【詩】 父が詩人にしてくれた

父が詩人にしてくれた
むすめの私をむすめと扱い
むすめとしてしか見てくれなくて
わしの娘と自慢して

母がもの書きにしてくれた
字を書くことを禁止して
あることないこと書くのを恐れ
お話づくりをやめさせて

おとうさん わたし
詩人になった
あなたのことを書いて

おかあさん わたし
もの書きになれた
あなたのことを書いて

買ってもらった文学全集
毎週土曜の習字教室
毎月はじめの学習雑誌
どれでも選べるマンガや本

父も言う 母も言う 兄も言う
本はうちはいいんだよ
なんでも買っても

見えないものばかりに金を使うと
私にあきれるあなたたちが
年に2回の家族旅行で
いつも言ってた
金のことは子供は言うなと

あなたたちは
勉強しろとは言わないけれど
塾には行かせてくれないけれど
特には ほめてもくれないけれど
成績いいのを ひそかによろこぶ

おとうさん おかあさん
ふたりがくれた
私の野心
でも それは
あなたたちが ないことにした

娘に金は使えないと
女と男は同じじゃないと
どうして偉くなりたいんだと
そんな私が心配になると
早く嫁にでも行くべきだと

でも

おとうさん おかあさん
ふたりがくれた
私のあたりまえは
どの子供でものあたりまえ
じゃなかったんだね

高校に行けなかったのは
あなたたちだけじゃない
ふた親そろってなかったのは
あなたたちだけじゃない
本もマンガも旅行もなしで
育つ子どもがいる
殴られて無視されて
つらい目にあう人がいる
時代の言いわけもないのに

おとうさん わたし
詩人になった
あなたのおかげで

おかあさん わたし
もの書きになれた
あなたのおかげで

あなたが私に書くことを
禁じる前の4才の時 
お話ノートに書いたのは
がけから落ちたお姫様を
猿が助けてやる話

一度がけから落ちた私は
もうお姫様でない私は
今度はその猿になろう

猿になって
誰かを助ける
猿になって
お姫様を救う
ものを書いて
詩を書いて

おとうさんへ おかあさんへ
あなたが詩人にしてくれた
だから 私は詩を書きつづける
ほかのひとのために
あなたたちでない だれかのために
自分のために


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