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アルコール漬けの細胞

カーテンの様に垂れ下がる、重い夏の湿度を掻き分けて、玄関の戸を開ける。
すると解放されたかの様に、体内をアルコールで飽和させた人間特有の臭いが鼻をつく。

湿度で程よく青い空気に、沈澱する様な重い白が、ゆっくり斑らを作る。どろりとした、重い白を辿れば、アルコール漬けの細胞達に簡単に辿り着けるような強い臭いで目眩がした。

その場の空気を吸い込むだけで、酩酊しそうな臭い達が肺を出入りすると、不意に先程すれ違った、救急車と消防車の目まぐるしい赤いランプが、瞼の裏を通過していく。

体液の殆どを、アルコールにすげ替えた人間は、きちんと腐る事が出来ないんじゃないかと夢想する。

瓶詰めの、エタノール漬けの動物達みたいに。
魂そのものが抜け落ちても、アルコールとの巡りの中で、土への巡りからズレた場所で存在し続けるんじゃないかとすら思う。

この世の終わりまで、アルコール漬けの細胞達は何もかもを見尽くす様に、唯、そこにあり続けるとしたら、いつか見られるこの世の果てを、こっそりと誰にも聞こえない様に耳打ちして教えて欲しい。

この世の誰にも秘密にするから、終わりの場面を、ただ知りたい。

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