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Netflixドラマ『The OA』は観るタイプの信仰だった

突然ですが、映画、ドラマ、アニメなどの鑑賞が好きな方は、観る前にある程度「こんなジャンルの作品だろうなぁ」って前提を置いて鑑賞すること、ありませんか。例えば「ああ、タイムリープものね」とか「最近流行の不倫モノだぁ」とか「SNS×ホラーか!時代を感じるぜ」とか。私は鑑賞前にあらすじを読んだり前評判を聞いたりして、なんとなくそういうアテをつけて観るクセがついちゃってます。

でもそればかりやっていると観るジャンルに偏りが出てくるので、ときどき「よくわからんし知らんけど」と、まったく前提を置かないまま見始めることがあります。今回紹介する『The OA』もそうでした。 そして私は、観て初めてこの作品のすごさをかみしめることとなりました。

ジャンルの型なんて要らない作品だった

鑑賞しはじめて、じわじわと「あれ?」という違和感がふくらみました。1話で想像したジャンルは「こぢんまりした田舎を舞台にした不穏かつ陰気なスリリングもの」だったのですが、2話で「ん?違うな、ファンタジー要素も織り交ぜたジュブナイルの変化球……?」と首をかしげ、それにしては全体の構成のバランスが……とかいろいろとモヤモヤしていき、3話に入ってからはジャンル予想などそもそも不可能な作品なのかもしれない、と気付き始めました。

『The OA』のPart1(一般的な作品で言うところのシーズン1)は「ある語り手が聞き手に対して語る過去」が大半を占めていて、ときどき彼らの現在も織り交ぜて描くような構成になっているのですが、観ているうちに、いつの間にか視聴者はこの「聞き手」の立場になっていきます。そして、「この信じられないような過去の話って真実なの?」という疑問が「これは真実だ、いや私は信じる、信じたい」という願いに変わっていく心の動きを、作中の「聞き手」とシンクロしながら体験することになるんです。

どんなジャンルであれ、ふつう視聴者は作品を「フィクションだ」という前提で鑑賞しますよね。だからそれが「真実かそうじゃないか」とかそもそも考えないというか、「嘘を楽しもう」というスタンスで鑑賞を始めるはずです。だけど『The OA』は、作中に「聞き手」という存在がいて、彼らがはじめは信じていなかった話を少しずつ信じていく過程を追体験することで、このドラマの大半を占める物語が「真実なのでは」と思い始める。すごく変な感覚なのですが、作品は明らかなフィクションなのに「信じる」んです。

この体験こそがドラマの肝になっているんだということを、鈍い私は後半になってようやく理解し始めました。そもそもこの作品、私が想像していたジャンルの型なんてどうでもよくて、視聴者に「信じること」を体験させるために作られているんだ……と。え、そんな作品、あるのかよ……。あとからじわじわとその衝撃が心に響いていきました。

ラストシーンがしゅごい

「信じること」について視聴者に伝えるためには、どうしたらいいか。私は凡人なので「君をこころから信じるよ」的なセリフを登場人物に言わせるくらいしか思いつきません。というか、そもそも「信じること」ってテーマの扱いが難しくて、「愛」とか「友情」とかよりももっと核に近いというか。「信じること」自体をテーマにしてどう伝えるかって、なかなかパッとは想像できません。

でも、この『The OA』Part1のラストシーンは……いやもう、「信じること」を映像で伝えるとしたらこれしかないだろうっていうくらいの、ホームランをぶちかましてきます。「信じる」なんて誰ひとりセリフで言いませんが、そこには「信じる」がすべて凝縮されています。すげえ。なんだこのラストシーン。そこまでずっと「この物語、どういう終わり方すんだよ……」ってモヤモヤしながら観てきた視聴者の不安がすべて払拭されるというか、一気に光が見えるというか。

私、今までの人生で宗教を信じたことないのですが、この『The OA』で感じた感覚、「たぶんこれが信仰なのでは?」と思えました。観るタイプの信仰。無宗教の人間でも感覚的に信仰がわかるドラマ。しゅごい。

