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【アジカンショートショート⑤】Beaster

 ビルが建ち並ぶ駅前通りの一角に煉瓦造りのホテルがある。
 入口にパトカーが数台停まっていて、白と黒の車体の上で回転し続ける赤色灯がホテルの目印となっていた。
 というのも、この街に足を踏み入れてから、僕の目に映る景色がモノクロにしか見えなかったからだ。パトカーのランプだけが、モノクロの世界で不気味に色を放っている。きっと誰かの『才』によるものだろう。
 ホテルの回転ドアを通り抜け、フロントでパスを見せると大広間へと案内された。
 大広間には、すでに選ばれた数十名の男女が集まっている。
 係の人にパスを見せると、翡翠色に着色された唐草模様の入った卵をひとつ手渡される。モノクロの会場内で、卵だけがやはり景色から浮いているように色鮮やかだ。集まった男女がそれぞれ手にしている卵の色や模様も様々で、どれひとつ同じものはないようだった。
 動画配信用のカメラクルーも会場内にいて、このイベントの注目度の高さが伺える。

「誰かと思えば、総菜屋じゃないか」

 後ろからトゲのある声で話しかけられ振り返ってみると、同じ中学だった藤堂が立っていた。

「名前で呼んでくれよ。僕んちの商売じゃなくてさ、藤堂」

「おっと、失礼。まさか、お前も『Beaster』に応募していたとはなぁ。潰れそうな惣菜屋の宣伝にでもきたのか? まぁ、お手柔らかに頼むぜ」

 笑いながら立ち去っていく長身の藤堂の後ろ姿を睨みつけながら、僕は卵をギュッと握った。
 定刻になると大広間の扉が閉められ、壇上にうさぎの着ぐるみを着た司会の男性が姿を現した。

「皆様、お集まりいただきありがとうございます! 今年も『Beaster』の季節がやってまいりました。私、今年も司会を務めさせていただきます、ラビット関本です! では、主催者であります市長からご挨拶を!」

 ラビット関本が横へとぴょんと跳ねると、市長が壇上へと上がった。

「選ばれし十代の才能ある皆さん、ようこそ『Beaster』へ。
『才』と呼ぶ超能力が、世界中で確認されるようになってから早五十年。今では当たり前になりつつある『才』という素晴らしい力を市のPRと結びつけられないかと、わが市が考案したのが『Beaster』というイベントです。親から受け継いだ『才』を存分に発揮していただき、毎年異なった種目で競っていただきます。
 今年も、ここゴーストタウンで繰り広げられる熱戦の数々を楽しみにしております」

 大広間に拍手が沸き起こる。
 ゴーストタウンは、このイベントのために更地に作られた巨大な模型街だ。市の一角をリアルに再現したのは、模型店の親を持つ市長の側近の『才』らしい。

「市長、ありがとうございます! このゴーストタウン全体に、現在モノクロ加工が施されていますが、写真家でもあったお父様から市長が受け継いだ『才』なんですよねぇ。渋くてかっこいいフィルターがかかったようで、皆さんが手にしているカラフルな卵がモノクロの世界に非常に映えます。それでは、市長、今年の競技の発表をお願いします!」

 大広間が静まり返る。

「今年の競技は『卵探し』です。ルールは簡単。今、皆さんが持っている卵と同じ色模様の卵がこの街のどこかにひとつずつ隠されています。タイムアップとなる五時間後までにもうひとつのマイカラー卵を探しだし、二つの卵を所持していた者が勝者の最低条件です」

 参加者たちがざわつきだす。

「とてもシンプルですねぇ。もしも、マイカラーではないほかの参加者の卵を発見した場合はどうなるんでしょうか?」

 わざとらしくラビット関本が、市長に質問を投げかけた。

「このゲームの面白いところはここです。マイカラーと違う卵を発見した場合でも、卵を所持することができます。そして、最終的にこのマイカラー以外の卵が大きく勝敗に関わってきます。勝利の最低条件を満たした者が複数名いた場合、マイカラー以外の卵をより多く所持していた者が優勝となります。
 ついでながら、妨害のために卵を破壊する行為などは無駄です。破壊された卵は即時、街のどこかに補充されますので」

