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公認会計士の「道徳」の在り方 ~貞観政要から見る人間力~

先日、あるパートナーの方ののすすめで『貞観政要』という本を手に取りました。貞観政要は「帝王学の教科書」ともいわれる中国古典のひとつです。

本の中では、「リーダー」・「プロフェッショナル」として、
驕ることなく、
私欲に打ち勝ち、
広く部下の意見を聴き、
責任感を持って組織を運営するという姿勢の大切さが説かれています。

私自身、「道徳」について語れたものではありませんが、公認会計士として、またチームで仕事をする立場として、倫理観は常に磨いておく必要があると自覚しております。
監査法人や事業会社で働かれている方など、皆様にもチームとして働く機会が多々あることかと思います。
このような中で、適切なチーム運営をすることはとても大切なことですが、監査法人ではこれらを積極的に学んで実践しようとする方は少ないように思います。結果として、プレイヤーとしてのみ優秀なワンマンプレイヤーが出世することも起こってしまっています。(これらの話題は、SNSにおいても目にする機会が増えている気がしています。)

部下の心理をつかむにはどうすればいいのか、主査やチームを統括する立場としてどのように立ち振る舞うべきか、といった課題は、時代は変われど数百年前の為政者も同様に直面し、様々な試行錯誤が重ねられてきています。
今回はそうした議論について、私なりの解釈で、公認会計士にとっての「道徳」という切り口から執筆していこうと思います。


1. 貞観政要とは

(読み飛ばしていただいて構いません。)

『貞観政要』は、唐の第二代皇帝、太宗(李世民)の言行録であり、太宗と臣下の政治上の議論や問答がまとめられています。

太宗 李世民 598-649

「貞観」とは、当時の元号(西暦627~649年)を指し、中国4000年の歴史の中で、特に平和な時代(盛世)ともいわれております。
「政要」はその名のとおり、政治の要諦のことを指します。
つまり、『貞観政要』は、貞観時代の政治のポイントをまとめた書物であり、その中では貞観というまれにみる平和な時代を築いたリーダーとその臣下たちの姿勢が明快に示され、帝王学の教科書として長い間使われてきました。

言い換えれば、『貞観政要』は、ビジネスにおける最良のケーススタディのようなものです。
本書を読むことで、人間と人間が作る社会はどのようなものか、リーダーとメンバーの関係はどうあるべきか、チームとして働くうえで必要な資質とは何かを予行演習することができます。
『貞観政要』には、ビジネスの根幹となる資質が書かれているといっても過言ではありません。

本書では、「三鏡」が一つの主題として書かれています。「三鏡」とは、リーダーは3つの鏡を持たなければならないという教えです。

    太宗、嘗て侍臣に謂ひて曰く、
 夫れ銅を以て鏡と為せば、以て衣冠を正す可し。
 古を以て鏡と為せば、以て興替を知る可し。
 人を以て鏡と為せば、以て得失を明かにす可し。
 朕常に此の三鏡を保ち、以て己が過を防ぐ

『貞観政要』巻第二 仁賢第三 第三章「三鏡」

銅の鏡:鏡に自分を映し、明るく楽しい顔をしているかチェックする
歴史の鏡:過去の出来事しか将来を予想する教材がないので、歴史を学ぶ
人の鏡:部下の厳しい直言や諫言を受け入れる

これら三つの鏡がリーダーには必要だということです。

2. 表情一つで世界が変わる (銅の鏡)

2-1. チームの雰囲気は、リーダーが作る

銅の鏡では、明るく楽しい表情を作る必要性が説かれています。リーダーは部下にとって一番身近なロールモデルであり、リーダーの振る舞いが部下の振る舞いを決めるといっても過言ではありません。

私も含め、公認会計士の方々は、比較的まじめな性格の方が多いように思います。
人一倍責任感も強く、そういった要素もあってか、暗い顔をして職場の空気が淀み、チーム全体として伸び伸びと働くことができない環境が醸成されてしまってはいないでしょうか。

