわけ?隠しもせずに朝の学校に横たわったまま放置とか?確めるの遅すぎなんだよバーカ。」

彼の口調は相変わらず煽るような姿勢だが、
おかげで妙に冷静になれる自分がいた。
そりゃそうか、遺体は隠されるべきだ。当然だ。
ブルーシートに覆われた現場を伏せ目で見下ろす。

「知って

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学生さんに幸あれ(5)

7月7日。
この日はまさしく今日であり、自分の命日である。
願い届かずこの世に存在し続けるこの身体は、
例年長引く梅雨に埋もれてダボつく、
生き辛い学校に未だ取り残されている。

2時間目のチャイムは既に過ぎた。
何か、他の気づきを得なければいけない。
死んだその日の新鮮なうちに自分を確かめなければ。
有耶無耶にしてきた生前よりも浅はかな日々が、
際限なく続いてしまう事を酷く恐れた。
自分は呪縛霊

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学生さんに幸あれ(4)

行き場を失った。都市伝説とかどうでもよくなった。
何か、勘違いをしていた気がする。

典型的噂の最中で、一つの命が悶えていた。
華は花子さんではないが、華にも華の物語がある。
この学校にその断片があるなら、
彼女の生きた証があるなら、巡礼の後に
「彼女の死」を確かに受け入れたかった。
そしてこの「存在」は、
自分や彼女だけではないのだろう。
この「存在」に終末があるなら、
出来ることと出来ない事を

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学生さんに幸あれ(3)

透過はしない。浮遊もしない。
実体はあり、鏡にも映る。
自分は、自分が存在しないことを証明できない。
自分を認知できるなら、世の様々な奇怪も
判明出来るのでは無いだろうか?
自分は、後に継がれるような都市伝説に
残る存在では無い。だからこそ、出鱈目な噂で
嗤われて忘れられるのが関の山だろう。
つまらない人間に対して、数多の恐怖と好奇を
煽ってきた花子さんはどんな言葉をくれるだろうか。
1時間目のチ

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学生さんに幸あれ(2)

死んで尚、死にたい気持ちは変わらない。
自分が一向に自分であり続ける事に、
嫌気が差してこその乱心だ。
自分のことが好きとか嫌いとか、
だから楽しいとか辛いとか、そんなシンプルな
生き方なら、前を向くたびに強くなれる。
もうやめたい。終わりたい。消えたい。
「死にたい」はその実現のための欲求であり、
決して、死ぬことが目的な訳ではなかった。
死んでも未だ自分は自分のままなんて、
もう死ぬことも出来

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学生さんに幸あれ(1)

月曜日朝
翼が生えた気がした。
いや、正確には「芽」とでも形容すれば良いのか。「翼を生やすならここだろう」そう思える肩甲骨内側の少し上が、軽く疼いていた。息絶えた実感は無く、ただ少しだけ身が軽くなった様な気がする。「生きる」に疲れていた自分は、それを脱いだ今、
体感的な命の重さというものを知った。

例えば、自分の吐息が触れた何れの生物もが
朽ちていくのを目前に、自分の「生」を
肯定出来るだろうか

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