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モーパッサン『脂肪の塊』を読んで

『脂肪の塊・テルエ館』モーパッサン 1951.4.17 発行  新潮文庫

内容
 プロシア軍を避けてルーアンの町を出た馬車に、“脂肪の塊”と渾名あだなされる可憐な娼婦がいた。空腹な金持たちは彼女の弁当を分けてもらうが、敵の士官が彼女に目をつけて一行の出発を阻むと、彼女を犠牲にする陰謀を巡らす――ブルジョア批判、女性の哀れへの共感、人間の好色さを描いて絶賛を浴びた「脂肪の塊」。同じく、純粋で陽気な娼婦たちと彼らを巡る人間を活写した「テリエ館」。

裏表紙より

【背景】

 フランス文学の特徴として、人間性の探求、観察があります。書き出しは、全体の環境(置かれた環境)から個人(主人公)、遠から近に描写されています。

 普仏戦争は、フランスとプロイセン(プロシア、現在のドイツ)との戦争で、プロシアが軍事拡大したことでフランスに戦争を仕掛けました。

 ギ・ド・モーパッサンは、母の兄の親友である一流作家のフローベルのもとで修業。ギ・ド・モーパッサンの「ド」は貴族の出を意味します。
 大学在学中に戦争を体験(20歳)。『脂肪の塊』はデビュー作(30歳)。大食い大酒飲み、派手、アウトドア、病気持ち梅毒。自殺未遂の後、精神病院に収容され、そこで生涯を閉じました。

『脂肪の塊』

いずれ劣らぬ災難ながら、こういうのに見舞われたが最後、今まで信じていた永遠の正義というやつに狂いが生じてくるのである。教えられたとおり、天祐だの人知だのを信頼していたのが怪しくなってくるのである。

『脂肪の塊・テルエ館』モーパッサン 12‐13頁

 天祐=神の加護はキリスト教のように神の教えに従えば、必ず救ってくれる、いつも見守っているといったことを意味しています。

 人知=人間の理性は助け合いなどの善悪の判断が備わっていますが、戦争や自然災害など危機的な状況や災難が起こった時には、これらの永遠の正義といわれるものが裏切れることになるということを意味しています。
 例として、災害の時に盗難等の犯罪があったりすることが挙げられます。

3組の夫婦(6人)の人物

■ロワゾー
 ロワゾーは背が低く太っておりずる賢い性格の持ち主。その上お金持ちで信用できないイメージ。

ロワゾ―婦人 
 ロワゾー夫人は大柄で恐くてケチそうなイメージ。

■カレ=ラマドン 
 カレ=ラマドンは上流階級でフランスでは名誉な賞を受賞した人で県会議員。もったいぶって座っていたということで偉そうなイメージ。

■カレ=ラマドン夫人
 カレ=ラマドン夫人は若くて美人で良家出身のフランス士官たちにモテる人で、夫と年齢差があるため金目当ての結婚とみられるので、腹黒そうなイメージ。

■ユベール・ド・ブレヴィル伯爵
 ユベール・ド・ブレヴィル伯爵は高貴ある家名の貴族で、フランス国王アンリ4世に似ており、その上に似せようとしていたことから自分は偉いということを見せたいイメージ。

■ユベール・ド・ブレヴィル伯爵夫人
 ユベール・ド・ブレヴィル伯爵夫人は気品があり、謎に包まれている。また、フランス国王の息子から想いを寄せられたという噂から手玉にとるのがうまいイメージ。

 彼らの共通点として、自分の財産を持っていて、社会的地位も高い人たちです。また、馬車の席順から、いくら位が高いとはいえお金を一番持っているロワゾー夫妻が最上席に座っていることから、この時代はお金が一番重要視されていることがわかります。 

もっとも、コルニュデがラム酒を水筒に入れて持ってきていた。みんなに勧めてみたが、あっさり断られてしまった。ロワゾ―だけが三杯受けたが、…

『脂肪の塊・テルエ館』モーパッサン 31頁

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