『イカゲーム』とか『今際の国のアリス』とか、NetFlixオリジナルで大ヒットしたタイトルに共通する「絶対に視聴者を離脱させねぇぞ」という気概を感じるテクニカルで強烈な展開は一切ありませんが、それでも『The OA』は最後まで観る価値あり、とお伝えしたいです。

Part2の展開でこれまた震える

そして『The OA』にはPart2があります。これがですね……Part1の苦行(って言って申し訳ないけど)を乗り越えて信仰心を貫いた視聴者だけが感じられる、またPart1とは異なる面白さが待ち受けています。正直Part1ではいろいろ伏線が回収できていないというか、「え、あれ結局どうなったん」みたいな疑問が残るのですが、そこらへんがPart2では割とちゃんと回収されていきます。“完全に”ではなく”割とちゃんと”と表現したのは、たぶん作者側が伏線回収をそれほど重視していないんだろうなぁ、と想像する程度には雑な回収の仕方だからです(笑)。

でもね、そんなんどうでも良いんですよ。Part2でもまた、引き続き「信じる」という主テーマは扱いつつも、今度はその信じる理由だとか、信じる=人間の意志という子テーマの掘り起こしだとかをしていきます。

それとはまた別として、Part2では視聴者がわかりやすく味わえる「恋愛」や「謎解き」などの要素も取り入れてくれてるし、タイムリープものとか死に戻りものとかが好きな人に刺さりそうなギミックもふんだんに絡んできます。たぶん『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(通称エブエブ)』とかと考え方が似てるんじゃないかなぁ……。

Part1は『The OA』で伝えたいテーマの根幹を説明する機能を果たす、「めちゃくちゃ長い序章でした」ということなんでしょう。そしてPart2ではようやく「その序章を受けて本編がスタートしました」という印象を受けます。だからPart1でいまいちだと感じた人も、Part2では楽しめるかもしれません。私はめちゃくちゃ楽しみました。Part1を完走してよかった、と心から思いました。

でも打ち切りなんだ……

ここまで熱く語っておいて非常に残念なお報せがあります。『The OA』は2019年に公開されたPart2で打ち切りになってしまったようです。Part2はPart3への期待がめちゃくちゃ高まる終わり方をするのに、続編がいまだに作られないまま2024年を迎えています。その2024年に遅ればせながら『The OA』をほぼ徹夜で一気見し、続編が出ていないことを知った私の絶望、想像してください……。まじでほんと……完結させてくれよおおぉぉぉぉ!!

打ち切りになった事実を受け止めがたくて、続編が出ないのかインターネットで検索していたところ、下記の記事を見つけました。

要約すると、私と同じように『The OA』の沼にハマってしまった人たちが、「続編を作ってくれ!」と声をあげ、作品に結びつく形の活動をしていたそうです。

これはその様子がわかる、ファンによるフラッシュモブを撮影した動画。作品を観た人ならわかることなのですが、もうこれこそ作品を飛び出して視聴者の心のなかに深く刺さった信仰心のあらわれとしか言いようがないものです。

『The OA』って観た人の価値観をごそっと変えちゃう力があるし、行動に至るまでのエネルギーを生み出しちゃう作品なんです。私もリアタイしてたら、この活動に参加していたかもしれない。

私は希望を捨てません。NetFlixは打ち切りに対して優しいプラットフォームだという話を聞いております。人気がなければ即打ち切りとなる米国ドラマ業界で打ち切りとなってしまった作品に、予算をつけて再始動させた実績もある、と聞いております。ならば。ならば『The OA』もまだPart3の可能性はゼロじゃなかろう!

確かに『The OA』は『ワンピース』とか『ストレンジャーシングス』とかに比べたらパンチは効いてないし、賛否が分かれる内容だと思う。何よりわかりづらい。こんなに好きなのに、あらすじが全然簡潔に説明できない。でも心に残すインパクトのでかさはピカイチだ

どうか続編を出してくれ!でもNetFlixだってビジネスやってんだから、視聴数が増えないとその決断はできないよね。と思ったので、私も私にできる活動をしよう、とnoteにこの想いをしたためました。だいぶ公開から時間が経っちゃってるけど。

それこそ7年だって待ってやるぜ。信じているぜ、NetFlix。

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