 つまり、マイカラーの『卵探し』が終わった後は、『卵狩り』が始まるってことじゃないか。

「それでは、細かいルールはイベント専用アプリから確認をよろしくお願いします! さぁ、いよいよ始まりますよぉ。Ready……Beaster!!!」

 跳躍するラビット関本の開会宣言とともに、今年の『Beaster』がスタートした。


 大広間を出る際に卵を保管するポシェットをもらい、混雑する回転ドアを通り抜けて外へと出た。
 参加者たちが方々へと散らばっていく。きっと、マイカラー卵を見つけることを優先させるはずだ。
 僕はホテルのある駅前通り沿いをしばらく走って、百貨店へと向かうことにした。僕の近くには、小型カメラが虫のように飛んでついてくる。各参加者の状況を追うためだろう。
 百貨店に入ると、一階の奥にあるブランドショップのカウンターの影に隠れて、ゲームのルールを確認することにした。

 ・卵にはレーダー機能が備わっており、マイカラー卵のある位置を示してくれる(近づくと卵は発光する)
 ・誰がどの卵を所持しているかは、アプリに随時更新される
 ・ゴーストタウンの指定された場所に給水・軽食スペースを設け、同場所での対決を禁じる

 ということは、自分がほかの参加者の卵をとった時点で、僕はそのマイカラー卵の持ち主に狙われるということか。

「食べ物ならこっちで用意できる」 

 僕は自分のポケットをポンと叩いた。ジューと揚げたての音。ポケットから定番のポテトコロッケを取りだして食べる。母さんの作るコロッケの味。そして、これが僕の『才』だった。

「母さん、待っていてね」

 父さんは僕が小さい頃に亡くなってしまい、それからは母さんが女手一つで育ててくれた。商店街で小さな惣菜屋をやっているが、ファミリーレストランや新しい弁当屋が近くにできたこともあり、客足が減ってきている。
 なんとか母さんを助けたい、その一心で『Beaster』に応募した。動画で配信されるので、優勝すれば注目を浴びることができる。母さんの惣菜屋を再建することができるかもしれない。
 ひと通りルールを確認し終えると、マイカラー卵を探しにいくことにした。
 卵の表面には矢印が表示されていて、卵の在りかへと導いてくれるようだ。
 裏通りへと出るドアに向かって歩いているときだった。宝石店のディスプレイの中にシャワードット柄をした青い卵を発見した。

「こんなに簡単に見つかるなんて」

 手にとろうとして僕は迷った。この卵をとってしまえば、僕は青い卵の持ち主に狙われる。しかし、優勝するためにはマイカラー以外の卵集めは不可欠。考えた末に、ディスプレイから青い卵を確保し、ポシェットに入れた。

「まずはひとつ」

 幸先の良いスタートを切れたと百貨店から外へと出ると、辺りに蒸気が充満していた。

「返してもらうぜ、俺のブルーエッグ」

 声のしたほうから手がぐんと伸びてきて、僕のポシェットを掴もうとする。ギリギリでかわすと、相手はつんのめって壁に手をついた。手をついた壁からは煙が上がっている。

「できれば年下を痛めつけたくはない。火傷する前に卵を渡してもらおうか」

 壁から手を離すと、そこには焦げたような黒い手形がついていた。

「アイロン……? あっ、坂下クリーニングの」

 駅前にあるクリーニング屋の息子さんだった。蒸気が晴れると、赤いランプを頭に着けた審判が僕たちを見守っているのが見えた。さっき確認したルールに書いてあったっけ。

 ・対決が開始になった場合、審判が勝敗をジャッジする
 ・対決の敗者は所持している卵を勝者に譲渡し、このゲームから離脱する

 坂下さんは青く発光する卵を僕に見せてきた。さっき、偶然にも発見した卵と同じだ。

「お断りします! 僕だって優勝したいんです」

「じゃあ、恨みっこなしだぜ」

 坂下さんは口から蒸気を吐きだすと、再び、熱した手で僕を捕まえようと襲いかかってきた。
 僕はポケットを叩き、コロッケを取りだすと熱された掌をコロッケで受け止めた。

