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「ワン・オブ・ザ・コープス」#3

【承前】

「やあ俺。元気?」「元気さ俺。今から死ぬぜ」

!BLAMALB!重なり合う二発の銃声。一方の頭が砕け、一方は無事。俺は生き延びた。「フー……これで、32体目か」『精神的にどうだい、ジョイ』「どうってこたないさ、ドクター。いつもと同じ」

不毛、無限、虚無の暗黒。なんとでも言え。俺はただ、殺して生き残り、武器を拾い、前に進み続けるだけだ。死んでも死なない。いくつものノウハウやアイテムを持ち帰り、リスポンできる。ゲームだ。これはゲームだ。

「アブロコマス」のクローン兵再生技術は、奥に進むほどカイゼンされており、俺のクローンがわんさか出て来た。そりゃそうだ。こいつのはらわたに飛び込んできた害虫の中じゃ、俺が一番強いだろうしな。誇らしい気分だ。

「ドクター。そっちは無事か」『気楽で安心さ。マティウス社が監視してくれてるからね』「それならいい。おまえがやられたら、俺は蘇生できないからな。永遠に生きてろ、くそったれ」

Budda Budda Budda!Budda Budda Budda!Budda Budda Budda!

鉄の雨が死体を踊らせる。物陰から、俺たちが湧いてきた。甲殻類みたいなハサミをもつ重武装機械兵も。チップ入りの擲弾を投げる。「よし、チップを撒いた。数を教えろ」『機関銃持ちのクローンが一ダース。機械兵は……あーこりゃ「セルケト」のコピー品だな……一体。そこにいるのはそれだけだ』「了解。思い出した。知った相手だ」

そう、飽きるほど殺した。記憶がある。無数の俺が、無数の『セルケト』を殺して、殺された。俺の仇だ。どの俺だったか忘れたが。俺の死体から奪った機関銃を向けて、正確に射撃する。『セルケト』の脚の継ぎ目へ。Budda Budda Budda!

ギギギギギ!」聞き慣れた断末魔。転倒したクズ鉄が俺を数体押し潰す。血飛沫。飛び散る肉片と内臓。あれであの床は滑る。俺は壁、天井、床を縦横無尽に駆け抜け、一ダース足らずの俺を踊るように皆殺しにする。

俺は一人だ。世界に俺はただ一人。何ダース俺がいようとだ。戦って、撃って、殺している時、俺は生の充実を感じる。俺は生きている。俺は生きて、俺を殺している。いいぞ、進め!Budda Budda Budda!

「ああ……ついに。待っていたよ!」

最後の扉の向こうには、白衣の髭面男が一人。武装はない。ここのスタッフか。そいつは両腕を広げた。摩耗した全ての感情が、いっぺんに戻って来た表情だ。両眼から大量の涙が溢れ出し、涎と鼻水と尿も漏らした。

「ああああ、有難う。愛している。感謝してもしきれない。君は私の救い主だ。アブロコマスが出来て数十年、やっと来てくれた。助けてくれ!」

背後で扉が閉まる。ここは中枢の最奥部だ。クローンや機械兵は入って来ない。銃口を男へ向け、通信を開く。「ドクター。こいつが例の『アブロコマス』か」

『そうだ。Dr.アブロコマス。この施設を作った張本人だ。彼がいるから、核も生物化学兵器も使えなかった。生きているとはマティウス社から聞いていたが、狂ってて話にならないな。繰り返す、殺すな。生かして連れ帰れ』

ドクターの音声を聞いて、もうひとりのドクター…Dr.アブロコマスは首を振った。「いやだ、殺してくれ。この施設を止めてくれ。私は生き飽きた。この施設は私。私がこの施設なんだ。この施設は私を死なせてくれないんだ。永遠に」「そうか。俺はまだ生きたいな。永遠に」

Budda! 銃弾が狂人の頭を貫き、血と脳漿を撒き散らす。だがワイヤーのようなものが傷口から溢れ出し、瞬時に繕った。男は生きている。激痛を堪えた、不本意な様子で。俺は鼻を鳴らした。ドクターは何も言わない。

「便利だな。どうやってあんたを殺せばいい」「わ、私を外へ連れ出して、解析してくれ。この施設を止める方法が、私が死ぬ方法が、あるはずなんだ。絶対に!」無言で、ドクターの返事を待つ。ため息が聞こえた。

『そういうことだ。物理的には無理だが、電子的に彼のデータをこっちへ送信してくれ。僕や君を、彼のようにはしない。彼のようにならないために、データが必要なんだ。無限に再生し続け、施設に囚われないように』

「わかったよ。ただ……そううまく行けばいいが」

ZZZZZZMMMMM……地響きと共に壁や床や天井が脈打ち、波打つ。無数のワイヤーが、肉が、ガラスが、金属が、骨が、皮膚が湧き上がり、彼を飲み込んでいく。「ああ、わあ、あああああ!」無意味な叫びが飲み込まれる。巨大な『アブロコマス』そのものが、俺の前に立ちはだかる。

「こいつがラスト・エネミーだな」『ああ。対処してくれ』

全方向から機銃。砲弾。光線。電光。ありとあらゆる攻撃。ここに来るまで全て学習させてもらった。ありがとよ。避ける、避ける、避ける。左腕が肩から消し飛んだが、必要な犠牲だ。数秒持てばいい。

東オーストラリアを所有する、総合企業マティウス社。企業軍を多く抱えてはいるが、割とケチだ。俺とドクターのような傭兵を突っ込ませて、安上がりにしようとする。もちろんドクターが技術と俺を売り込んでのことで、俺は文句を言える立場じゃない。法的にはドクターの所有物だ。

だが、攻略のための情報と武器ははずんでくれた。『電解砲弾』。英語でなんて言うのか知らんが、要は電子機器を解体するための砲弾だ。一発だけ。
これだけで、俺を一ダース作っておつりがくる。最後の部屋に入る前、特別に電送された武器。俺はこのために来た。死を配達しに。右腕にセット。

GAOWN!!

生体コア、Dr.アブロコマスを避けて、機械コアを狙う。命中。砲弾は獰猛に増殖し、電子機器を食害していく。一種のウイルスだ。俺は死ぬが、アブロコマスは斃せる。生体コアへ飛び込み、額に掌を当てて強制電送する。

「Dr.アブロコマス。俺はジョイだ。よかったな。あんたは死ねるぞ」

「ありがとう、ジョイ。君も幸福に死ねますように!」

歓喜の涙を流す彼に、俺は笑って引導を渡す。全ての攻撃が俺に集中した。

ガゴン、プシュー……。新しい俺が目覚める。目の前には上機嫌なドクターと、マティウス社の無表情なエージェント数名。

「おはよう、ジョイ。お疲れ様。ミッションは成功だ!」「ああ、良かったぜ。アブロコマスは?」「解析中だ。人間部分は死ねそうだよ」「そうか。あいつの生きたデータを、ちゃんと活かしてくれよ」「もちろんさ。マティウス社にも損はさせない。必要なデータはちゃんと回収したし……」

エージェントにデータと報告書その他を提出し、ひとまずお帰り願う。アブロコマスの残存部分は産業鉱山として有効活用されるだろう。政治的取引とかなんとか、面倒なことはドクターに丸投げだ。俺は道具に過ぎない。

ああ、俺は今日も生きている。生きてりゃなんとかなるもんさ。

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