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その日、なつかしく新しい場所へと続く道をトリサポたちはたどった

2019年9月14日。青い服装の人たちが続々と、大分の商店街を抜け、国道を歩き、大分川にかかる橋を渡っていきました。中には竿に巻いた大きなフラッグを持っていたり、太鼓を背負っていたりする人もいます。

彼らが目指すのは大分市営陸上競技場。この日、実に17年ぶりに、そのスタジアムでJリーグの試合が開催されたのです。明治安田J1リーグ第26節・大分トリニータ対湘南ベルマーレの一戦で、青い出で立ちの人々はトリニータのサポーターの面々なのでした。

ラグビーW杯の影響で現在トリニータがホームゲーム会場としている昭和電工ドーム大分こと大分スポーツ公園総合競技場が使用できないため、代替施設での開催を余儀なくされ、9月に行われる2試合の会場が大分市営陸上競技場になったというわけです。

大分市民に“市陸(しりく)”と呼ばれ親しまれている大分市営陸上競技場は実は、2001年に大分スポーツ公園総合競技場が完成するまで、トリニータのホームスタジアムでした。だから古参のサポーターや長くトリニータを見守っている人たちにとっては思い出深い場所です。トリニータはクラブ創成期の歴史の数々をここで刻んできました。最も有名なのが、通称「舞鶴橋の悲劇」。スポーツライターの金子達仁さんが『秋天の陽炎』という一冊の書籍にしたためた、クラブ史のマイルストーンのひとつです。

その思い出深い“市陸”での、17年ぶりのリーグ戦(※第89回天皇杯2回戦・横河武蔵野戦は2009年10月11日、大分市営陸上競技場で開催)。芝生スタンドの会場でのJ1開催は特例です。昭和電工ドーム大分の収容人数4万人に対して、市陸の収容人数は約1万5000人。郊外にある公園内に約4000台の駐車場を擁するドームとは異なり、大分駅からギリギリ徒歩圏内、市街地のはずれにある市陸では観戦者の駐車場も離れた場所にしか確保できず、シャトルバスでのピストン輸送となります。普段はドームへも大分駅前からシャトルバスが出ているのですが、やはり交通の便からマイカーでの来場者が多く、試合前後の渋滞が慢性的な課題に。そんな状況で、市陸での開催では一体どうなるのか…。

そこでトリニータの運営会社である大分FC、こんな企画を打ち出しました。

代替施設開催というデメリットを逆手に取った、まちなかウォーキングイベント。スタート地点は繁華街中心部の若草公園で、参加者はそこから商店街を抜け、市陸までの2.6kmを歩いていきます。ただ歩くだけでなく、大分県民のための健康アプリ「おおいた歩得」ともタイアップ。

さらに、対戦相手も含めたチームグッズまたは観戦チケット持参の先着1000名に「大分トリニータオリジナル反射材」をプレゼントするという、コレクターの心をくすぐる仕掛けも。

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参加者は健康になるし商店街は賑わうし、こうしてレプユニ姿のサポーターたちが歩いていく姿を見て「あ、楽しそうだな自分も行ってみようかな」と思う人が出てくれば彼らがいずれはサポーターになるかもしれないし。昭和電工ドーム大分は美しく快適なスタジアムだけど、郊外にあるため観戦者以外の人たちがJリーグを身近に感じにくいという一面もあるんですよね。いつ試合が行われているかもわかりにくく、トリニータへの関心を高めるためにはちょっとだけ高いハードルを越えなくてはならない。だから今回の市陸開催をトリニータの認知度を高める機会に結びつけようと、クラブも一計を案じたのでしょう。

クラブスタッフに話を聞くと、やはり準備は大変だったようです。商店街や県の交通安全協会、ボランティア団体などさまざまなところと話し合いを重ね、上手く行くこともあれば行かないこともあり。

ですが、その甲斐あって、沿道にトリニータの幟の立つコースをサポーターたちが歩いて試合会場に向かう様子は、なかなかにテンションの高まるものでした。これからサッカーの試合がはじまるよ、というワクワク感が、自ずと演出される仕組み。そして市陸がホームスタジアムだった当時のなつかしいレプユニを着た人と、今年配布されたクラブ創設25周年記念シャツ姿の人が混在して歩いている光景は、とても感慨深かったのです。それぞれが年齢も住む場所もサポーター歴も好きな選手も違うけれど、トリニータというサッカーチームを介してひとつのゆるい集団をなしているということ。

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古参のサポーターにとっては懐かしい場所でも、ほとんどのクラブスタッフにとっては初めての会場。あれ、これ席割りミスってない?と思うくらいに芝生席は青い人でぎゅう詰めで、そこではきっと不自由な思いをした人もいたはず。だけどこちら側から見れば、こんなにいっぱい入ってる感! 同じくらい入っても4万人収容のドームではガラガラになってしまうのですが、市陸ならこんなにいい雰囲気に。

われわれ報道陣も、市陸では大変です。スタンドに会議机を並べてしつらえた記者席の、ひとつの机に3人掛け。すぐ後ろに中継カメラがあるため、立つときは頭がフレームインしないよう中腰にならなくてはなりません。でも延長ケーブルで電源も引っ張っていただき、実に快適に仕事できました。クラブスタッフもボランティアさんたちも、きっととても忙しかったと思う。試合後は試合後で22時までに完全撤収しなくてはならないので、片付けでバタバタしてました。

もちろんチームも、芝や照明の具合をチェックしたりといつもと異なる準備が必要だったのですが、それも結実して湘南ベルマーレ戦は見事勝利。

28日にはもう一試合、J1第27節・ジュビロ磐田戦が市陸で開催されます。もちろん「siriku road」も実施。磐田には中津市出身の松本昌也選手と2008年ナビスコカップ優勝時のメンバーだった藤田義明選手という元トリニータ選手もいるし、何よりもいまトリニータは攻撃陣がコンディションを上げていて、面白いサッカーを見ることが出来そうなので、ラグビーW杯も開幕して楽しいこと満載ですが、是非みなさん市陸へとお運びください。

あ、観戦前にこちらをお読みになるといっそう試合を楽しめること請け合いです、と最後に宣伝も忘れずに添えておかねば。


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