「うわぁぁぁぁぁ!」

 コロッケを間に挟んでいても、自分の掌にアイロンの熱が伝わってくるようだ。

「どうだ、揚げたてのコロッケより熱いだろう? 冷ましてやるよ」

 手を引いた坂下さんが僕の服を両手で掴むと、今度は全身がずぶ濡れになった。

「洗濯強化!」

 坂下さんが叫んだ次の瞬間、僕の体が宙に浮いた。その場でジャイアントスイングのように回転させられ、僕は放り投げられた。ポケットを叩いてコロッケを取りだそうとするも、衣服が濡れているせいかコロッケはぐちゃぐちゃになっている。審判が僕の顔を覗き込んでいる。立たなくちゃ。

「コロッケだけで俺に勝てると思っているのか? 俺はクリーニング店の親から引き継いだ『才』を想像力で強化してきたんだぜ」

「そ……う……像力?」

「そうさ、クリーニング屋の業務って何だろう? そこからどんな力を発揮できるだろう? ってな」

 母さんの惣菜屋を想像してみる。
 大好物はいつもおやつに食べているコロッケだけど、ほかにもおいしい惣菜がたくさんある。
 僕にだって、色んな惣菜の力を引きだすことができるはずだ。
 僕は立ち上がった。こんなところで負けてはいられない。

「なるほどね……わかったよ。惣菜力の強化だ」

 僕は坂下さんに向かって走っていき、素手で殴りかかった。

「ヤケになったか。ならば、こちらもアイロンパンチだ!」

 坂下さんの熱された右拳が顔にふれる寸前、僕の右拳に惣菜力を注入した。

「ただのパンチじゃない。唐揚げナックルだ!」

「なにぃ⁉」

 大きな唐揚げがボクシンググローブのようになって、アイロンパンチよりも早く坂下さんの顎に直撃した。
 審判が坂下さんの顔を覗き込み、両手をクロスさせる。

「勝った! 勝ったよ、母さん!」

 坂下さんが所持していた青い卵を審判から受けとり、僕の卵は三個となった。
 予期せぬ対決となったが、お陰で惣菜屋の『才』を活かすヒントを得ることができた。
「まずは、マイカラー卵を探さないと」 


 
 ゲーム開始から、二時間が過ぎた。
 アプリで卵の所持状況を確認したところ、現在の一位は藤堂で卵六個を所持していた。しかも、すでに藤堂はマイカラー卵を二個所持している。あとは、残り時間を見ながら卵を持っている参加者を狩っていくことだろう。幸いにも、僕のマイカラー卵はまだ誰も所持していない。
 参加者と遭遇しないように気をつけながら、翡翠色の卵に表示される矢印を頼りに移動していく。途中、何人かの参加者と目が合ったが、マイカラー卵をまだ見つけていないためか無駄な対決にならずにすんだ。
 翡翠色の卵の発光がだんだんと強くなる。もうすぐ、この近くだ。

「よりによって、ここに卵があるなんてなぁ」

 辿り着いた場所は、母さんの惣菜屋があるアーケード商店街だった。

「見つけた」

 古書店の本棚の隙間に、探していたもうひとつの翡翠色の卵が挟まっていた。これで後は時間までに、ほかの参加者と対決して卵を増やしていけばいい。

「なんだ、この蔓は⁉」

 気がつくと、僕の足に蔓のようなものが絡みついていた。解こうとしても頑丈でびくともしない。そして、触れてみて蔓のようなものの正体がわかった。

「これは、ゴボウだ」

 ゴボウに足を引っ張られて、古書店から通りへと乱暴に引きずりだされると、目の前に女性が立っていた。

「あははっ、なんてひどい顔なの。驚いたでしょ? ずっと君の後をつけていたんだよ。だって、卵を探させてから奪ったほうが効率いいじゃん?」

「あなたは、福田青果の……」

 その女性は、同じ商店街にある福田青果の三姉妹の長女だった。

「惣菜屋のコロッケ好きだけど、勝つのは私よ!」

 福田姉は両手でトマトを投げつけてきた。なんとか、ガードしながら耐え忍ぶ。辺りはモノクロのせいか血だまりのように潰れたトマトが散乱している。だが、ただのトマトだ。隙をついて……。

