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リサーチ・ビジョン・アクションのループをもっと回したい|2023

2023年2月にキックオフした新連載「公共R不動産研究所」。すぐに結論は出ない断片的な素材を少しづつ記録しながらオープンな場で議論を積み重ね、次なるプロトタイプや提言に繋がれば。そんな気持ちでメンバーと議論を重ねたり記事を執筆したりしているうちに、2023年年末時点で記事は21本に。

公共R不動産なら「研究所なのにポップ」みたいなノリになりそうなところ、メンバーの関心と議論はどんどん熱くガチになっていきました。「重厚長大にならないように、軽めのものも出していこうね」と言っているのに、放っておくと記事はどんどん長くなる一方。そう言っている自分が特に長くなりがちです。

...読み応えがあると受け止めて頂ければ幸いです。記事をお読み頂ければなおありがたいです。

連載「公共R不動産研究所」

矢ヶ部は普段、公共R不動産だけでなく、アフタヌーンソサエティ、PPPリサーチパートナー、Public Pivotなど複数の関わりを持っています。これを厳密に書き分けるのは難しいので、今回はこの「公共R不動産研究所」を進めている中で、矢ヶ部個人が感じていること、触発されていること、さらに認識を新たにしたことなどを書いてみたいと思います。

最後は勢い余って、いま自分が感じている危機感や焦りに気づいてしまいました。


公共R不動産研究所に触発されていること

研究員の書評コーナー「読んでみた!」は
「世界の見え方が変わったぜ」体験レポート

「読んでみた!」シリーズは、研究員の書評コーナーです。これまで取り上げたのは以下の5冊。

研究員が議論を進める中で、自分が何に関心があるのか、なぜ自分がこうしたものの見方をしているのかを提示するのですが、その際語られるのは基本的には自分が「体験」したことです。この「体験」には、書籍を読むことも含まれます。強い印象を受けた書籍は、読む前と読んだ後で世界の見え方が変わると言う「体験」をします。こうした書籍の引用は、論じる根拠としての引用というより、もはや自分の「体験語り」です。

「読んでみた!」は書評の体裁ではありますが、研究員の「書籍により世界の見え方が変わったぜ」体験レポートだとも考えています。

さらに記事では、その体験レポートの後で研究員同士が意見交換をする様子も収録しているんです。「研究員のアディショナルノート」と言っていますが、質問、感想、触発されて考えたこと、やってみたくなったこと、議論が進んでさらに分からなくなったこと等々、研究員が実際に議論したものを要約したり端折ったり整えたりして記事にしています。

「読んでみた!」研究員の書評コーナー
vol.01 『オームステッド セントラルパークをつくった男:時を経て明らかになる公共空間の価値』
vol.02 『もんじゃの社会史 東京・月島の近・現代の変容』
vol.03 『“遊び”からの地方創生 – 寛容と幸福の地方論 Part2』
vol.04 『チームの力 – 構造構成主義による“新”組織論』
vol.05 『ケアのロジック – 選択は患者のためになるか』

公共R不動産のお家芸・妄想会議。
目下のテーマは「Public Space Chart(仮)」

研究員が目下取り組んでいるのが「Public Space Chart(仮)」です。公共空間のあり方も使われ方も多様化する激動期の今、あらためて「公共空間を客観的に評価できる指標をつくってみたい」という壮大な野望を抱く研究員を中心に、議論を進めています。

「PSC」はガチで手探りで進んでいて、現在進行形です。記事としては2回分アップしていて第3回目を準備中です(2023/12/28時点)。議論の中で、研究員が「良い」と思う公共空間の勝ち軸の多様性や、これまで体験してきた中で必要だと考えるに至った視点、関心の所在を表明していくと、分かってはいたもののあらためて「公共」という海の多様性・重層性に遭難する感覚に陥ります。

ただ、そのプロセスも含めてオープンにしていくことそのものが大事な気がしています。また、第1回目にそれこそ議論の航海図のような仮説を立てているのですが、なんだかんだ言いながらも実はそこからは大きく外れてはいないとも思っています。もう少し進むとフォーカスするところがはっきりしてきて一度スッキリして、それでツールとして具体化するときにもう一回溺れるんじゃないかな…

ちなみに僕が欲しい風景は「都市のマイノリティが同じ空間の中で棲み分けながら笑顔でいる風景」です。にぎわいとか苦手なんです。

公共空間のみちしるべをつくりたい 「Public Space Chart (仮)」妄想会議
#01 「Public Space Chart(仮)」の目指すもの/多様な目線を取り入れる/公共空間で何かをやりたい人の武器に/エリアの状況を前向きに捉え、必要なことを見極める/適用できる空間を妄想してみる/Public Space Chartが実現した未来とは
#02 公共空間まわりの既往評価を眺めてみた/まずは空間を記述したい/既往評価を眺めてみる/対象にするスケール/既往の評価が注目しているポイント/改めて空間を記述したい/5つの宿題

あと、この「妄想会議」スタイルは公共R不動産のお家芸です。

書籍『公共R不動産のプロジェクトスタディ - 公民連携のしくみとデザイン』の中に収められたコラム「妄想企画」からは、「トライアルサウンディング」が生まれました。トライアルサウンディングは実際のプロジェクトに落とし込むところまで行きました。実施する自治体も増え続けています。

