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プロジェクト遂行の「盲点」とは? ──〈想定外〉に陥らないための思考法

ビジネスの現場であっても、人生と同様に不確かなことばかりである。
本稿では、その不確かさに向き合ってみようと思う。私たちは少なからず、人生のどこかの時点で──それは職場でかもしれないし、プライベートでかもしれないが──、その不確実性に襲われることを避けられないからだ。
考えてみよう。あなたは今、成功が確実視されたプロジェクトに取り組んでいる。調査は済み、このプロジェクトはイケる、などと考えている。しかしそんな折に、想定外の出来事が「唐突に」起きる。
それは聞いたこともないような新技術が登場し、その商品が業界を席巻することであるかもしれないし、あなたの専門分野で新制度や条約に規制が入ってしまうかもしれない。さらにいえば、長年熟慮してついにローンチしようとしていた観光の新規事業が、猛威を振るう感染症により、無に帰してしまうことなどである。

これらは想定外かつ不可抗力の極端な例だが、そのような場合でなくとも、次のようなシナリオを考えてみてほしい。

シナリオその1:不吉な前兆はなかったか

チームで取り組んでいるプロジェクトがあったとしよう。チームワークの名のもとに、気付きもしないうちに、普段は賛成しないような考え方にさえも順応してしまうことがある。
あなたは「なんとなく視野の狭い考え方だな……」と感じながらも、反対意見をうまく表現できず、モヤモヤとしたまま。そうした考え方を正当化するようになる。確かに、ある瞬間のチームの生産性と調和は保たれたかもしれないが、後から振り返ってみれば、その方向性が間違っていたと気付いてしまうこともある。Disruptor(既存事業に対する“破壊者”)から教訓を得るような場合は、なおさらである。

英語ではこういうケースをしばしばこう表現する。

「The writing was on the wall(不吉な前兆)」

由来:聖書にある、王に迫る危機を知らせるメッセージが壁に書かれたという話が由来のイディオム。

シナリオその2:計画を立てただけで満足していなかったか

既に完了したプロジェクトについてはどうだろう? コツコツと全てのタスクをガントチャートに打ち込んで、時間の見積もりは完璧だと考える。しかし、プロジェクトが進んでいくごとに、これは想定より複雑で、予定より時間がかかると思い至る。その場合、往々にして予算も見積もりよりかかってしまうものである。
(あなたが典型的なA型行動パターンのタイプだったとしても、外的・内的要因があなたの道を塞ぐことは常にあり得るのだ)


集団思考の怖さ

シナリオその1を検討してみよう。職場での「集団思考」についてだ。
この用語は1972年に社会心理学者のアーヴィング・ジャニスによって使われ始めた。その代表的な研究の中で、彼は以下のように定義づけている:

親しくなったチームは、(無意識のうちに)錯覚を起こすことで仲間意識を育んでいる。その錯覚のひとつが、「無謬性の幻想」である。"リーダーとグループの両方が、この計画はうまくいくと確信しているならば、運は我々の側に味方するだろう"という根拠のない自信。

次に訪れるのは、「意見の一致」の幻想である。他のメンバーが同意するならば、反対意見は間違いであるに違いないと考え始める。誰もが「否定的なメンバー」になってチームの一体感を壊したくなくなってしまう。

最終的には、「このチームの一員になれてよかった」という結論に至る。ここまで来ると、危惧を表明するようなことは、チームからの排除を意味する。私たちの過去の歴史において、このような追放・村八分は死を意味した。それゆえ、私たちはチームの「お気に入り」にとどまりたいという強い衝動に駆られるのである。

今まで述べたような場面で、少なくともあなたの潜在意識下で、自身の思い込みや判断に問題があるかもしれないと感じていたかもしれない。しかし、あなたはそれを明確にすることをしなかった、あるいはそれらの内なる声を「聞かないこと」にして、無視することを選択したのである。


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楽観性バイアス

シナリオその2では、楽観性バイアスと呼ばれる現象について考える。いわゆる「計画錯誤」に陥っているケースの時どうなるか見ていく。
楽観性バイアスとは、私たちがポジティブな出来事を経験する可能性を過大評価し、ネガティブな出来事を経験する可能性を過小評価する傾向のことである。

楽観性バイアスは、私たち自分だけは大丈夫だと思わせ行動させる。例えば、新規ビジネスやエクササイズを始めることもそうである。それと同時に、そこには常に危険性がある。

概して、こういったバイアスが我々の行動様式にそれだけ影響を与えるか認識しておくべきだ。それが、ネガティブな結果や浅慮な決断をもたらすことがあるのだから。

知らないことを知らない

しかしそうは言っても、大体の困難な状況は想定外の場面で起こるものである。なぜなら、私たちはそんな状況を想像もしていないわけだから、どうやったら事前に察知できるのかわかりようもない(アメリカのラムズフェルド元国防長官が用いた「知らないことを知らない」のロジックである)。




それでは、どうやったらこれらの「盲点」を織り込んで機先を制することができるのか?

