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東大生の本棚 【読書感想】

東大生はなぜ、マンガや小説を読むのか?ストーリーが持つ学習効果

「東大生は~」と殊更にありがたがる本はあまり好きではないのだが、東大生は書物の読解力や文章作成能力などの「国語力」が高い集団であることは間違いないだろう。そうした東大生100人への調査を基に、「どのように本を読むのか?」「どのような本がおすすめなのか?」を紹介する本。

東大生は実用書や教科書ばかり読んでいるのか?というとそうではなく、物語やマンガも積極的に読んでいる。

本書は物語を読む効果を2つ挙げている。

1つ目が、「追体験」だ。どんな勉強に置いても他人に対する想像力は必要になるが、他人の体験を作品などを通して思いや考え方を理解することで、現実世界でも他人に対する想像力を養う。

2つ目が、物語を通して複雑な感情を「簡易化」できることだ。

抑圧や嫉妬、遠慮…こうした複雑な感情を説明することは難しい。これらを物語の力を借りることで、実感をもって説明しやすくなる。

抑圧の場合は、「抑圧=優秀な兄を持って、常にその兄と比べられて、親から毎日勉強させられる弟の気持ち」といった具合だ。感情の解像度が上がれば、例えば歴史で「抑圧された民衆」という言葉が出てきたときにより鮮明に読解できる。

物語の読み方を学ぶ最適な本──「やがて君になる」

本書ではこうした読み方を学ぶ本として「やがて君になる」を推奨している。

この本は私も繰り返し読んだが、本当に細部まで拘っていてよくできている。

1コマ1コマに意図が込められており、「ここで主人公の気持ちはどのように変化していったのだろうか?」「この表現は登場人物の心情にマッチしているんじゃないか」という読み方が可能だ。登場人物の視点や天気・状況、人物の心情など、読み返すたびに「これってもしかして…」と思うポイントがある。

「東大生の本棚」の言葉を借りると、「マンガでしか表現できない文学がこの作品にはある。たまには『文学的な漫画』を丁寧に読んで、その世界の細部まで感じてみてはいかがだろうか」とのこと。これまでとは違った漫画の楽しみ方に会えるかもしれない。

同様の理由で3月のライオン(羽海野チカ)春の呪い(小西明日翔)も推奨している。

東大生の読み方②ー繰り返し読み、マクロとミクロの視点で読む。

今回の調査では、東大生は1冊の本を繰り返し読む傾向にあることも分かった。(調査と言ってもアンケートで設問もあいまいだったが)1つの良書を繰り返し読むことで、物語の語り口であったり構成を自分のものにできる。

ただ繰り返し読むと言っても、効率の良い読み方がある。当たり前だが、あてずっぽうで読むのと、準備をして「この文章はこういう意図がある」と読むのでは読解の質が異なる。具体的に本書では、以下の3ステップでの読み方を推奨している。

①パラパラ読み:何が書かれているかの概要をつかむ
②じっくり読み:1行1行しっかり読む
③マクロ・ミクロ読み:全体と部分を意識しながら 文脈の中で理解する。
例えば、「結局この登場人物は何をしたのか?」と流れを参照しながらミクロな行動を読むといった具合だ。

こうしたマクローミクロ読みに適した本として、ラルフ イーザウの「暁の円卓」を推奨している。

歴史ファンタジーである本書は、20世紀を100年生きた主人公が秘密結社を戦うという設定で、第一次世界大戦や朝鮮戦争、地下鉄サリン事件などを体験する。主人公の視点からその時代を生きた人の考えを検証するという構成だ。

推薦者は「歴史の大きな流れ、世界と言う広い事柄を自分なりに解釈する訓練になった」という。一つの出来事を題材としながらも、その背景を考えると大きな流れで見ることができる。同様の歴史小説としては「ロゴスの商人」「ローマ人の物語」などを推奨。

③教養=点と点をつなげる力

リベラルアーツ、教養の重要性が叫ばれて久しい。筆者は教養とは「何かと何かをつなげる力」だと話す。例えば、新しい事柄であっても自分の既知の事柄と結び付けられると、学びのスピードが段違いになる。戦略読書ではジョブズの例を挙げていた。

知識と知識をつなげる感覚をつかむ訓練にぴったりであるのが、「図解 世界史で学べ! 地政学」だ。

地理的な条件から国際情勢の経緯を読み解く視点が見事だという。同シリーズでは地理や経済も学べる。既に知っていることから、未知の物事を理解するというのは実はとても楽しいものだ。本書は中学生でも読める内容になっていると言い、気軽にそうした楽しさを味わうことができる。


本書の所感

本書のあとがきでも描いてあったのだが、読書は「楽しいから読む」というのが一番良いのだと思う。意外だったのは東大生の89%が「読書感想文は苦痛だった」と答えていたことだ。活字なら何でもいいような「本の虫」は東大生であっても少数派であるし、押し付けられた本やつまらない本は繰り返し読むのが苦痛だ。そこから学ぶと言っても捗らないだろう。

読書術や書評と言う点では、「戦略読書」に比べると1冊1冊への熱意が感じられない点が残念だった。テクニックに関してもあまり目新しいものはないし、小手先感も強かった。

というか、基本的にはテクニックごとに「東大生は100人中○○人がこうしてる!」とデータを示しているのだが、「1冊を繰り返し読む派」が63人なのに「東大生は1冊を繰り返し読むからそうした方が良い!」といった風に話を進める。「いやいや残りの37%の意見は無視…?」となるので、個人的には納得しにくかった。ヒアリングした100人に理系が明らかに少なかった点も個人的には残念。(推薦文がほとんど文系だったので…)

良いところとしては、紹介する本が「今っぽい」。私の世代が書店などで触れたことがありそうな本が多く見られた。この点はやはり現役大学生が勧めるが故のメリットだと思う。




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