「ねぇ、普通のトマトとミニトマト、どっちが好き? 私はね、ギガトマトが大好き!」

「えっ?」

 頭上を見ると岩石大の巨大トマトが浮かんでいて、勢いをつけて落下してきた。
 しまった……。
 大量のトマトジュースにまみれ、意識が朦朧としている。

「どうして……こんなに……大きなトマトが……」

「私の『才』の成長促進強化よ。大きくなったからといって、味も変わらない最高品質のね。もう一発、落としたらおしまいね」

 再び、頭上にギガトマトが現れて、落下してきた。

「これで終わりよ!」

 母さんがサラダを作るために野菜を切っていた姿がふと思い浮かんだ。

「終わりじゃない、ここからだ!」

 僕は落下してきたギガトマトを受け止めると同時に、惣菜力を吹き込んだ。
 すると、ギガトマトは角切りになって威力が分散された。

「どうして、私のギガトマトが……何をしたの⁉」

「うちは惣菜屋だ。食材はうちで加工し調理するから、下拵えをさせてもらった」

 僕は立ち上がり、ポケットを叩きコロッケを取りだして齧りついた。

「僕の『才』はあなたの天敵だ」

 福田姉に向かって、僕は走っていった。

「なめんな、惣菜屋! ミックスベジタブル!」

 前方から同時にキングゴボウ、ナイトニンジン、クイーンオニオンが襲いかかってきた。

「その言葉、そのまま返すよ。惣菜屋、なめんな!」

 三つの野菜をカットし下拵えすると、巨大な野菜かき揚げを作り、福田姉をペシャンコにした。

「こんな……もやしに……負けるなんて」

 かき揚げをどかして審判が福田姉を確認すると、両手をクロスさせた。

「よしっ!」

 福田姉が所持していたストライプ柄の黄色い卵も合わせて、僕の卵は九個となり、ランキングの三位へと上昇した。
 去り際にポケットを叩き、福田姉の口にお詫びのコロッケを突っ込むと、僕は商店街を後にした。


 
 ゲーム終了まで、残り一時間を切った。
 三十名いた参加者も残り五名となっていた。
 藤堂は二二個の卵を所持して一位だった。僕もなんとか十四個で三位につけているが、優勝するためには藤堂との直接対決は避けられなかった。
 とはいえ、現在一位の藤堂も無理に対決はしないはずだ。
 参加者も少数となったゴーストタウンには人気を感じず、とても静まり返っている。

「藤堂! 出てこい! 勝ち逃げするつもりか! 惣菜屋が相手するぞ!」

 僕はいちかばちか藤堂を挑発するために、大声で叫んでみた。ほかの参加者にも聞こえてしまうが、もう時間も残っていない。
 気がつけば、スタート地点のホテルの前へとやってきた。

「すみませんが、街中での大声はご遠慮いただけますか?」

 タイミング悪く、巡回していた審判に注意されてしまった。そんなに細かいルールまであったとは知らなかった。

「すみません」

 僕が頭を下げた途端、下腹部に思いっきりパンチが命中した。審判の顔を見ると、にやりと笑みを浮かべて、蹴りの体勢に入っていた。なんとか、とんかつシールドで蹴りをガードすると、審判との距離をとった。

