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デニス・ウェストフィールド『外国人には奇妙にしか見えない 日本人という呪縛 国際化に対応できない特殊国家」

デニス・ウェストフィールド『外国人には奇妙にしか見えない 日本人という呪縛 国際化に対応できない特殊国家」(徳間書店)。電子書籍版はこちら↓
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 まさに衝撃の日本論。著者であるオーストラリア人ジャーナリストは、日本で暮らした親日家である。日本の食やアニメ文化の深さや、勤勉かつ高潔な国民性を高く評価している。だからこそ読んでいて、とても痛い。日本の政治って、どうしてこんなにダメなんだろう。いやそういう状況を許容しているわれわれ国民こそ、なんと情けないことなのだろうと溜息が出る。実質賃金の目減り、出生率の低下など数字がハッキリと提示されている。序章から国際的に沈下を続ける日本には耳に痛い、腹にこたえる内容である。しかも世界幸福度ランキングは47位。オーストラリアとの比較によって、日本の停滞と困窮を論じる。日本の政治家や官僚は、この本を是非読んで自らの無為無策を認識して欲しい。そしてそんな国会議員を選んで知らんぷりしているわれわれ国民も、オーストラリアの爪の垢でも煎じて飲むべきである。
1️⃣英語という呪縛
・自分自身もどれだけ『英語をやっておけば』と思ったことしきり。日本人が海外で活躍できない最大の理由。原因として日本の硬直した教育制度の罪は大きい。海外留学したこともない教師たち。教員免許にこだわって、外国人教師の道を閉ざし、ネイティブな英語に接する機会をほとんど失う子どもたち。だから英語が喋れない、日本人社会としかつきあわない、駐在国の人々に対して引きこもりの外交官など、とんでもない代物が出来上がる。
2️⃣画一的日本人をつくる文科省教育
・海外留学が学歴の足枷となるとして留学を止める教師たち。貴重な体験が奪われて、内向きな人間ばかりが育ってゆくことになる。世の中が文系学生ばかりに流れて、技術的に大切な理系学生を育てようとしない教育界。社会の側も学歴重視で、本人の実力や将来性に目を向けない。よく言われることだが、日本の教育は大学に受かることで終わり、大学で学ぶことに重点が置かれていない。
3️⃣丁寧・親切・そして傲慢症候群
・礼儀正しく、親切な日本人。特に接客における「お客さまは神さまです」の行き過ぎで、逆にお客の側がクレームモンスター化してしまう。ちょっとでも規格から外れれば、逆ギレして食ってかかる。立場の違いをカサに来て言いたい放題、やりたい放題。丁寧・親切転じて傲慢の限り。これは上司と部下、先輩と後輩、中央と地方などの関係に於いても、遺憾なく発揮される暴虐の限り。そこで生まれる過剰な自己防衛。だから虐めは、いつまでも経っても無くならない。
4️⃣世界標準からかけ離れた日本の新聞・テレビ
・他社を排除する記者クラブの存在。日本国内だけでなく、海外にまで存在する。あごあし付きの接待が当たり前の世界。ジャーナリストを育てない人事ローテーション。政府に従順に尻尾を振って、間違った政策にも異を唱えない。だから核保有問題についても、有名無実な答弁を繰り返す日本政府は平穏無事でいられる。テレビ局と新聞社が同じグループである「クロスオーナーシップ」は言論の多様化を阻む禁断の組み合わせが、日本では当たり前に存在している。
5️⃣自国を貶める、事なかれ外交
・東日本大震災の際の、豪州からの救援隊の受け入れも軍隊だからと断ってくる。国民の危急よりも、法律が優先する融通の効かない頑迷さ。中国など他国で邦人が拘束されても、日本政府は全く放置で救出に乗り出さない。刑期を終えて帰国しても、何の関心も示さず、マスコミが騒いだ時にだけ形式的な事情聴取に重い腰を上げる。コンセンサスに縛られて、国民の尊厳を全く守ろうとしない。巨大な官僚組織が、ただただ肥大化している。
6️⃣景気低迷は政府の失策となぜ見ない
・GDPの低下、大企業優先の施策、コロナ禍での国民支援の実質的乏しさ、不景気の増税、年金の目的外流用。日本の実質経済成長率は、ここ25年で−0.6%。オーストラリアは+2.9%、アメリカは+2.2%、イギリスは+1.6%、ドイツは+1.1%、韓国は+4.0%など、日本だけがマイナスを示している。過去8年で日本の実質賃金は89.7%と大幅に下落。オーストラリアは138.4%、フランスは126.4%、イギリスは125.3%、アメリカは115.3%。まさに政府や官僚の無策もしくは恣意的な悪用。にも関わらず、国民は何の抗議の声も上げない。 
7️⃣農産品輸出を阻むシステム
・自由貿易協定の発効後、日豪で、日本の得意な林檎や葡萄の豪への輸出は全く増えていない。逆に豪からの輸出は圧倒的に増えていて、むしろシェアを奪われているくらい。原因は豪の側にだけある検疫制度や、日本の役所が海外産の原材料の品質検査を回避していることにある。しかし日本政府は、そのような矛盾に何の動きも示さずに放置している。
8️⃣少子高齢化になぜ本気で取り組まないのか
・今や先進国で最低となった日本の出生率。出産・子育てに対する政策は低水準。出産率1.57を危機的にとらえず、そのうち2.0に回復すると安易な楽観見込みを立てて、実際には1.36まで落ち込んでいる。産む産まないはプライベートな問題として、35年間何の手も打ってこなかった。そして移民受け入れには全く消極的。背景には白人重視、アジア蔑視の人種的偏見も多い。人口が100万人減れば、100兆円の経済損失が発生する。日本は毎年35万人が消失している。この傾向は現在進行形である。日本だけが人口減少の道をひた走っていることに、世界は懐疑の目を向けている。
9️⃣変わらぬ政治、変える気がない国民
・低い投票率は組織基盤を持つ自民・公明に有利。今や中央の投票率は30%台、地方選挙では20%台。特に30代など若い人々が無関心。不在者投票の手続きも、利用し辛いこと甚だしい。2大政党制も根付かない。だからインターネット投票も導入されない。オーストラリアでは罰金を伴う義務投票制で90%の投票率。そして立候補に300万円も最低保証金を積まねばならない国は、世界で日本だけ。例えばオーストラリアは8万円で、無料の国も多い。国民の政界進出を拒んで、2世議員ばかり増える所以である。
🔟日本人という呪縛
・予定調和と現状維持に縛られている日本社会。日本の政治家も官僚も既成概念に縛られている。学校や社会で多様性が認められない。日本国内という内側ばかり向いている出版業界や和菓子業界など、内向きの典型。日本では人間関係が脆く、孤独に陥っている。人間の幸せは財力や容姿ではなく、いかに人間関係を結べるかにある。日本文化は第二次世界大戦以来の、ミッドナイト・クライシスの時期を迎えているのではないか。その文化は緩く進んでいる国難の時期を迎えて、改めて見直す時期ではないだろうか。


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