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【FGO EpLW 殷周革命】第十三節 悟空真実唯幻装

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ヴィシュヌの化身マハーカーラ対、羅刹と阿修羅の子メーガナーダ。特異点の障壁をもブチ破り、戦いの舞台は宇宙空間へ!

【この世界に二種類の万物創造あり。すなわちデーヴァ的なるものと、アスラ的なるものなり】

マハーカーラが虚空中に結跏趺坐し、印契を結び、真言を唱える。おのが力を強め、アスラの力を弱める霊的術法だ。

【アスラは言う。世界に真実なく、根底なく、主宰神なく、相互の関係に因りて生じぬものなし。万物の原因は欲望(カーマ)のみと。アスラはこの見解に依存す。己を失い、知恵乏しく、残酷をなし、有害にして、世界を滅ぼすために生まるるなり】

アーチャー・メーガナーダもまた、印契を結び、真言を唱える。だがマハーカーラの大音声に、打ち消されるばかりだ。

【アスラは満たし難い欲望に耽り、偽善と慢心と酩酊に満ち、迷妄のために誤れる見解に固執し、不浄の信条を抱く。アスラは死ぬまで続く思惑に耽り、欲望の享受に没頭し、これがすべてであると確信す。幾百の希望の罠に縛られ、欲望と怒りに没頭し、欲望を享受するために、不正な手段により富を蓄積せんと望む】

メーガナーダの魔力が、マハーカーラの真言により掻き消されていく。

【アスラは言う。我今日これを獲たり。我この願望を達成せん。この富は我が物なり。あの富もまた我が物とならん。我かの敵を倒せり。他の敵も倒さん。我は支配者なり。享受者なり。我は成功し、有力者にして、幸福なり。 我富みて高貴に生まれたり。他の誰か我に匹敵せんや。我は名のみの祭祀を行い、布施を行い、大いに楽しまん、と】

メーガナーダが魔力で形成していた巨体が、縮小する。彼の持つ鼎は一つ。マハーカーラは八つ。もとより、相手にならぬ。

【彼がかく言うは無知のためなり。我執、暴力、尊大、欲望、怒りを拠り所とす。妬み深くして、己と他者に宿る我を憎めり。―――欲望と、怒りと、貪欲と、この三つは自己を破滅させる、三種の地獄の門なり】

メーガナーダが反論する。これは、言霊による戦いだ。どちらの意志が、相手を構成する情報を書き換えるか!

「「「偽善者め! 欺瞞よ! 神がそれらの悪徳を、一つでも克服したか!!」」」

誰かが説いたものを真理として受け取る時、秘伝や呪文、神の啓示、伝聞や伝統、権威ある聖典だからとて鵜呑みにしてはならない。単なる論理、理屈、推理、見解、自分だけの見方に頼るな。説法者の姿形や肩書に誤魔化されてはならない。これは不善であり、不利益と苦を招くと自分自身で判断したならば、それを捨て去れ。―――――カーラーマ経

神と戦う時は、こちらの自我を堅固に保たねばならない。奴らが恐ろしいのは、単に力や魔力が強く、狡猾だからというだけではない。奴らの持つ「権能」。物理法則をおのが意のままに書き換え、神話に謳われる能力を振るう。それもある。

より恐ろしいのは、「信仰」の力だ。奴らは信者から意志の力を汲み上げ、運命や因果律に介入し、過去・現在・未来を自在に書き換える。現実を歪め、白を黒と言いくるめ、敗北を勝利と書き換え、信じ込ませる。おのが力を拡大解釈し、他の神々や悪魔、人類の能力や妄想を取り込む。奴らは己を信仰させることで、これらをやってのける。恐れること、敬うこと、存在を信じること、それだけで信仰とみなされてしまう。

逆に言えば、他者からの信仰なき神は「何も出来ない」。信仰が薄れた神は力を失い、悪魔や妖怪に堕落していく。神々の、宗教の争いは、詰まるところそれに尽きる。信仰の奪い合いだ。だから奴らは、知的生命体からの信仰を必死に求める。

【聞け、真理を知れ。メーガナーダよ。神々は人類が生み出ししものにあらず。次代の霊長として、人類を創造せしは神々なり。神は下りて人と成り、人のうちに宿りたり。人いずれ昇りて、再び神と成らん。ゆえに神は人を護るものなり。羅刹、阿修羅も、必要在りて存在す。害悪の集まりたる汝らを滅ぼすことによりて、神と人の害悪消滅す。而して汝らも救われん……】

奴の真言が魂を削る。知るか。聞く耳持たぬ。おれは神に挑み、神を打ち倒した者。インドラジットだ!