「ほぉ、コロッケだけじゃなかったんだなぁ、惣菜屋」

 審判が手で顔についた仮面を引きはがすと、藤堂の顔が現れた。声も変えていて、気がつくことができなかった。

「俺の母が、女優の藤堂志津加だと知らなかったか? どんな役にだってなりきる『才』を俺は受け継いでいるんだ」

「でも、演技だけだろ?」

 確かにすごい『才』ではあるが、惣菜力を手に入れた今の僕なら太刀打ちできるかもしれない。

「これが俺のすべてだと思っているなら甘いな。『才』は能力を掛け合わせることによって、その力が倍増する」

 藤堂が両手を前にだすと、何もない空間に突然、禍々しい刀身の刀が現れた。

「俺の父は、芸術家の藤堂佐一。どうだ、この刀のフォルム、ゾッとするほど美しいだろう? サムライになりきって、この刀で試し切りしようじゃないか」

 藤堂が刀を構えると、本物のサムライのような気迫に圧倒されそうになった。やばい、と思った次の瞬間には腹に激痛を感じた。

「峰打ちだ」

 斬られる前に作ったとんかつシールドは、見事なまでに食べやすいサイズにカットされてしまった。

「所詮は惣菜屋だな。まだ時間があるんだ、たっぷり演技の勉強をさせてもらうぜ」

 藤堂の役者の『才』と創造の『才』はすさまじかった。
 格闘技のリングを作っては、格闘家になって僕にパンチやキックを連打。
 スケートボードを作っては、プロスケーターになって技を決めながら僕に突撃。
 消防車を作っては、消防士になって僕に放水。
 スタンドマイクを作っては、早口でまくし立てた後に「なんでやねん!」と僕が吹っ飛ぶくらいのツッコミを入れた。
 藤堂は作品を作りだし、いくつもの役を一人で熱演しながら、気絶しない程度に僕にダメージを与えてきた。

「そろそろ、クランクアップといこうか。こっちは両親の『才』を受け継いでいるんだ。父親のいないお前は俺に勝てないんだよ、惣菜屋」

 母さんが惣菜屋で働く姿がぼんやりと浮かんだ。店の奥には父さんの写真が飾ってある。
 僕の父さんはミュージシャンだったらしい。そういえば、子守歌を歌ってくれた記憶が残っていたなぁ。

「イメージを縛るな。何したっていいんだ」

 どこからか聞こえてきた父さんの言葉が、折れそうだった心を奮い立たせてくれた。よろめきながらも、僕は力を振り絞って立ち上がる。

「まだ、諦めないか。根性だけは認めてやる、惣菜屋」

 藤堂はサムライのように刀を構えた。

「燃えてきたぞ、藤堂! これがお前への惣菜屋からのレクイエムだぁ!」

 僕は腹から声をだすと、巨大なクリームコロッケを作りだした。

「そんなに力強い声がでるなんて驚いたよ。けどな、所詮は惣菜の一つ覚え。お前はここで俺が廃棄にしてやるよ!」

 僕の懐を目がけて飛び込んでくる藤堂に、クリームコロッケを投げつけた。

「ただのコロッケだろ!」

 藤堂が刀でクリームコロッケを真っ二つにした瞬間だった。
 クリームコロッケの中に閉じ込められた大音量の歌声が炸裂した。小エビのフライで僕は耳栓をする。なんとか気を保とうとしている藤堂だったが、熱々のホワイトソースが覆いかぶさる。

「なかなか……うめぇじゃねぇか……お前んちの……コロッケ」

 藤堂が気を失い、その場に倒れて、ついに決着がついた。

「さぁ、ここでちょうど『卵探し』の時間が終了となりました! なんという劇的な幕切れなのでしょうか! 今年の『Beaster』優勝者は、歌うお惣菜屋さん‼」

 ラビット関本が声高らかに、僕の優勝を告げる。

「おめでとう。とても素晴らしく、オリジナリティに溢れる『才』でした」

 市長から優勝者に授与される金の卵を受けとり、僕はカメラに向かって手を振った。
 最後にクリームコロッケから聞こえたのは、父さんの歌声だった。
 ありがとう、父さん。
 やったよ、母さん。


「押さないで下さい! コロッケはまだたくさんありますから!」

 商店街の惣菜屋の店頭に立って、僕は叫んでいた。
『Beaster』効果は絶大で、惣菜屋には全国からたくさんの人が押し寄せて、行列までできている。

「また、いらして下さいねぇ」

 隣で接客する母さんもとても嬉しそうだ。

「ライブコロッケ、ひとつ下さい」

 お客さんの大半は、この新商品が目当てだった。
 母さんの作ったコロッケに僕の『才』で音楽を宿したものだ。
 ひと口食べるたびに、様々なアーティストの曲が体の内側で再生されるライブ感を味わうことができる。
 店の奥にある金の卵と、横に並ぶ父さんの写真に僕は手を合わせる。

 後に、父さんと同じくミュージシャンとなった僕は、藤堂が主演を務めた映画の主題歌を書き下ろすことになる。
 金の卵のご利益か、その曲がゴールドディスク大賞をとることになるのだが、それはもう少し先のお話。


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