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【掌編小説】鳥人間コンテスト #4

「人は、自分が死を迎える間際まで、自分の死を受け止められない」
「分かった振りはできても、死の瞬間まで、理解することはできない」

目が覚めると、燈子は屋上で、例の鶏男に抱えられていた。
うまくものを考えることができないが、どうやらまだ落ちても焼けてもいないらしい。


あとで知ったことだけど、鶏は対象に触れることで、模擬的に相手の眼前に『死』を見せることができる。

だから相手を峰打ち的に「殺す」ことができるし、死に関する催眠を解除することもできるらしい。私は後者の方だ。

地面に下ろされたあとも、まだ足の震えがおさまらず、すぐに立ち上がることができない。足を左右に折り曲げたまま、その場にへたりこむ。


「君は、烏丸に操られていた」
「明日になれば、多くの若者の自殺が報じられることになる。自分は飛べると信じて、気づいたらビルから飛び降りている。いわゆる集団催眠だ」
この男は、何を言っているのか。烏丸を知っている?

「奴は毎年、わざと九月一日に合わせて全国の自殺者を募り、若い連中の背中を押してやがる。『鳥人間コンテスト』なんて悪趣味な名前までつけやがって」

鶏は、燈子が理解することなど最初から念頭にないようだ。白いコートの埃をはらうような仕草をし、その場を立ち去ろうとする。

「学生。夜に弱さを見せるなよ。身体ごと持っていかれるぞ」



もう少しで、夜が明けようとしている。東の空から徐々に青白い光を帯びた空が近づいてくる。

これが、私と鶏との出会い。

遠くから声がする。
「一番簡単な方法はね、絶望している人に、希望を持たせることだよ」

広告塔の屋上から、カラスが飛び立った。  

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