連載「クリエイティブな公共発注について考えてみた by PPP妄想研究所」からは、『公募要項作成ガイドブック - クリエイティブな公民連携事業のための公共発注』が生まれました。書籍注文は続いていて、2023年は在庫が足りなくなって増刷もしました。

遊び心のあるツールやプロダクトと言えば、日経BPとのコラボレーション企画「PPPまちづくりかるた」があります。公民連携あるあるを恨み辛みではなくブラックジョークにアウトプット。こういうスタンスを忘れずにいたい(ちなみに個人的にはPPPボードゲームを作ってみたいです)。

公共R不動産は当初からずっと、リサーチ(取材)・ビジョン(妄想)・トライアル(実験)を繰り返すチームです。こうしたノリのある企画を自分で立ち上げ、そのテンションやトーンを保ち続けるメンバーを見ると、ただただ尊敬の念しかありません。

ただつくりっぱなしで、ちょっとフィードバックループが弱いところもあります。そこは自分が強いところかなと思ってます。

軽妙さはないが読み応えはあると思う
「公共不動産データベース」担当の頭の中

「公共R不動産研究所」の中で、矢ヶ部は公共不動産の物件カテゴリーをもとに考察を繰り広げる記事を連載しています。学校、公園、土地、文化・スポーツ施設、等々。多岐にわたるカテゴリーのある公共不動産の、それぞれの抱える課題を取り上げ、エッセイ的に綴る。そんな設定ではじめた連載です。

記事自体の振り返りはこちら↓のnoteでも書いているので端折りますが、エッセイと言いつつ軽妙さからはほど遠いトーンになっています。「重厚長大にならないように、軽めのものも出していこうね」と言っているのに、放っておくとどんどん長くなるのは、まさに自分です。

当たり前のことをちゃんと書く。これが公民連携分野では、実はなかなかできていないのでは?と思っています。

自分が当たり前と思っていることを誠実に伝えようとすると、その前提となる考え方や体験、状況認識や課題認識に触れざるを得ないはずです。そこから逃げた事例レポートばかり増えることを問題視しています。ちゃんと言語化すること、あるいは言語でなくても何らかの形で可視化することが、公民連携分野においてはもっともっと必要だと考えています。

その想いが強いあまり遅筆になったり長文になったりして、2024年に持ち越すテーマもあります。そこは反省しつつ、でも2023年に頑張って書いた分、今後はだいぶ書きやすくなるのではと期待しています。次回#04「民間のパブリック空間(仮)」の準備が終わって気が大きくなっているだけの勘違いかもしれませんが。

「公共不動産データベース」担当の頭の中
#01 ポピュラーなカテゴリー「学校/廃校」の話
#01 研究員のアディショナルノート〜「学校/廃校」編
#02 もっと不動産活用の実験をしよう!!「土地」
#02 研究員のアディショナルノート〜「土地」編
#03 社会の多様性を現す最先端 社会教育施設編
#03 研究員のアディショナルノート〜「社会教育施設」編

いま感じている危機感や焦り

公共R不動産研究所ができて表現しやすくなった
ゆえにさらに強まる危機感や焦り

「公共R不動産研究所」に触発されていることを挙げてきました。これまで抱えてきた課題意識や掘り下げたかったことが「公共R不動産研究所」という舞台ができて表現しやすくなったところはあります。言語化・可視化・構造化は自分の大事なツールです。

一方でそれには収まらない、「リサーチ・ビジョン・アクション」のフィードバックループをさらに大急ぎで回さないと追いつかない焦りも、ますます強まっています。

特に「まちのビジョンとアクションとフィードバックの構造化」と「まちを変える複線型都市政策への再接続・再構築」について。言葉が抽象的すぎて伝わらないかもしれませんが、少しだけ触れてみます。

アクションのないビジョンは絵に描いた餅として批判される一方、ビジョンのないアクションは迷走して継続しない。必要なのは二項対立ではなく統合的思考だが、複雑になると伝わりにくくなってしまう。また、一つのことを多面的に捉えただけの専門分化が、分野ごとのイシューに分けられて用語も制度も部署も違うことにより、もう一度これを統合的・構造的・複線的に接続することができずにいる。

何だかそのあたりに、圧倒的に言語化・可視化・構造化できていないことが多いと感じています。そして信念対立を延々と繰り返したり、あるいは、手段と目的の混同、プリンシプルとフィロソフィのないアクションが増えてたりすることに危機感があります。

暮らしたい未来を妄想して
不動産の使い方を変えると
まちのあり方が変わる

いや、やはり勢いで書き散らかすのは難しいですね。またおいおいちゃんと書きたいと思います。そしてガチになって熱くなってしまいますね。

いずれにしても「まちを変える」は軸にし続けます。

公共的な空間が、地域の価値形成の鍵を握っている。暮らしたい未来を妄想して、不動産の使い方を変えると、まちのあり方が変わる。都市型産業の創造と地域課題の解決を結び、新しい暮らしの選択肢を増やし、暮らしの質とエリアの価値の向上を目指そう。

公共R不動産、アフタヌーンソサエティ、PPPリサーチパートナー、Public Pivot。それぞれ引き続き取り組み続けます。

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