盲点を見つける4つの方法

ここでいくつかの考え方を提示したい。

1.先達に意見を求める
自身が今直面している問題の、同じ現場や似た経験をした先達の意見を求めること。その時はあらかじめ答えを予見するようなものではなく、自由回答を促すように、事前調査をしてから質問するべきだ。

デザイン・リサーチの分野では、私たちはよく、各分野の専門家にインタビューをして、企画の方向性を調整し、外部専門家と前提の検証を行う。そうすることで、私たちの盲点が明らかになり、それを基に軌道修正をすることができるのだ。

2.「プレモータム」の思考方法を実行する
プレモータム=事前検死。これはアメリカの心理学者のギャリー・クレインが推奨する方法である。「プロジェクトが失敗する」という前提のもとに、その原因を突き止めようとする試みだ。

もし、あなたのプロジェクトが失敗したと仮定すると、その理由はどんなことだろうか? これは、個人のプロジェクトでもチームのものでも、より悪い事態になると仮定して思考実験をすることで、集団思考において陥りがちな「マインド・ガード」を減退させる上で有効である。また、あなたがグループを率いている場合、「悪魔の代弁者」の役割を担う人を事前に指名することも可能である。その人物が人気者である必要はないが、最も重要人物になり得るだろう。

3.「暗黙の前提」を考え直す
すべての人、すべての領域に何かしらの「暗黙の了解・ルール」が存在していて、「こういう時はこうする」という前提ができあがっている。通常は、それらの経験則は活かされ、効率性をあげる枠組みである。しかし、時にはそれが裏目に出て、誰も疑問を抱かなかったために、進捗状況が妨げられ、可能性が制限されることがあり得るのである。

「現状の維持」に能動的に疑問を投げかけることは、イノベーションを起こす上で重要な布石である。例えば、3歳の女の子が投げかけた質問が世界を変えた話をしてみよう。1943年に、サンタフェの気持ちのいい天気の夕べに、女の子の父親は写真を撮影していた。

女の子は「なぜ今撮影した写真がすぐに見られないのか?」と父親に尋ねた。父親は、彼女の質問から得られた閃きを前に、少し立ち止まって考えてみた。彼は、早速その質問の答えを見つけようと試作を始めた。そして、その4年後の1947年にその成果としてポラロイドカメラが発売されるに至った。この商品は大成功をおさめ、70年を経た今でも売れ続けている。

4.水平思考を試す
視野の狭まりを打破するために「水平思考」を試してみよう。
「シックス・ハット法」というよく知られた思考方法がある。これは、デ・ボノによって提案され、よくディスカッションの場で用いられる。

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「シックス・ハット法」は、それぞれ異なった物事の見方を、あらかじめ想定された6つのカテゴリー(色で表現された帽子)に区分していくという手法である。その6つの色の帽子はそれぞれ、客観的、直観的、肯定的、否定的、革新的、俯瞰的という別々の意味合いを帯びており、さまざまな思考方法を表現している。
あなた、またはチームが各々の帽子の役割を担い、すべての視点と思考方法を網羅するようにする。もし、「水平思考」をより探求し、「デザイン思考的」にしたいのであれば、異なるパーソナリティや、異なるアプローチをする企業を考えてみるのも良いかもしれない。

特に「暗黙の前提」や「視野の狭まり」を引き起こす「思い込み」は、成長を阻害し可能性を制限し得る。
今回挙げたような「盲点」を完全になくすことはできないが、例示してきた思考方法を試すことは、自身の経験則と起こっている現実の齟齬を認知し、パフォーマンスを向上させるのに役立つだろう。


参考文献

1. Daniel Kahneman, Thinking, Fast and Slow (New York: Farrar, Straus and Giroux, 2011), p264. (Premortem example)
https://www.amazon.co.jp/Thinking-Fast-Slow-Daniel-Kahneman/dp/0141033576

2. Thomas Gilovich, Dale Griffin, and Daniel Kahneman (eds.), Heuristics and Biases: The Psychology of Intuitive Judgment: Roger Buehler, Dale Griffin, and Michael Ross, “Inside the Planning Fallacy: The Causes and Consequences of Optimistic Time Predictions,” (Cambridge, UK: Cambridge University Press, 2002), 250–70.

3. Edward De Bono: Six Thinking Hats
https://www.debonogroup.com/services/core-programs/six-thinking-hats/

4. Six Thinking Hats Miro template
https://miro.com/templates/six-thinking-hats/


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