【さあ、滅び消えよ。汝の運命は最初から定まっていたのだ】

来る。マハーカーラの六つの腕が数千、数万、数億に増え、無数の武器を執って迫る。光の速さで!

「「「空(shunya)!!!」」」

全ては空だ。そうであると、相手と自己を定義する。定義を書き換える。信じ込ませる。世界をエゴで捻じ曲げ、屈服させる。マハーカーラの攻撃が、おれをすべてすり抜ける。これが、おれの空だ。

【なんと。『空』を悟りおるか】

「「「お前が自分の化身とぬかした、あの男の教えよ。今やおれは、変化無限、自由自在だ」」」

我らラークシャサ族の多くが滅ぼされ、遥かな時が過ぎた後――――我らの残存思念は怨霊となり、ランカー島を再び支配していた。そこに一人の男が現れ、我々に教えを説いた。苦しみと憎しみ、カルマの輪から解脱するための教えを。

体の中の、鼎が増える。一つが二つに、二つが四つに、四つが八つに増える。太極、両儀、四象、八卦。太極而無極、無極即道!
メーガナーダ、インドラジットの体が、再び巨大化する。マハーカーラと同じほどに。いや、さらに大きくなる!

【汝は、我が片割れ、大自在天(マヘーシュヴァラ)か……? ……否!】

「「「我は阿修羅の王、摩訶毘盧遮那(マハーヴァイローチャナ)なり」」」

黄金色に光り輝く、巨大なブッダ。大日如来、摩訶毘盧遮那仏だ。しかしヴィシュヌからすれば、所詮はアスラに過ぎない。

【我が化身、ヴァーマナによりて降伏されしマハーバリよ。我が信者プラフラーダの孫にして、ヴィローチャナの子よ。パーターラに還るがよい】

マハーカーラが印契を結ぶや、虚空に巨大な足が出現! マハーヴァイローチャナの脳天めがけて踏み降ろされる!

【『降三世大勢脚(Trailokya-Vijaya)』!!】

マハーヴァイローチャナは莞爾と微笑み、頭上を指差して無数の蛇を召喚! 蓮華のように広がり、足をふわりと包み込む!

「「「南無。『蛇王障蓮華(Vrtra-Padma)』」」」

巨大な足が消滅! 続いて、マハーカーラの背後から無数の小惑星が出現! 各々には星々を喰らい尽くす暗黒穴が口を開け、一斉に襲いかかる!

【『羅喉彗星拳(Rahu-Ketu)』!!】

だがマハーヴァイローチャナは右掌ですべて受け止め吸収! 左掌は、マハーカーラの足元に! そこから先程の小惑星群が出現!

「「「『五行転輪掌(Samsara-Chakra)』。どうした、マハーカーラよ、ヴィシュヌよ、ナーラーヤナよ。我が掌から抜け出してみよ!」」」

マハーカーラが、黙った。その沈黙が雷の如く轟き、宇宙の力場を塗り替え、侵蝕する! 小惑星群が爆発!

「「「これは『一黙如雷』……! 奴め! 既に『不二の法門』に入っておるか!!」」」

◇◇◇◇◇◇◆

「……おい、俺たちゃ一体、どうすりゃいいんだ。宇宙来ちまったぞ」
「キャスターの方を応援するしかないんじゃない? アーチャーが勝ったら、人類滅亡……」
ガルダの背で宇宙的戦闘を観戦しているマスター一行は狼狽えるばかりだ。何が起きているのかさっぱりだが、こんな途方もない戦いに介入できようか。

『…………00101001010ザザッ』

(?)
マスターの被っている水晶髑髏が、何かノイズを発した。シールダーだけがそれに反応する。
『…………よーく見てみな。これ全部、嘘っぱち。幻さ』
(!?)

シールダーが仰天する。この声は、この嗄れ声は!
(ウォッチャー!)
『はい、どーも。助けてやるぜ。見ろ、観ろ、真実の姿を!』

気がつくと、一行がいるのは夜明け前の地上。蚩尤を倒した戦場から一歩も動いていない。乗っているのはガルダではなく、鼎だ。数は一つ。目の前にはキャスター・チャーナキヤが、元通りの姿で空中に坐禅している。その向こうにいるアーチャーも。チャーナキヤの周囲の空中には七つの鼎。

『こいつらが操ってるのは、所詮は幻術。いかに相手を騙し、自分のペースに持ち込むか。それが奴らの手さ』
(……じゃあ、今なら、アーチャーを……)
『そううまく行くかね。ほれ、来るぜ010101101010101

