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ビールがうまかったので「泡持ち」の化学について書いてみる

久しぶりのサイエンス系記事です。
今回はビールの泡について。
大学時代の専攻(醸造学)を思い出しながら書きます。

ビールがやっぱりうまかったという話

まずは最近飲んだビールの話。

せっかくのGWなのに人と積極的に会えないので家でビールを飲みました。

買ってきたのはヒューガルデン・ホワイト。
ベルギーの代表的な白ビールです。

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開栓してグラスに注ぎます。
綺麗に注げると、より美味しくなる気がします。

少しだけ眺めてから飲みます。

泡の食感。
ナチュラルな甘味と適度な酸味。
フルーティな香りが特徴的。

いやぁ、やっぱり美味い。
相変わらず魅力的な飲み物です。

特にビールの「泡」はその魅力を増大させていると思います。
グラスを傾け、泡とともに液体を流し込む。
飲めば飲む程飲みたくなります。

ビールの原料と役割まとめ

「泡持ち」の話題に入る前に、ビールの主な原料について超簡単にまとめておきます。
本当に超ザックリまとめです。

【麦芽】
大麦や小麦を水に漬けて発芽させ、加熱して成長を止めたもの。
加熱(焙燥・焙煎)具合でベースモルト・カラメルモルト・ローストモルトなどに分かれる。
麦芽由来の糖分がアルコールの元になる。
タンパク質も含有する。

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【ホップ】

アサ科のツル性多年草。
主に乾燥させたものを以下の目的で使う。
・苦味&香り付け
・麦汁の余分なタンパク質除去
・雑菌抑制
毬果をそのまま乾燥させたり、ペレット状に加工したり様々。

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【酵母】

アルコール発酵の主役。
麦芽由来の糖分を食べてエタノールと炭酸ガスを産み出す。
ビール醸造向けの主な種はSaccharomyces cerevisiaeSaccharomyces pastorianus。

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【水】

最も大量に使う原料。
古くから"ビールの聖地"と呼ばれるのはだいたい良質の水が採れる場所。
代表的な例はイギリスのバートン・アポン・トレント。

「泡持ち」の化学

さて本題です。

繰り返しとなりますが「泡」はビールの魅力の一つです。
スパークリングワインやコカ・コーラも発泡性を有していますが、それらの泡は注いだそばから消えていってしまいます。

ではなぜビールだけは特徴的な「泡持ち」を見せてくれるのでしょうか?

その大きな化学的要因は麦芽由来のタンパク質&多糖類ホップ由来の苦味成分です。
もう少し言うと、タンパク質や苦味成分が炭酸ガスをコーティングすることで、泡を消えにくくしています。

ビールの液体と泡の境目を拡大して見てみましょう。

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タンパク質&苦味成分&多糖類の複合体が、まるで盾のように炭酸ガスの泡を守っているイメージ。
(5/2追記)
イラストで拡大した「泡と液の境界エリア」に限らず、ビールの泡は全面的にこの"盾"に守られています。

上記イラストを更に拡大して分子レベルで考えてみます。

まずはタンパク質。
ビール製造工程で一定量のタンパク質は除去されますが、最後まで生き残ったサバイバーなタンパク質が泡持ちに影響します。

泡持ちに影響するタンパク質は疎水性(=水に溶けにくい性質)が大きく、その「水に溶けにくい性質」によってビールの液体側ではなく炭酸ガス側にタンパク質が並び、安定した液膜を形成します。

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続いてホップの苦味成分。
ホップの苦味成分であるイソフムロン(イソα酸)は、以下の2点でタンパク質と親和性があります。
①イソフムロンの水酸基⇔タンパク質の塩基性残基
②イソフムロンの疎水性側鎖⇔タンパク質の疎水性残基
この親和性によってイソフムロン分子がタンパク質どうしを橋渡しすることで、タンパク質の"盾"をより強固なものにしてくれます。
先程のイラストに書き加えてみます。
※分子の縮尺がメチャクチャですが、どうか見逃してください……。

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また、2価の遷移金属イオンがイソフムロンどうしをキレート的に橋渡しすることで、タンパク質とイソフムロンの"盾"を更に強固なものにしています。

最後に多糖類です。
物質としては麦芽デンプン由来のデキストリンや麦芽細胞壁由来のβ-グルカン, アラビノキシランが挙げられます。
これら単独では直接泡持ちに寄与しませんが、既に述べたタンパク質&イソフムロンの"盾"に複合して安定性を高めたり、液体の粘度を高めることで泡が液体に落ちていく速度を弱めるなど、縁の下の力持ち的な役割を持っていると考えられています。

最後に

今回はビールの泡持ちについて化学の面から概説してみました。
タンパク質と苦味成分が協力して泡持ちを支えているとは驚きです。

日本で「ビール」と言うとほとんどがピルスナースタイルを指しますが、原料や泡持ちに着目して様々なスタイルのビールを飲み比べてみては如何でしょうか?

普段缶から直飲みしてるのであれば、たまにはグラスに注いでみるのもおすすめです。

では。


イラスト素材:いらすとや 様
参考文献:
蛸井 潔, ビールの泡 -基礎研究から応用開発まで-, 日本醸造協会誌 2016 年 111 巻 4 号

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