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聖杯戦争候補作

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つのが某所に投下した亜種聖杯戦争の候補作。落選多数。 鯖や鱒はご自由にお使い下さい。
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#混沌聖杯

【聖杯戦争候補作】Walk Like an Egyptian

嘆くな、兄弟、我が片割れよ。 私と共にいることを望め。来世のことは後回しにせよ。 お前が葬られる時に、来世への願いは初めて叶うのだ。 その時には、私も降りていき、一つの家に共に住もう。 ―――『ある男とその魂との対話』 ○ 夜。空には、満月。 その少年は、森の中へ一人分け入って行く。 制服から、この冬木市に存在する「穂群原学園」の男子生徒と分かる。 ただ、上着の前を開け、中のシャツもボタンをいくつか開け、だらしなく着崩している。首元にはアクセサリー。耳を隠す程

【聖杯戦争候補作】Open Invitation

夕刻。 彼女が自分と世界の不自然さに気づき、記憶を取り戻したのは、薄暗い廃工場の倉庫だった。悪夢のような辛い記憶だ。取り戻さなかった方が、幸福だったに違いない。憂いに満ちた瞳から、はらはらと涙がこぼれ落ちる。 すらりとした美女。長い黒髪、白い肌、長い睫毛。妖艶で、儚げで、不穏な雰囲気を漂わせる。乱れた制服を整え、埃をはたく。赤い唇をかすかに歪め、彼女は呟く。 「ふふ。聖杯戦争。おのれの望みを叶えるために、殺し合え、やて」 聖杯。それを手にすれば、なんでも望みが叶う。他

【聖杯戦争候補作】NIMROD

主は降って来て、人の子らが建てた、塔のあるこれらの町を見て、言われた。「彼らは一つの民で、皆一つの言葉を話しているから、このようなことをし始めたのだ。これでは、彼らが何を企てても、妨げることはできない。我々は降って行って、直ちに彼らの言葉を混乱させ、互いの言葉が聞き分けられぬようにしてしまおう」主は彼らをそこから全地に散らされたので、彼らはこの町の建設をやめた。こういうわけで、この町の名はバベル(神の門)と呼ばれた。主がそこで全地の言葉を混乱(バラル)させ、また、主がそこから

【聖杯戦争候補作】合縁奇縁一期一会

「参ったなあ、こりゃあ…」 逢魔が時。彼の背後、闇の中から奇襲してきたのは、まさしく魔。 とっさに身を翻し、体術で攻撃をかわした。攻撃の瞬間まで、一切気配は感じなかった。連撃。被っていた笠が飛び、髪の毛が数本切断され、魔の影は再び闇の中へ身を潜めた。そして気配を消す。 彼の視力は、襲撃者の姿を捉えていた。 全身漆黒。眼球までも黒い、小柄で細身の影。手に持つ短刀には、おそらく毒。絵に描いたような暗殺者。これからもっと暗くなる。ならば、心眼を研ぎ澄ませるまで。彼は構えを取

【聖杯戦争候補作】この世全ての悪

宵闇の空に暗雲が垂れ込め、ぽつぽつと雨が降り出す。 雨は、地上に漂う瘴気に触れ、音もなく蒸発した。 立ち上る瘴気は暗雲を飲み込み、降り注ぐ雨を有毒の酸性雨に変えていく。 轟音とともに黒い稲妻が走り、落雷を受けた樹木が焼き尽くされる。 そこから得体の知れぬ蟲たちが生じ、這いずりながら闇の中へ消える。 路上に立つ少女は―――瘴気の源は―――肩を震わせ、嗤っている。 「ふふ……ふふふふ…………」 少女。そう、少女だ。外見上は。 小柄で黒髪、赤い瞳に褐色の肌。胸は豊か。露出