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ひらがなエッセイ #11 【さ】

    ある時期からこの社会を「癒やし」なるものが席巻して、周りを見渡せば、癒やしの空間やら、癒やしのドリンク、癒やしのペットに癒やしのサプリメント。お疲れですか、そうですか、とりあえず癒やされたいでしょう、これを飲んで、ほらほら、癒やされるでしょう、なんて、癒やし産業は向精神薬の薬漬け医療への推進キャンペーンか何かですか。あぁ、この時代が見えますか、諸侯が命を賭して守り抜いた日出ずる国は、精神安定剤パラダイス大国と相成りました。なんて、タイ式マッサージ店で目を閉じながらブツブツ呟いているのが嘘偽り無く私である。こんばんは、気持ち良いですね、マッサージ。

    まぁ、何だかんだ言ってるが「癒やし」は嫌いではないのである。慌てない慌てない、リラックスリラックス、なんて何処かの坊主も言ってたように心に余裕を持つ事は大切な事で、ストレスなんて、それを溜めて価値のある人間に対してだけ溜めてりゃ良い。宵越しのストレスは持たねぇ、なんて江戸っ子のように暮らして行きたいものですわな。ストレスとお金は似てる、どちらもためかた、使い方。私は真顔である。

    前後脈絡も無く書き始めて、その内に「さ」が入った単語が出てくるだろ、それをタイトルにしてみよう、と考えていたのだが、一向に出て来ない。さ、かぁ。さ、から始まる単語ねぇ。さ、さ、さ、さ【山紫水明】と、半ば強引にひねり出したのが、この四文字熟語であった。【山紫水明(さんしすいめい)】は自然の風景が綺麗な事、って意味で、この景色まじで【山紫水明】だよねー、みたいな感じで使うし、おぉ、散々書いてきた癒やしと自然、良いじゃないか、自然、自然、リラックス、リラックス。

(何回も癒しではなく癒やしと書いたのは[癒]は本来[い]と読むと言う事を先程インターネットで知って、あたかも以前から知ってたかのように書きたかったからである。)

    と、言う訳で本日は【山紫水明】。マジか、今から本題なのかよ、月曜日のテンション高くねぇ? この人絶対日曜日休みだろ、なんて声には人差し指で君の顔面を指差して「その通りだ!」と叫んでやろう。私は日曜日が休みなのだ。そして週末は酩酊しているので書けない。それはまぁ置いといて【山紫水明】で私が思い出すのは、いつかの沖縄の海である。

    中国古来の下剤の薬草の名前を付けた某ヒップホップグループが首里城でジャケット撮影してたなぁ、なんて話題が酒の席に上がり、同じ場所で並んで記念撮影でもしようか、と言う訳で、野郎四人、悲しくも楽しく沖縄旅行へ出かけた。宿泊先は首里城付近の本島南部で、どちらかと言えば、本島南部は斎場御嶽や首里城などの史跡や建造物が多く見られる土地で、北部は名護湾、羽地内海、大浦湾と三方に開けた美しい海があり、名護岳、多野岳、嘉津宇岳など美しい山々が連なる【山紫水明】の地である印象が強かった私だが、南部に位置する那覇空港から数分車を走らせただけで眼前に現れた海は、本島を南部北部に分けずとも、沖縄自体が自然豊かな【山紫水明】の地であるという事を教えてくれた。都会で生まれ、都会で暮らして来た私にとって、馴染みの無い景色だから特別に見えたのか、あの日見たエメラルドグリーンの海は、今まで見てきたどんな宝石よりも輝いて見えた。

    まぁ、男同士そんな話を共有して涙する訳も無く、首里城で写真を撮り、オリオンビール飲みながら野良犬追いかけて、浜辺でフリスビーして遊んで過ごした。その時取った写真を、後日印刷して貰って、額に入れて部屋に飾っていたのだが、引っ越しのタイミングなのか、物に愛着が無いのかわからないが、額縁ごと露と消えてしまった。

    失った物は探しても仕方ない、盛者必滅会者定離、なんて念仏を唱えながら、マッサージ帰りに酒を煽っている私であった。

    

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