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毛皮を纏う液体

世界が巨大な冷凍庫に様変わりしてしまった。
入れ小細工の様に、小さなシェルターの様に、この家の、この一室だけが明るく快適な温度を保っている。

外の世界は人間に辟易としてしまったのかもしれないな、とも思う。

表皮の痛む様な鋭い寒さで、外の人達は大変な事になっているらしい、と液晶の中の顔のないニュースキャスターが話していた。

あまり広くはない部屋の、さらに片隅で、出来る限り、体を縮めて呼吸をする。世界に見つからないように、世界に凍えないように。同じように体を縮めた白い猫と並んで、世界からの隠れんぼをする。

白い毛並みとシトリンの目、薄紅の鼻と耳を持った猫は此方に少し話しかけては、微睡むことを繰り返す。

形の良い小さな頭骨の中には、私の手の中の鬱陶しい液晶の中の、緻密に組み上げられた基盤より、遥かに良い何かが大切に仕舞われているのだろう。

たまの気まぐれで、膝の上に寝床を移し、ゆっくり私に溶け込んでは、シトリンの目で此方を見上げ、柔らかな毛並みを保ったそのままで、膝に溶け込んだ柔らかな身体と、思考で、同じ夢を見ようと柔らかな電気信号で伝えてくる。
 
氷漬けの世界の終わりを、描いた作家は誰だったと思い出そうとしていた脳を止め、猫の誘いに乗ることにした。
起きたら世界が凍っていても、優しい夢を見られるだろう。

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