「!」

シールダーが咄嗟に全方位シールド展開! 八つの鼎とキャスターごと全員を防御! 金属音! そして意外そうな声。
「ほう、どうしてわかった」
虚空から姿を現したのは、アーチャーだ! 幻に紛れ、矢を鞭剣として、不意打ちを仕掛けていた!
「さあ。これも幻ですか、アーチャーさん」
「いや、現実だ。小娘」
アーチャーが姿を消し、少し離れた場所に再出現。キャスターの前のアーチャーは動かない。どちらが本体か。あるいは、両方ともか。

「え」「!? まやかしか!」「……?!」
一拍遅れて、アサシンとセイバー、マスターも気がつき、振り返る。

「アスラは無神論者、唯物論者(チャールヴァーカ)でな。神だの創造主だのは信じぬ。精神活動は肉体、物質の繋がりから生じるに過ぎぬ。弱肉強食が世の理。生者は現世で快楽を享受すればよく、死後の生存はない。神や祭儀や宗教や倫理道徳は、祭司(ブラーフマナ)どもの方便。社会の秩序を保ち、効率よく富と快楽を吸い上げ、享受するためには必要だ。おれはそれを利用するだけ……」

喋りながらアーチャーが弓と矢を構える。弓は双角槍となり、矢は多尾鞭剣となる。顔は青褪め、蹌踉めいている。キャスターは動かない。動けない。全身全霊でアーチャーの幻力・魔力を、ギリギリまで抑え込んでいるのだ。

アーチャーの体内にある鼎は一つ。一同の足元に一つ。これを含め、八つはキャスターが抑えた。それは事実。しかし鼎はあちらに引っ張られつつもある。素の魔力が、神をも超えた羅刹と、人間あがりのキャスターでは桁が違うのだ。

ここにいるアーチャーは本物だが、相当に弱体化している。ならばセイバー、アサシン、シールダーが、ここでアーチャーを倒さねばならない!

「おれの矢を見ろ。所詮は火矢だ。お前はどこにいる? カリ・ユガがいつから始まったか知っているか? 凶暴なアーリヤ人が来てからだ。奴らは傭兵や遊牧民として来たが、次第に増長した。ここはどこだ? 我らを殺し、犯し、財物と住処を奪い、森を焼き、奴隷として虐げた」

アーチャーは饒舌に喋りつつ、兇悪に嗤う。これも言霊、相手を惑わす術。嘘と真、蜜と毒を混ぜて語り、騙り謀る魔魅の法術。

まことに古代のチーナスターナか? だから、我が父はジャナカの娘を奪ってやった。お前は何者だ? おれはそやつの夫の前で、そやつを殺してくれたわ。まことに英霊か? 幻ではなかったぞ。まことにな。そう信じ込まされているだけではないのか? おれは奴らを蛇多き森に誘い込み、記憶に嘘はないか? 夜襲をかけ、我らと敵対する部族ごと、疑ってみよ、疑わねば、お前は永遠にブッダの掌の上だぞ。そやつらを焼き滅ぼし……」

英霊とは、人々の信仰と妄想が生み出したもの。その幻想の根底を揺るがす。全ては虚幻、実体などない。そう信じ込ませる。これが幻実。現術(ゲン・ジツ)だ。術中にハマれば、自我が危うくなる。ほら、シールダーの形がゆらぎ、白い雲のようになってきた。

「黙れい!」

セイバーが剣を投げつける! アーチャーはまともに受けるが、雲のようにすり抜け、陽炎のように消え去る! 四方八方に再出現!

「どうした。おれはここだぞ!」「お前の敵はおれではない! おれを倒してなんとする!」「おれはここだ!」「バカめ、こっちを見よ!」「おれは問いかけるだけだ。真実を解き明かさねばならぬのは、お前自身だ……」「すべてを疑え!何も信じるな!」「真実など何一つない!」

四方八方から多数のアーチャーの雷速斬撃!シールダーが防ぐ!防ぐ!防ぐ!防ぐ!防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ! 防ぎきれず、キャスター以外の全員に裂傷! 毒が回る! アサシンの右肘から先が斬り飛ばされ、セイバーとシールダーの肩にも深手!

「ぐッう……! 鼎の霊力は、キャスターに任せちまってる……回復が、間に合わない……!」
「ええいべらべらと、掴みどころのないウナギめが! うぐぐ……」
「……このままでは……」
「俺だけは生き残る、俺だけは生き残る、俺だけは生き残る……」
マスターはエピメテウスごと頭を抱え、鼎の底にしゃがみこんで必死に祈る! もうダメだ! その時!


「マシュ」


「……先輩」

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