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"ソルティドッグとオムライス"

「わたしと結婚するらしいですよw」

古い木製のドアを開くと開口一番に
これだ。

「はい?」

少々飲み足りなかったわたしは
家の近くで足しげく通った
馴染みのバーがあった。

そこで働く女の子から変なプロポーズを
されたところだった。

左の端に座る見慣れぬ男性も
馴染みの客のようだった。
その客が言葉足らずな言動に
付け加えるかのように言った。

「いやぁこの子がさ、早く結婚したいっていうから
次に入ってくる客にしたら?ってアドバイスしてた
ところなのよ。」

甚だ迷惑な話ではあったが
わたしも酔っていたこともあり
酔狂に付き合ってみた。
「店員さんの作るごはん美味しいから
ありやね~」

なんて言いながら手慣れた手つきで
差し出してくれたのは "いつもの" やつだった。
ソルティドッグだ。

この子が作るソルティドッグとオムライスが
絶品なのだ。
ソルティドッグはマスター直伝の技らしく、
オムライスはオリジナルとのことだった。

ゴロゴロも入ったベジタブル野菜と
絶妙なケチャップ加減がとても美味しい。
店を開けてその子がいないときは
帰ってしまうほどにソルティドッグと
オムライスが絶品なのだ。

秋冬限定メニューのおでんも
最高に美味しい。
バーということを忘れてしまうほどに
中まで味が染み込んだ大根。
しっかり臭みを抜いたこんにゃく。
トロットロに煮込まれたスジ。

細かく丁寧な仕事に好感が持てた。
勝手な想像だがこれほどまでの
料理が家で食べられのならば…
プライベートでも良い子なのでは?
そんなずいぶんポジティブな思考へと
シフトさせてしまう程だった。

まさに胃袋をまんまと掴まれた。

特にお付き合いということは
なかったが週に何度も通うことになったが
ある日突然お店を閉めてしまうという
悲報を受けた。

それ以来、あの味を越える
ソルティドッグとオムライス
そしておでんには出会えていない。

また食べたい。

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