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『向日葵の咲かない夏』道尾秀介(新潮文庫)

☆4.0

夏休みを迎える終業式の日、休んでいたS君に届け物をするため彼の家へと向かったミチオ。
そこで見たのは首をつって死んでいるS君が揺れている姿だった。
学校に向かい事情を説明し警察を呼んでもらったが、刑事から聞かされたことにミチオは混乱する。
S君の死体などそこにはなかったというのだ。
S君は行方不明として捜査されている。
一週間後、妹のミカと過ごしていたミチオの前にS君は姿を変えて現れた。
彼は訴える。
「僕は殺されたんだ」と……


再読だったけど、その怖さは新鮮に感じる描写力です。
ミステリだし、ホラー。
妹のミカとのやりとりや、姿を変えたS君との会話に子供らしさがあったりするのに、母親のあまりに激しい態度の落差や家の中荒れ具合に心痛めたり。
しかし、読み進めていくと見えてくる光景はそんな思いすべてを凍らせる。

なかなかネタバレなしで語るのは難しい作品だけど、誰彼構わずオススメするのもちょっとはばかられる癖のある傑作です。
ひやー、すごいもの読んじゃったよ!
千街晶之さんの解説がまたとても良かったので、忘れずに熟読していただきたい。


以下ネタバレです。








ミチオ怖いよ〜〜〜!

考察しがいのある作品っぽいですね。
気になっていてずっと考えているのは、ミチオの、ミカとその他の生まれ変わりの扱いの違いです。

S君もトコ婆さんもスミダさんも、それは生まれ変わりであり、他の人には蜘蛛、三毛猫、百合の花に見えていることをミチオは認めている。
でもミカに関してのみ、「トカゲ」と言われることにミチオは激昂するのだ。
「ミカをトカゲなんて呼ばせない。誰にも」と。
最初の方でミカの絵を描いていたときも「トカゲじゃない!」と声を荒げてましたね。

これが何故なのかわからなくて考え込んでしまう。
思い当たることといえば、母親が流産したときに見たミカの写真で、その姿はトカゲと似た姿をしていたことだけ。
つまり生前(といって良いかわからないが)と同じ姿で現れたのはミカだけ、ということ。
ミチオにとってその姿は人間の形にまで成長できていないだけであり、今目の前にいるミカは「人間」なのかもしれない。

他にもラスト父親と母親は何の姿に生まれ変わったのだろうとか、タイトルの意味は何だろうとか、他の人の考えを聞いてみたいですね。



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