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夾竹桃

先生、もうずっと視界が藍色なんです、先生。

あ、いや、灰色じゃないんです、あの清々しいような寂しい鼠の色でなくて、藍です、藍。あの海のいっとう深い場所のような、愛みたいな重苦しさを讃えた、禍々しい青です。
藍色なんですよ。

そいでね、先生、今日僕は、あの木枠の窓越しに見える緑のその向こうの、夾竹桃の根元に、僕を置いてきたんですよ。そうそう、あの寂しい道の脇にあるあの夾竹桃の木です。
夕闇のカーテンの向こうに隠しておくべきだった僕を、あの気の早い夾竹桃が、もう花なんて咲かせているもんだから、つい置いてきてしまったんですよ。しまったなあ。

そうそう、今日聞こうと思ってたのがあれです。あれ。

キスと血はどうして同じ味がするんでしょうね、先生。どうして、言葉は拳銃と同じ形をしているんでしょうか、先生。
わからないって、先生、あんたたった今、その銃口を俺に向けたじゃあないか。わからないなんて、なんて無責任な凶器の扱いをするんだ、あんたは。
銃口を向けるならその責任を負うべきだろう、先生。

そんなことよりね、先生。僕はもう藍色なんて見たくないんですよ。目蓋の裏に猫がいてね、目蓋を閉じるとそこを引っ掻くもんだから、目を開けているしかないんだけれどもね、先生。
もう見たくないんです。藍色なんてもう沢山なんですよ。何とかしてください、先生。

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