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台湾の伝奇ミステリー『守娘』小峱峱

表紙の美麗さに、迷うことなく入手した台湾のコミック。水墨画のようで、ちゃんとマンガだけど、アーティスティックな線描写がとてもステキです。時代は清朝。日本でいうと、江戸時代。日本の植民地になる前のお話。

台南の杜家の娘・潔娘(ゲリョン)はやさしい兄に可愛がられて育ちました。当時としてはめずらしく、読み書きができて、纏足をしない。これだけ聞くと客家っぽいですが、周りの親戚はそれをよく思っていないのが少し謎。どういう家族&親戚設定なのか、日本語版だとイマイチわかりません。原作だとわかりそうだけど、それともそのあたりわざと現代風に曖昧なのか?

兄嫁や親戚が結婚を勧めるのに嫌気がさし、街へ出て歩くゲリョン。そんなある日、川辺で見つかった女性の遺体に儀式を行う女性霊媒師の繡娘(シウリョン)と出会います。それから、ゲリョンの近辺に続く不思議な出来事。突如現れた小さな手形や誘拐・人身売買。全て、女性が被害にあう事件ばかり。最近読んだ、中国ミステリーを思い出します。

謎の真相を突き止めようとするゲリョン。彼女を救いつつ、関わらないように事件から遠ざけようとするシウリョン。いろんな身分の女性が登場して、物語は少し(だいぶ)哀しいけれど、救いがあるミステリー。そして、シウリョンたちが行う儀式は台湾の伝統的なものらしく、要所、要所の詳しい解説がうれしいです。コミックスだけど、小説的な読み応え。

台南の陳守娘といえば、有名な「鬼」(=幽霊)だそうで、愛する人を失った後、義母と義妹に売られても貞操を守ろうとして殺されてしまった女性だとか。死後、とても強い幽霊となって、敵討ちをします。日本的にいうと、「神さま」っていいたくなるけど、死者はあくまで死者。だけど、昼間も出消えないし、ちゃんと足もある。『天官賜福』の三郎的な立ち位置と思えば、わかりやすいかも。

実際、リアル世界に不正があったとき、悪人をさばいてくれるよう東獄大帝に訴状を書くシーンがあって、「おお!菊地先生の本のとおりだ!!」とか、ちょっとテンション上がりました。占いの感じは今でも見れるものがあるし、迷信もどこかの本で読んだことがある感じ。マンガは圧倒的にわかりやすいです。

台湾は台湾で独特の風習もあるけれど、基本的には華南(とくに福建省)との関係が強いから、似たもの、違うもの、それぞれおもしろい。そして、今でこそ台北が台湾の文化や経済の中心ですが、かつては台南が文化の最先端でした。私はあまり詳しくないので、そのあたりもまた調べていきたいです。

タイトルにもある陳守娘は台南で有名で、強すぎて退治(成仏?)されそうになったけど、観音さまの加護を得て、孔子廟に位牌があるとのこと。以前は、道教知識がゼロだったので、何度も行った孔子廟でも、陳守娘のことは知りませんでした。台南は大好きなので、今度行ったら、ぜひ確認してみたいです。

こういうステキなコミックが翻訳で読めてうれしい。

こちらは中国語の電子版。タイトルフォントは、日本語版のほうが雰囲気があって好きです。原作が読める方はどうぞ。


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