チームのメンバーは、上司の表情を見て仕事をしており、上司の言動によりチーム全体は幅広く影響されると思います。だからこそ、明るい表情を見せて行動することに気を配るべきだとも感じます。

チームメンバーにとって、上司の存在が労働条件そのものです。
そういった点でも、チーム(やクライアント)を管理する立場において、最低限、このような表情作りをすることは職務のように思います。

2-2. 現実的なデメリット

暗い雰囲気や威圧的な態度を出すことは、チームマネジメントのみならず、自分自身にもデメリットをもたらしえます。

大きな違いが、情報が入ってくる人と入ってこない人の違いです。
想像に易く、上司が不機嫌な表情をしていると、チームメンバーは寄ってこなくなり、結果として情報が入ってこなくなります。情報が入ってこなければ、正しい意思決定は難しいです。

”意思決定を多くする立場”として、また、そもそも”会計監査に携わる立場”として情報は命です。クライアントや部下から必要な情報を得るテクニックは、最も大切なスキルの一つといえます。

話は多少ずれますが、私がスタッフ一年目としてある監査チームに配属された際、同じ頃に新規に配属された現場リーダーから「挨拶運動係」に任命されたことがあります(笑)(その監査チームでは、当時何の挨拶もなく監査チームに入ることが慣習となっていました。)

そのリーダーが来てから、チームの雰囲気は明らかに明るくなったと聞きますし、あのようなチーム作りが一つの現場主査としての職務なんだな、とも今になって考えています。

2-3. 休職者を多く輩出する現場

監査法人のチームを見ても、毎期のように休職者が出してしまっているチームがあります。

もともと業務量が多い、求められるクオリティが高いなどと、人間関係以外にも様々な固有原因はあるかもしれません。
しかし、上記の観点で、上司の立ち振る舞いやチーム運営の在り方に課題を感じる現場が多いのも事実です。

休職者やドロップが多い監査チームに、十分なナレッジはたまりません。監査の効率性やクオリティを高めていくうえで、毎期のように数人の求職者を出してしまうことが、チームとしてプラスに働くわけがありません。

リーダーや上司として、目指すべきこと (監査の品質と効率性)を見失わずに、そのために取るべき必要な行動と態度を改めて考え直す必要があると思います。


3. 人は何度でも天狗になれる(歴史の鏡)

3-1. 誰しもが暴君に成り下がる素質を持っている

歴史の鏡とは、まさに今、皆様がお読みいただいているように、貞観政要のような過去の文献や情報にあたり、今の状況と照らし合わせながら、将来を思いめぐらせることを指します。

貞観政要の概要は前述の通りですが、貞観政要の最大のテーマは、
「なぜ一国の為政者にまで成り上がるような英雄が、トップになった途端に暴君になってしまうのか」
いわば、「暴君の研究」ともいえるかもしれません。

今にも過去にも、出世した者が権力に溺れ、暴君に成り下がるという話は至るところで聞く話かと思います。
ただし、忘れてはならないのが、多くの場合、このような方たちはバカではありません。それどころか、しっかりと評価を受けて出世する、むしろ有能な方であった可能性が高いです。

それでもなぜ、権力に溺れるバカに成り下がってしまうのか。

考えれば当たり前のことです。
私も含めて多くの方にとって、目の前の関心ごとは、地位・自由・金です。実績や評価をいかに受けて出世や社内での地位を確立するか、独立していかに自由な働き方を手に入れるか、いかに年収を増やして金を手に入れるか。
誰しもが暴君に成り下がる素質を持っていますし、だからこそ、歴史に学び、自らの教訓として活かしていく姿勢が大切になるということです。

