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なぜ、木を「1本まるごと使う」のか?

いきなり何の話だ?と思うでしょうが、会社の掲げるコンセプト「1本まるごと販売」について。自社商品のブランディングなどを考えている中で、再度自分でこのコンセプトの咀嚼をしているところです。

なぜ東京チェンソーズは「1本まるごと販売」しているのか、自分の整理のためにもまとめてみました。

そもそも丸太って1本いくらなの?

まずどこで売ってるの??と思う人の方が多いと思いますが、実は丸太にも野菜や魚と同じように、全国に「原木市場」という市場があって、そこで競りが行われています。

原木市場の風景

こんな感じで丸太が大量に並び、材木屋さんが購入していきます。写真に載っているのは直径30cm・長さ4mの杉丸太。さあ一体この1本がいくらで購入されるでしょうか?会社の事業紹介でプレゼンするときは結構これをクイズにしてますが、回答はさまざま・・・

・・・5万円・・・10万円・・・100万円?

本当にそう思ってる!?と思うこともありますが、結構これくらいの金額まで回答金額が釣り上がったりします。
60-70年、人の手をかけて育てられた杉の木。実際の販売はというと、1本約3,000円程度です。驚く方も多いですが、これが現実。状態にもよりますが、このくらいの価格で杉の丸太は販売されています。

令和3年度 森林・林業白書より抜粋

木材は立米単価(1立法メートルあたりの単価)で計算をされますが、杉の中丸太ではピークの39,600円(1980年)から12,500円(2020年)まで、価格が1/3以下になっています。

1本の木から4mの丸太が3本くらい取れたとしても、ざっくり10,000円にしかなりません。本当にそのくらい丸太の価格は安いんです。
じゃあ林業に可能性はないのか?というと、そうではありません。

丸太の販売ではなく、素材に目を向ける

1度、山に生えている木1本の全体像をイメージしてみてください。上部の幹は細くなっているかもしれませんが、そこには豊富な葉っぱがあり、幹には樹皮も付いてます。枝もあれば、土の中には根っこも広がっているのです。

丸太だけで考えてしまうと・・・となってしまいますが、まだまだ活用できる部分はたくさんあります。

木1本の価値を見つめ直す

販売されている丸太は、木1本で考えれば約半分。そして製材され、建材としてハウスメーカーなどに使用されるところまで行くと、さらに使う部分が半分に減ってしまいます(一部バイオマス燃料などになるものもある)。
このような使い方を想定すると、実は木1本の内、25%程度しか活用されていないことになります。

そして、この残り75%の素材までしっかり価値を見直そうよ!というのが、「1本まるごと販売」の考え方です。

素材に向き合うことで見える価値・個性

木1本を見つめ直すと、先ほど書いたように丸太以外の素材が豊富に出てきます。

木1本から出てくる素材の数々

根っこ、細丸太、枝、葉っぱ。写真を見ると、どれも個性的な素材に見えてきませんか??僕にはそう見えます。しかし、1本1本、それぞれの素材に目を向けず、一括りに"間伐材"と言ってしまったりすると、途端に価値が感じられなくなったりもします。

だから会社の中では、みんながほとんど"間伐材"という言葉を使いません。もちろんすべて"間伐"という施業を通して得られたものですが、ひとつひとつの素材と向き合うことが出来ているからこそ、一括りにはまとめられない。

僕たちが活用する素材は、スギ・ヒノキが中心ですが、多くは写真のように樹皮を剥いて使います。高圧洗浄機と金たわしでツルツルに磨くと、本当に綺麗な木肌が見えてくるんです。さわり心地も最高。どれも個性あふれるものばかり。正直、個人的には素材を見ているだけでも楽しいです笑

根っこで作ったカッティングボード

根っこなんて、切れば木目まで面白い。写真はワークショップで綺麗に磨いてオイルで仕上げてもらったものですが、すごく特徴的な見た目で、1枚1枚が個性あふれる製品に変わります。

こんな風に、少し手を加えるだけでどの素材も唯一無二の価値が生まれてきます。木も人と同様、生きているもの。1本1本に個性があって当たり前。人工的に作られたものではないからこそ、多様性があり、すべてに価値があるはずなんです。

物質として扱えば、木材はテクスチャーとして捉えられかねません。でも一つの生きものと考えると、その木にもストーリーが感じられると思いませんか?たぶんどの木にも、育った環境における苦労や、思い出のようなものが体に刻み込まれているはずです。

本当に人と同じです。だって、生きているんだから。それだけでも価値はあるし、その個性を尊重していけたらたぶん、きっと、面白くなる。

木の個性を見つめることで生まれる「森と街の循環」

林業は斜陽産業と言われることもありますが、確かに丸太を販売するだけでは、どうしても補助金に頼らざるをえません。その販売価格だけで山を再度整備することは難しく、まだまだ日本には放置されてしまっている山林がたくさんあります。

でも、だからこそ林業には伸び代しかないとも考えられます。というか、伸び代しかないんです。

木の個性を見つめなおし、街に届ける出口を作り出す。自分達の力だけでは難しいかもしれませんが、そこに建築家やクリエイターのみなさん、それに他の業界の人が入ってきてくれれば、いくつも新しい出口の扉は開きます。

「木なんて嫌い!」と言う人はほとんどいません。むしろ「木っていいよね〜」と言う人ばかり。だから街で木の個性と出会えば、きっと森への扉にも通じるはずです。見直された木の個性・価値によって、ようやく森と街が物質的にも経済的にも循環しだす。

木を1本まるごと使うこと = 木それぞれの個性を見つめること

この考え方を大切にしながら、これからの製品づくり、ブランディングも取り組んでいきたいと思います。まだ先になるかもしれませんし、まだ作る製品も決まってませんが、楽しみにしていてください。

ここまでお読みいただいたみなさん、ありがとうございました。

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