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聖杯戦争候補作

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つのが某所に投下した亜種聖杯戦争の候補作。落選多数。 鯖や鱒はご自由にお使い下さい。
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#京都聖杯

【聖杯戦争候補作】Glance of Mother Curse

ああ……。 今、目の前で、愛する人が殺されようとしている。 わたしの時と同じ。彼が愛する女性……の、ひとり……を人質にされ、手も足も出せず、敵の攻撃を受けている。わたしも敵に縛られ、手も足も……出ない。出せない。彼もそうだ。彼はそういう男だ。 「全世界と、ひとりの娘の命と、どっちが大切だと……」 「オレはその女のほうがいい」 「……狂ったか」 違う。彼はそういう男だ。わたしにそうであったように、彼女にもそうだ。そう言わないわけがない。わかっている。―――けれどやはり、心

【聖杯戦争候補作】Underworld Refuge

曇り空の朝。京都市内の、とある公園、のトイレ。 ボロボロの自転車に薄汚い大量の荷物が積まれ、地面にまで散らばっている。毛布、衣類、空き缶、空き瓶、カラの弁当箱、雑誌や本。近くにはダンボールとブルーシートで作られた、小さなねぐら。典型的なホームレスの棲家だ。 この町にも、ホームレスが多少はいる。大概の場合、市民は彼らを無視する。時にはお役所から「支援施設に入りなさい」とのお達しも来るが、入る者も入らぬ者もいる。 ねぐらには何枚かの毛布が敷かれ、男が一人くるまって、イビキを

【聖杯戦争候補作】Damaged Goods

午後の京都に、曇天から雪が舞い落ちる。 旧正月、春節は確か二月中頃。その頃には中国人観光客が溢れるだろう。年末年始の混雑も落ち着いた、ちょうどいい時期だ。 「こうしてゆったり日本国内を観光することって、そういや、あまりなかったなァ……」 京都市右京区、嵐山の渡月橋。観光客の一人として、その男はここを訪れていた。デジカメや携帯端末で、何枚もそれっぽい写真を撮り、次々とSNSにアップする。結構フォロワーも増えた。 「……ま、たまには休暇を愉しむか。戦争はもう始まってるけどね…

【聖杯戦争候補作】Manifest Destiny by Misfortune

○ コツ、コツ、コツ、コツ。 夜の京都。月の下、人気のない道を歩く影が一つ。 外套を羽織り、白い息を吐く。街灯の光を外れ、少し暗い場所へ踏み込む。 「!」 突然、その首が転げ落ち、血が噴き出す。悲鳴さえあげられぬ。瞬時に手足、胴体までも切断され、バラバラ死体が道に転がる。……顔を見れば、まだ若い女。 「あは、あはは。ダメでしょォ、女の子がこんな夜中に一人でうろついちゃァ。いくら日本の治安がいいからってさァ……」 笑いながら、ぬるりと暗闇から現れたのは……きわどいチャ

【聖杯戦争候補作】Neo-Yakuza for Sale

「なかなか風情があって、ええとこじゃのう」 夜。ネオンきらめく歓楽街の真ん中を、一人の酔漢が歩いていく。 年齢は二十代前半。中折れ帽にティアドロップサングラス、ダボシャツにダボズボン。腹巻きに雪駄履き。口には爪楊枝代わりのマッチ棒。黒髪の短髪にゲジゲジ眉毛。背丈はそれなり、筋骨もしっかりした男だが、その顔たるや兇悪そのもの。口から出るのは広島弁。三百六十度どこから見たって、昔の任侠映画から抜け出てきたような、完全なヤクザである。しかもチンピラや三下ではない。強烈な殺気が全身

【聖杯戦争候補作】Tyranny Within

誰かに呼ばれた気がして、町はずれの森を歩いた。 夜明け前の空は、まだ暗い。薄闇の中を歩いているうちに、洞窟の入口を見つけた。内部は暗く、奥は深い。……胸騒ぎがした。この洞窟は、あなたを招いている。 あなたは洞窟に足を踏み入れた。『螢火』の呪文を唱え、周囲を照らす。 ―――なぜあなたは、そんなことが出来るのか? ライターや懐中電灯ではなく、呪文を? 息を吸って吐くほど自然に、あなたはそれを行った。それを疑問に思った時……。 今、あなたは全てを思い出した。本当の人生、本当の

【聖杯戦争候補作】Satz-Batz Night By Night

その日、京都市内の全てのテレビ、モニタ、携帯端末に、なんらかの画像が表示された。記録に残らないほどの一刹那。けれど、それは何度も繰り返され、人々の潜在意識に微妙な影響を与えた。 ◆ これから、戦争が始まる。 大規模テロが起きる。 ミサイルが落ちる。 大勢の人が死ぬ。 鬼神や悪霊が徘徊する。 京都は地上の地獄と化す。 天変地異が発生する。 世界が終わる。 そんな噂がSNSに流れ、広がっていく。リツイートが増え、まとめサイトが取り上げる。大多数の人々は、苦笑とともに無視する

【聖杯戦争候補作】Hail to the Shade of Buddha-Speed

◎ ある日の穏やかな朝。猥雑な大都会に日が昇り、木造住宅が並ぶ下町も照らし出す。今日は、特別な日だ。 「おいっちに、さんし」「さんし」 『本日は・・・通常の放送番組を変更し、臨時政府・・・より、国民の皆様へ緊急声明の発表がございます』 「ミチコォ、早くしないと学校遅れちゃうわよォ」「靴下がかたっぽないのよ」「だから前の晩に」「あーんもう」 「こらァ御飯のときはテレビを消しなさい!」「あっ戦車だ」 『・・・・により外出は禁止されています。尚、国立及び市立、区立の医療機

【聖杯戦争候補作】Reboot,Raven

手の中にあるのは、血塗れの短刀。 自分の血だ。襲ってきた奴は即座に殺したが、不覚を取った。物盗りではなく、オレの命そのものを狙った、刺客だ。……そりゃあ、狙われもしようなァ。裏はあいつらで、あろうなァ。疑り深いことだ。ま、オレがいない方が、クニは治まるか……。 トリカブト、か……。これはたすからぬか……な。傍らに駆け寄ってきた猟犬たちに命じる。 「鳥はもういい、人を呼びにいけ!」 ふ……そうは行っても……この山の中に人はおらんか……。 小屋まで行けば、毒消しが、ある……