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【掌編小説】政治家の素養



 演説中に倒れた政治家がいた。その政治家は病院に搬送されたものの、点滴を打つとすぐに選挙活動に戻り、その模様がたまたま報道され、当時ちょっとしたニュースとなった。その候補者は再選を果たした。

 次の選挙では、候補者は腕に包帯を巻いた者、松葉杖をついた者、車いすに首にギプスをつけて出馬する者などが相次いだ。一見、怪我も病気もしていない者も、社会的に弱い人の気持ちが分かると言った。われ先に、人に弱みを見せる選挙となった。
 その中で注目を集めたのは、何事にも動じないメンタルと、フィジカルが強い元スポーツ選手の候補者だった。彼は無所属ながら初当選を果たした。

その次の選挙。いやにガタイの良い候補者ばかりのポスターが掲示板に張られた。何も知らなければSASUKEの全国大会かと思うような面子だった。顔写真の横に全身の等身が分かる写真を載せていかに自分が恵まれた体格かをアピールしたり、過去の大会実績を書く者もいた。
 選挙活動は二十四時間テレビ内でのマラソンのように、たすきをかけたTシャツ姿の候補者が街中を走り回る様相となった。
 テレビ局による公開討論番組の中で、たまたま日本のコンテンツ産業の将来と、企業による文化芸術活動の支援について質問された候補者が、
「自分よくわからないっすけど、日本のために汗をかいて頑張ります」
と言った。メセナはウィンブルドンを制したプロテニス選手のことだと勘違いしていた。


その次の選挙。芸術や教養、リベラルアーツに理解のない人間では国政は任せられないという声に応え、各政党は次々に好感度の高いアーティストやミュージシャンを擁立した。
 各候補者や音楽団体は、選挙活動をより透明性が高く自由なものに変えたいと願った。支援者とファン、サポートメンバーがひとつになれるオリジナルソングを作り、ダウンロード数を競い合った。街中の壁にペンキを塗ってはパブリックアートを作ったり、チャリティーオークションを開催して、クリーンな政治活動をアピールした。

 彼らの創作活動の共通テーマはこうだ。
『ALL YOU NEED IS POLICY』
 政策がすべて。

(了)




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