3-2. 上司は「人間として偉い」わけではない

上司は「人間として偉い」わけではない。部下と「機能が違う」だけ

座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」より抜粋

上司として権力に溺れないための仕組みづくりは、今回の記事を通して紹介していますが、上記の抜粋は、私が特に必要なマインドセットと感じた一節です。

上司も部下も、組織を運営するための機能の一つにすぎません。上司には、組織をまとめる役割が与えられており(あくまでも“役割分担”を示すもの)、上司と部下がそれぞれの機能を発揮することで組織が成り立っているということだけなのです。

リーダーなどの肩書がついた人の役割は、「ポジションに見合った仕事をすること」です。(Ex. 素早く決断する、責任を取る、トラブルを迅速に処理する、部下の成長を心掛ける、部下を育成していく)

しかし、中には、とにかく部下に対する言葉が乱暴/粗雑な方がおり、そのような方にはこのマインドセットが足りていないのかなとも感じます。

敬語を使う・使わないという話は、文化によるところですので、ここでの論点ではありません。しかし、乱暴な態度や言動というのは、「部下は、いつも、いつでも、いつまでも、自分より下にいるべき」などといった勘違いが根本の原因になっている気がします。
仮に私がどれほど優秀であろうが、上記のような態度では精神レベルは無能であり、チームにとっては害悪であり癌でしかありません。

必要なマインドセットをしっかりつけること、それらを過去のケースや歴史から学んで実践すること。
このような鏡を持とうと姿勢が大事なのだと思います。


4. 人からの忠告で身を正せますか(人の鏡)

最後になりましたが、3枚目の鏡についてになります。貞観政要では、この3枚目の鏡を重要視したということが、李世民の最も大きい特徴になります。

あなたは上司として、周りの忠告でやり方を変えることができますか?

これが、李世民から現代で悩む我々に問われる最大のメッセージとなります。

4-1. 部下からの戒めに傾聴する

本書ではこの忠告を「諫言」と表現していますが、太宗は諫言する部下を積極的に登用し、時には耳の痛い指摘にもしっかりと傾聴し、自分の至らぬところは直したといいます。

君主を諌めたり苦言を呈することは、臣下からすれば命がけです。
このような中で、上記のような仕組み作りができた背景には、リーダーへの信頼があると思っています。
欠点はたくさんあるという自己理解と、メンバーにしっかりと向き合って耳を傾ける姿勢、それらの前提としてリーダーに正しくあってほしいというメンバーの想いがあってはじめて、諫言する部下とそれに耳を傾ける上司の健全な関係が出来上がります。

このような鏡を取り入れるに至った李世民の背景には、印象的な下記のリーダー論があると言われています。

4-2. 舟と水のリーダー論

君主が正しい政治を行わなければ、水(人民)は荒れ狂い、あっという間に舟(君主)を転覆させる

座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」より抜粋

リーダーは舟として、周りのメンバーにいかされている立場です。周りのメンバーからこの人についていこうと思われなければ、健全な組織運営はできません。

4-3. 身近に自分を咎める存在を置く難しさ

この本を通して、上記の重要性は理解できたところで、自分の意見に釘を刺すような存在を身近に置くことができるのかという点については、正直なところ微妙です。。

しかし、少なくとも、「欠点や過失を指摘されることを望み、喜んで聞き入れる姿勢」という点は意識しつつ、周りのメンバーとも意志共有しながら、必要な組織運営をできればよいのかなと感じました。


おわりに

いかがでしたでしょうか。

公認会計士として、社会人として組織で働く身として重要な「道徳」のエッセンスが、この『貞観政要』には詰まっているように思います。

公認会計士として、どこか専門性や目の前の知識・経験ばかりに意識が向きがちですが、本当に優秀な人というのは、クライアントや社内で必要な信頼を積み重ねられるようなビジネススキルがある人です。

小学生のころに授業として学んだ「道徳」について、社会人として取るべき行動が変わった今、改めて学びなおす機会が必要なのではないかと思います。

貞観政要、是非お手に取って読んでみてください。

今回は長文になりましたが、最後までお読みいただきましてありがとうございました。

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SHIRAKI 【公認会計士】
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