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大人への階段~ごめんね~

妊娠が発覚してあたしはどうしたらよいのか混乱していた。

そう。混乱……。
自分の身体は妊娠が可能な女性になっているんだし、中村くんだって立派な男性なんだから、そういうことをしたら妊娠の可能性があるのはわかってた。
頭ではちゃんと理解してたのに、それはどこかドラマの話であって、まさか自分の身におきるなんて考えてもなかったのだ。

あたしのこのお腹に赤ちゃんがいる……?
妊娠検査薬ではちゃんと陽性が出ていたし、あと9か月もすればおぎゃーと生まれてくる命が確かにあるんだろうけど、その時のあたしはまだ何の変化もなかったから信じられなかった。

否定をしたいというわけではない。
でも、中絶をしなかったらこのまま育つことになってどんどん大きくなるだろうし、中絶をするとしてもどうすればいいのか。

鬼の形相の母になんて相談できなかった。
中村くんとの恋愛だけでもいやな顔をする母に、どう話せばいいのか。話してあたしも中村くんも果たして無事でいられるのか。

そんな時、下の姉が下宿先から帰ってきた。
一生懸命バイトをして友達とルームシェアしていて頼りになる姉だった。

その夜、姉はあたしの部屋に来た。
あたしの様子を見るなり
「どうした?しんどそうな顔して。妊娠でもしたか?」
と冗談で言ったのだが、あたしがうつむくと
「え?ほんまに??」と驚いた。

母にはとても言えないが姉なら聞いてくれると思い、あたしはすがるように
「どうしよう。」とつぶやいた。

「お姉ちゃんがどうにかしてあげるから、お母さんには黙っとくんやで」

すぐに冬休みになるからデートと言って姉の下宿先へと日帰りでくること。
もちろん行き先は黙っておくこと。
そしてその日に診察を受ける。
手術の日が決まったら姉のところへ泊りに行くと言って出てくる。
手術を受けてその日は姉のところに泊めてもらう。

手術代は姉が出しておくから二人で半分づつ返していくということが決まった。中村くんもそれでいいと言った。

だけど、この話が決まったころからあたしはつわりを感じるようになってきた。気持ち悪くて吐くこともあった。

そのたびにあかちゃんが「ここにいるよ」と言っているようであたしはとてもつらかった。
この子は今、あたしのお腹の中でしか生きられない。
ここから掻き出されたら死んじゃう。
そんなことしてもいいの?
あたしも一緒に死にたい……。

さらに母性というものが湧いてきたのか、産みたいという気持ちも出てきた。そんなことできるわけないのに、中村くんと二人どこかへ行ってしまって家族三人で頑張って生きたい。この子を守りたい!

死にたくなったり逃げたくなったり、毎日コロコロと気持ちは揺れ動いた。
だけど結局あたしはその日を迎えた。

手術の日。
未成年のあたしを親に内緒で姉のサインだけで手術をしてくれるような産婦人科であたしはこの子とお別れをした。
麻酔がほとんどきかなくて、本当にとても痛い手術だった。
ずっと朦朧としながら痛いと叫んでいるあたしの声を聞きながら、中村くんはすごく申し訳ないことをしたと思ったらしい。

避妊をしなかった中村くん。それを受け入れたあたし。

二人の罪は同じなのに、痛い思いをしたのはあたしだけだと、その当時あたしは中村くんを許せないと思ってしまった。

手術からの帰り道、子宮がうずくのをがまんして歩きながらあたしは声をころして泣いた。涙がとまらない。
そして、手をつないでくれている中村くんに「別れたい」と言った。

もうこんな思いをするのはいやだ……。





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