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桜の香り

◇◇ショートショート

公園の土手沿いに植えられた桜からピンク色の花びらがはらはらと散っています。その花びらが水面に舞い落ちる様子を眺めながら和也かずやはふと祖母のことを思い出していました。


桜はおばあちゃんが好きな花でした。

桜のシーズンになるとおばあちゃんは嬉しそうでした。年のせいで桜の花もぼんやりとしか見えなかったおばあちゃんでしたが、香りにはとても敏感でした。

「和也、明日には桜が咲くよ、開花宣言すらい絶対に」まだ咲きそうな気配もないのに、おばあちゃんはそう言うのです。
「和也、昨日から微かに杏仁豆腐のような甘い香りがするんよ、桜の花が咲く前にはこの香りがするけんねー、絶対開花するよ」
「おばあちゃん、僕には杏仁豆腐みたいな香りなんか分からんわい」
そう言うと、おばあちゃんは、
「あんたのお母さんも分かるんよ、お母さんに連絡しとおき、一緒にお花見にいかんといかんけんね」

和也はおばあちゃんにそう言われて、離れて暮らしているお母さんに電話をしました。
「お母さん、おばあちゃんが、明日には花が咲く言よる、散る前までにはお花見しょうや」
するとお母さんが、電話口でこう言いました。

「お母さんも電話しようと思いよったんよ、昨日から杏仁豆腐みたいなの香りがしよるけん、週末には一緒にお花見に行こや」
「ふーん、お母さんにもその香りが分かったんか・・・」

そんな会話をした翌日、和也が公園に行くと桜が二輪咲いていたのです。
家に帰っておばあちゃんに報告します。

「やっぱり、おばあちゃんが言う通りじゃった、おばあちゃんは鼻がきくんじゃねー」
「和也、ほうじゃろう、おばあちゃんは桜の精とお友達じゃけんね、桜を愛する気持ちがあったら、花が咲く時期を教えてくれるんよ」
「へー、桜の精が教えてくれるんか、匂いで・・・」

和也は、おばあちゃんとの遠い昔の会話を思い出しました。

その時です。
水面を流れる桜の花が、和也に話しかけました。

「和也、あんたおばあちゃんの事を思い出してくれたんかね、そりゃ嬉しいねー、あんたと見た桜はおばあちゃんの一番ええ思い出よ、毎年桜見たらおばあちゃんの事思い出してや」
「おばあちゃん、なんで今頃そんなこと言うん」
「おばあんちゃんは毎年あんたに会いたいけんねー、あんたに桜が咲く頃教えてあげらい、杏仁豆腐みたいな桜餅みたいな香りがしたら咲くけんね、見に来てや、お母さんと一緒にね」

和也は、川に流れていくピンク色の花びらをずっと眺めていました。

翌年から不思議なことに、和也は桜の花が咲く前の杏仁豆腐のような微かなの香りが分かるようになりました。


【毎日がバトル:山田家の女たち】

《花にも心があるけんねー》

※92歳のばあばと娘の会話です。

「匂いが分かるといいねー、私はあんまり香りが分からんけんねー、おでんのカラシくらいしか分からんのよ」

「お母さん、この物語はどうかなー」

「おばあちゃんと孫の雰囲気がええよ、ほのぼのしとる、花も人に会いたいと思て咲くんかなー、花にも心もあるけんねー」

私が書いた物語に母が心を動かせてくれたようです。桜の香りのショートショートが書けてよかったです。

最後までお読みいただいてありがとうございました。
たくさんある記事の中から、私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただき心よりお礼申し上げます。
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また明日お会いしましょう。💗


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