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「日本はいずれなくなるだろう」

 「当たり前のことを言うようだが、出生率が死亡率を上回るように何かが変わらない限り、日本はいずれ消滅するだろう。これは世界にとって大きな損失である。」
 これは2022年5月8日にテスラCEOのイーロン・マスク氏が旧Twitter(現X)に投稿した発言です。

 今では日本という国の代名詞ともなったこの超少子高齢化は、日本の社会課題のみならず、世界経済界の超大物であるマスク氏も心配する世界全体のリスクにまで成長してしまいました。
 この超少子高齢化はそもそも何故生じてしまったのでしょうか。

 実はこの少子高齢化の原因は私たちが今おこなっている「自己投資」にあるのかもしれません。

 このことついて有名な経済学者ヨーゼフ・シュンペーターが面白い考察を加えているので紹介します。

 シュンペーターの理論の特徴は何と言っても「イノベーション」です。経済はイノベーションによって発展するものであり、そのイノベーションを起こすのは企業家です。
 そしてイノベーションの担い手である企業家のスピリットは頭が切れること(「冷静な計算」)ではなく、いわばワンピースのルフィのような好奇心と衝動だといいます。別の大経済学者であるジョン・メイナード・ケインズはその企業家精神を「アニマルスピリッツ」と表しました。

 しかしシュンペーター曰く、この企業家は経済発展とともに「自らの効用の最大化を目指す」ようになり、自らの効用つまり「個人の効用」の最大化を目指す傾向は「子どもを産み育てるコストを冷静に計算し始める」。そしてその計算機が回り始めた途端、少子化が始まるというのです。

 ルフィがひと繋ぎの財宝ワンピースを目指す海賊王になる夢を忘れ、最大の乗組員数や海軍と渡り合える戦闘力、海賊界隈で幅を利かせられる権力を持つ(別の形の)海賊王を目指したとき、イノベーションは世界から消失し、海賊に憧れ夢を見る子どもたちはいなくなるということです。

 さて「個人の効用の最大化を目指す」ことが少子化を生むということですが、この「個人の効用の最大化」、どこかピンときませんか?
 そうです。まさに現代の日本社会の、特にビジネスパーソンたちはみんなこの「個人の効用の最大化」を目指しているのではないでしょうか。

 どこを見渡してみても自己研鑽や自己投資に関してのサービスや商材、書籍などに溢れています。
 これらはすべて自分自身の能力や才能(効用)を最大限まで高めよう!ということであり、つまり「個人の効用の最大化」であるといえます。

 僕は自己研鑽や自己投資は悪いことだと思いません。むしろ良いことだとも思います。自分の可能性を信じることだし、努力をすることだし、向上心があることだからです。
 しかし、それらの可能性・努力・向上心が僕達の視野を「未来」や「他者」から「現在」の「自分」に狭めているのかもしれません。
 内・今・己に。

 また、この「内・今・己」の視野は超少子高齢化という社会福祉の問題だけでなく、環境問題にも繋がっているかもしれません。「未来」や「他者」が視野から外れてしまっているからです。

 またシュンペーターの言を採用するなら、「将来の自分のために今○○しておく方がいい」という「冷静な計算」のもとに行われている自己研鑽や自己投資は、悲しいことにイノベーションを生みません。

 イノベーションを生むのはアニマルスピリッツ。
 ワクワクする心。
 むしろイノベーションを起こさずにはいられない衝動。
 陶酔にも似た心持ち。です。

 視野を「内・今・己」から解き放ち、「未来」や「他者」に広げ、「しなければならない」「した方がいい」から「したい」「せずにはいられない」という心の衝動に身を任すことの方が、実はいちばん自己投資・自己研鑽に繋がるのかもしれませんね。

<参考文献>

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