マガジンのカバー画像

引き裂かれた姉弟と罪滅ぼしの邪神の話

8
昔話風の恋愛小説です。『創作まとめ』にあるお話より恋愛色が強いので、苦手な方はお気を付けください。
運営しているクリエイター

記事一覧

引き裂かれた姉弟と罪滅ぼしの邪神の話・完

引き裂かれた姉弟と罪滅ぼしの邪神の話・完

(前回の続きです。最終回)

ところが肝心の罪滅ぼしは、全くうまくいきませんでした。今のところ弟が姉さんに会いたい以外に願ったのは、唯一「本が読みたい」だけ。

「本が読みたい」を叶えても気休めにしかならないことは分かっていました。それでも知識があって困ることは無いと、

(どうせなら人の世で役に立つ知識をつけさせてやろう。この男は頭がいいようだし、知恵をつけさせれば、おのずと成功するはずだ)

もっとみる
引き裂かれた姉弟と罪滅ぼしの邪神の話⑦

引き裂かれた姉弟と罪滅ぼしの邪神の話⑦

(前回の続きです)

弟とおっかさんは疑っていますが、この世界には明らかに人外の力が働いています。特に弟は、ある時点から、ある神様によって、ずっと見守られていました。

それは大店の娘が願をかけた、人の寿命を半分奪う代わりに願いを叶える邪神でした。

今でこそ邪神と呼ばれていますが、もともとは人の気から生じた人のための神でした。

この世界の神は、全て自然界のものが発する気から生じた存在で、花の神

もっとみる
引き裂かれた姉弟と罪滅ぼしの邪神の話⑥

引き裂かれた姉弟と罪滅ぼしの邪神の話⑥

(前回の続きです)

姉さんとの過去を全て思い出した弟は、がああっと頭を掻きむしって、

「なんで!? なんで姉さんは死んでしまったんじゃ!? 俺には姉さんだけじゃったのに! 大切じゃったのに! なんで神は俺から記憶を奪った!? なんで!? なんでじゃ!?」

と大地を叩いて号泣しました。あまりに激しい悲しみに、僧侶はややたじろぎながら、

「その方との思い出がそれほど辛いなら、再び記憶を封じまし

もっとみる
引き裂かれた姉弟と罪滅ぼしの邪神の話⑤

引き裂かれた姉弟と罪滅ぼしの邪神の話⑤

(前回の続きです)

弟の母親は、流れ者の小汚い女でした。

いつどこからやって来たのか、いつの間にか村の隅っこに住みついて、野良猫のように子を孕み、育てきれずにこの世を去りました。

物心つく頃には弟はすでに一人で、村の人の慈悲によって育てられていました。しかし自分の子でもない弟を最初に引き取って育てたのは、本当は心当たりのある者だったのでしょう。

女だけで子を授かることはできない以上、父親が

もっとみる
引き裂かれた姉弟と罪滅ぼしの邪神の話④

引き裂かれた姉弟と罪滅ぼしの邪神の話④

(前回の続きです)

姉さんは大店の娘の話を、そのまま信じましたが、他人の身に起きた出来事を、外から正確に知ることは不可能です。真実は人間の嘘や思い込みによって、たやすく変化します。

大店の娘も自分の得のために、姉さんに嘘を吐いていました。姉さんと離れていた三年間。弟の身に実際に起きた出来事はこうでした。

弟は誘惑の多い街に来ても、遊んだり無駄遣いしたりすることなく、真面目に働いていました。

もっとみる
引き裂かれた姉弟と罪滅ぼしの邪神の話③

引き裂かれた姉弟と罪滅ぼしの邪神の話③

(前回の続きです)

大店の娘との結婚を知った時点で、姉さんはもう自分と弟の縁は切れたのだと悟りました。けれど、せっかくここまで来たのだから、三年ぶりに会ったのだから、大きくなった弟の姿を目に焼き付けて、懐かしい声を聞きたかった。

しかし弟が自分との約束のせいで、やはり縛られていたのだと聞いてしまえば、大店の娘の言うとおり、過去の象徴である自分は、会ってはいけないと思いました。

仮に絶対に弟が

もっとみる
引き裂かれた姉弟と罪滅ぼしの邪神の話②

引き裂かれた姉弟と罪滅ぼしの邪神の話②

(前回の続きです)

ところが遠くの街に奉公に出ても、弟の献身は止みませんでした。もともと毎月、文で様子を知らせる約束でしたが、仕送りまで入っていました。

驚いた姉さんは、弟の残した読み書きの教本とにらめっこしながら、

『アンタががんばって稼いだお金じゃろう。自分のために使いなさい』

なんとか返事を出して、お金も送り返したものの

『俺は姉さんにいい暮らしをさせたくて働きに出たんだ。姉さんが

もっとみる
【創作】引き裂かれた姉弟と罪滅ぼしの邪神の話①

【創作】引き裂かれた姉弟と罪滅ぼしの邪神の話①

昔々ある貧しい村に、血の繋がらない姉弟が居ました。

弟は生まれつき孤児で、最初は他の村人の世話になっていたのですが、自ら家を飛び出してから、半年ほど野外で暮らしていました。

しかし冬が近づくにつれて、外で寝ることも食べ物を探すことも難しくなり、独りでひっそり死にかけていたところを、五歳年上の姉さんに拾われたのでした。

弟は前の家では大変な問題児だったようで

「誰にも懐かん野良犬じゃ」
「人

もっとみる